- 機械製図「ドラトレ」シリーズ
《初心者向け》やさしい図面の書き方 最新JIS製図と図解力完成(セミナー)
2024/12/13(金)10:00~17:00
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今や、IT関係でも「エンジン」という言葉が使われるようになりました。
車両などに使われる”エンジン”とイメージを無理やりつなげて理解すると 「ソフトウェアを動かし、ある特別な機能を果たすもの」というような意味で使われているのでしょうか?
今回のコラムは、車両用などに使われる方の”エンジン”の話です。
“エンジン”は、その切り口によって呼び名(種類)が山ほどありますので、少し整理してみましょう。
日本では電気自動車の動力源を「モータ」(モーター)と呼んでいますが、元々はエンジンもモータでした。
エンジンのドイツ語は今でも”motor”(モートア)で、フランス語でも”Moteur”(モトュール)、そしてイタリア語でも”motore”(モトーレ)です。
通常、日本で使う「モータ」という言葉は、”電気モータ”から “電気”が取れて、モータといえば電気モータ?となったものでしょうか。
工学的に言えば、エンジンは「原動機」あるいは「発動機」で、熱機関の一つです。
ホンダの創業者である本田宗一郎さんが開発して大ヒットした”バタバタ”は、自転車にエンジン、すなわち「原動機」を装着したもので、まさに”原付”、「原動機付き自転車」でした。
一方、電気モータは「電動機」とも呼ばれますね。
「電気自動車の普及が進み、20xx年にはエンジンだけの車が無くなる」というような説明の時に、「エンジン」という言葉の代わりによく使われる言葉が「内燃機関」です。
燃焼機関には「内燃機関」(internal combustion engine)と「外燃機関」(external combustion engine)があります。
下図(A)に内燃機関と外燃機関の原理の比較を示します。
内燃機関では、シリンダ内で燃焼がおこなわれ、その燃焼による膨張ガスがピストンの往復運動を生み出し、これを回転運動に変換して動力とします。
一方、外燃機関では、燃焼はシリンダの外部で行われ、発生する膨張ガスや蒸気をシリンダに導き、ピストンの往復運動を生み出します。
図(A2)では、内燃機関との差を説明するために、ピストンの往復運動を発生させる外燃機関の例を図示しましたが、外部燃焼加熱により生み出した膨張ガスの使い方として、タービン(羽根車)の回転運動を発生させるために使うこともできます。
この場合、タービンの回転を直接動力として使う場合と、タービンの回転により発電を行い、その電気エネルギーを動力に変換して使う場合があります。
外燃機関の例としては、蒸気機関や蒸気タービン、そしてスターリングエンジンなどがあります。
エンジンの代表的な分類名でありながら、「ガソリンエンジン」と「ディーゼルエンジン」は、呼び名の切り口が異なります。
ガソリンエンジンは、使用する燃料を使って表現しているのに対して、ディーゼルエンジンは発明者の名前を使っています。これら二つのエンジンに対して、他の呼び方での分類を説明します。
以下図(B)で表すように、着火方法の違いから、ガソリンエンジンは「火花点火エンジン」(SIエンジン、spark ignition engine)に、ディーゼルエンジンは「圧縮着火エンジン」(CIエンジン、compression ignition engine)に分類されます。
なお、「火花点火」を「強制着火」、「圧縮着火」を「自己着火」と呼ぶ場合もあります。
燃料の火花点火性を表す指標がオクタン価で、圧縮着火性を表す指標がセタン価です。
SIエンジンにはオクタン価の高い燃料が、CIエンジンにはセタン価の高い燃料が必要となります。
SIエンジンで用いられる代表的な燃料がガソリンで、CIエンジンで用いられる代表的な燃料が軽油ですが、LPG(Liquid Petroleum Gas、液化石油ガス)はSIエンジンで用いられ、重油は舶用CIエンジンで用いられ、DME(ジメチルエーテル)を用いるCIエンジンも開発されています。
一方、CNG(Compressed Natural Gas, 圧縮天然ガス)、アルコール燃料、バイオ燃料、あるいは合成燃料などは、両方のエンジンに用いられます。
これらでは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンの構造をベースに、必要な特殊な構造を加えたり、燃料に適合するための制御を行っています。
ディーゼルエンジンでは、急激な燃焼によるNOx(窒素酸化物)の発生を抑制するためにガソリンエンジンのような均一で予混合された燃焼の開発がおこなわれ、一方、ガソリンエンジンでは、燃費を向上するために、ディーゼルエンジンのような自己着火燃焼も組み合わせた燃焼の開発が行われています。
エンジンの分類として、部品の動きをもとにする呼び方もあります。
上図(A)で示すようなピストンの往復運動を“レシプロケーション”(reciprocation)というため、このような動きをするエンジンは「レシプロエンジン」と呼ばれます。
一方、燃焼・膨張ガスで、おむすび型のピストンを回転運動(rotation)させるエンジンは「ロータリーエンジン」と呼ばれます。
(レシプロエンジンという呼び名は有名ではありませんが、ロータリーエンジンは有名ですね)
レシプロエンジンでは、ピストンの往復運動を回転運動に変換しなければなりませんが、ロータリーエンジンでは、最初から回転運動としてアウトプットできるという原理的な合理性があります。
(その分、技術的な難しさもありますが・・・)
「4サイクルエンジン」あるいは「2サイクルエンジン」という呼び名は図(C)で示すように、エンジンでの[吸気 ➞ 圧縮 ➞ 爆発 ➞ 排気(掃気)]を4ストロークで行うか、2ストロークで行うかで分けています。
2サイクルエンジンは、4サイクルエンジンに比べ構造的に小型・軽量化および高出力化に対して有利ですが、ガス交換が分離されておらず、各行程を最適化・制御して排ガスのクリーン化を行うような設計することが難しいとされています。
以下図(D)に例を示すように、エンジンの熱サイクルプロセスを表すために、「pv線図」と呼ばれる線図が用いられます。pはシリンダの圧力、vはシリンダの容積を表します。
吸気によりシリンダ容積vが増加、圧縮により低減、燃焼・膨張により増加、そして排気により低減というような容積の変化と、それらと同時に起こるシリンダ内圧力pの変化をグラフとして表します。
(熱効率の検討には、pvが変化するときの温度変化特性も重要です)
吸気、圧縮、そして排気は、熱機関に必要とされる仕事で、燃焼・膨張は、燃機関により得られるエネルギーを示すため、pv線図により熱機関の効率を知ることができます。
図(D1)のような熱サイクルを「オットーサイクル」あるいは「定容サイクル」、図(D2)のような熱サイクルを「ディーゼルサイクル」あるいは「定圧サイクル」、そして図(D3)のような熱サイクルを「サバテサイクル」または「複合サイクル」と呼びます。
図で示すように、燃焼時に容積v一定の変化をするのか、あるいは圧力p一定の変化をするのか、もしくはその両方を伴うのかという特徴があります。
定容サイクルはガソリンエンジンのような火花点火式エンジンの熱サイクルで、このためガソリンエンジンは「オットーエンジン」とも呼ばれます。
定圧サイクルは、ルドルフ・ディーゼルにより発明された熱サイクルで、エンジンの名前にも使われていますが、現在の車両などに用いられている中・高速ディーゼルエンジンは定容燃焼(予混合燃焼)と定圧燃焼(拡散燃焼)の両方をともなうため、ディーゼルサイクルエンジンではなく「サバテサイクルエンジン」です。
ガソリンエンジンとディーゼルエンジンにおける分類で燃料と空気の混合や燃焼室のレイアウトや燃料噴射に関するものを以下図(E)に示します。
直噴エンジンでは燃料噴霧の微粒化が重要で、そのために高圧噴射を行います。ガソリン直噴のインジェクタの噴射圧力は200気圧(20MPa)以上に達しますが、ディーゼル直噴では2500気圧(250MPa)以上で噴射する仕様もあります。
点火による強制着火か圧縮自己着火か、そして使用する燃料の差によって、燃焼最適化のアプローチも変わります。一方で、究極の燃焼を追求していくと共通点も多くなります。
pv線図で考えれば、同じような合理的な共通解に進んでいくのかもしれませんね。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・N)