電子機器の防水規格(IPX)を基礎から解説!IPコードの表記、防水等級、試験方法等がわかる

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防水 スマートフォン

当連載は「電子機器における防水技術~Advanced Waterproof Hardware Design for IT Devices~」をテーマとして、防水設計に関する専門家である鈴木崇司講師が解説します。

現代の電子機器は、私たちの日常生活に欠かせない存在となっています。しかし、これらの機器が水にさらされると、故障の原因となることがあります。そこで重要なのが防水規格です。
第1回は、「IP/IPX規格」について詳しく解説し、防水と耐水の違い等についても触れていきます。

1.IP/IPX規格とは?

IPコード」(IP:”International Protection”)とは、電子機器の筐体がどの程度外部からの侵入物(固形物や水)に対して保護されているかを示す規格です。

IPコードは「IP」の文字の後に2つの数字が続き、前の数字が防塵性能後ろの数字が防水性能を表します。
例えば、「IP57」とは、5級の防塵性能と7級の防水性能を備えていることを示します。

IPコードは、IEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議)によって定められた国際規格であり、電子機器の信頼性と耐久性を確保するために非常に重要です。特にスマートフォンやウェアラブルデバイスなど、日常的に使用される機器においては、防水性能が求められます。

IPコードは、電気機器などの筐体(エンクロージャ)が、埃や水などの侵入に対してどの程度保護されているかを示す国際規格であるため、IPコードが適用される対象は、筐体を持つあらゆる電気機器となります。
具体的には、以下のようなものが挙げられます。

  • 家電製品: スマートフォン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコンなど
  • OA機器: パソコン、プリンター、スキャナーなど
  • 産業機器: 工作機械、ロボット、制御盤など
  • 照明器具: 屋外灯、街路灯、防犯灯など
  • 自動車部品: ヘッドライト、テールランプ、カーナビゲーションシステムなど
  • 医療機器: 診断装置、治療機器など

これらの機器以外にも、筐体を持つ電気機器であれば、IPコードが適用される可能性があります。

IPコードにおいて、防水性能のみを示すときは「IPX」で表記します。上述のように”IP”の後に続く3文字目は防塵性能の指標を示していますが、ここに”X”を入れることで防塵性能での指標ではないことを表し、防水性能(防水等級)だけを表す指標としています。

 

等級の表し方

 

2.防水等級の詳細

IPコードの防水等級(防水グレード)は0から8まであり、それぞれの等級は以下のように定義されています。

  • IPX0: 無保護
  • IPX1: 鉛直に落下する水滴に対して保護
  • IPX2: 15度以内で傾斜しても鉛直に落下する水滴に対して保護
  • IPX3: 散水に対して保護
  • IPX4: 水の飛まつに対して保護
  • IPX5: 噴流に対して保護
  • IPX6: 暴噴流に対して保護
  • IPX7: 水に浸しても影響がないように保護
  • IPX8: 潜水状態での使用に対して保護

これらの等級は、製品がどの程度の水に対して耐性を持つかを示しています。
例えば、IPX7の製品は、水に浸しても影響がないように設計されており、30分間水深1メートルに浸しても問題がないことを意味します。
一方、IPX8の製品は、さらに厳しい条件下での使用を想定しており、継続的な潜水状態での使用が可能です。

 

3.防塵等級の詳細

防塵等級は0から6まであり、以下のように定義されています。

  • IP0X: 無保護
  • IP1X: 直径50mm以上の固形物体が内部に侵入しない
  • IP2X: 直径12.5mm以上の固形物体が内部に侵入しない
  • IP3X: 直径2.5mm以上の固形物体が内部に侵入しない
  • IP4X: 直径1.0mm以上の固形物体が内部に侵入しない
  • IP5X: 防塵(粉塵が内部に侵入しない)
  • IP6X: 耐塵(粉塵の侵入が完全に防護されている)

 

防塵等級

 

防塵等級は、製品がどの程度の固形物に対して耐性を持つかを示しています。
例えば、IP6Xの製品は、粉塵の侵入が完全に防護されていることを意味し、非常に高い防塵性能を持っています。

 

4.「防水」と「耐水」の違いは?

「防水」と「耐水」は似ているようで異なる概念です。
防水」とは水が内部に入らないような構造や部品を指し、「耐水」とは水がかかっても大丈夫な構造や部品を指します。
例えば、生活防水はキッチン周りのように水しぶきが飛んだり濡れた手で操作したりするシーンを想定し、水洗いが可能な程度の防水性能を持ちます。一方、完全防水は水中や大雨など、製品にとってさらに厳しい環境を想定しています。

 

5.防水規格の試験方法

防水規格の試験方法は、等級ごとに異なります
以下に紹介する試験方法により、製品がどの程度の防水性能を持つかを評価します。
 

IPX1~6の各試験方法

  • IPX1
    鉛直に落下する水滴に対して保護するため、滴水試験装置を用いて降水量・水の流量を1+0.05mm/minで10分間試験します。
  • IPX2
    垂直から15度の範囲で落下する水滴による有害な影響がないことを示します。つまり、機器を15度傾けた状態でも、上から落ちてくる水滴から保護されていることを意味します。
  • IPX3
    散水に対して保護するため、オシレーティングチューブを使い鉛直方向に対して±60度、全長距離200mmの位置から散水します(各散水孔あたり0.07L/min±0.0035L/min、試験時間は10分)。
  • IPX4
    あらゆる方向からの飛沫による有害な影響がないことを示します。 つまり、あらゆる方向からの水しぶきを受けても、機器が正常に動作することを意味します。
    この等級は、キッチンや浴室など、水しぶきが飛ぶ可能性のある場所で使用される機器に適しています。 例えば、IPX4の防水性能を持つスピーカーであれば、キッチンで水しぶきを浴びても、問題なく音楽を聴くことができます。
  • IPX5
    噴流に対して保護するため、放水ノズル(直径6.3mm)を使って距離2.5m~3mの間で、12.5L/min±0.625L/minの噴流をあてます(1min/m2、最低3分間の試験)。
  • IPX6
    あらゆる方向からの強い噴流水による有害な影響がないことを示します。つまり、あらゆる方向から強力な水流を浴びても、機器が正常に動作することを意味します。
    IPX5との違いは、水圧と水量にあります。IPX6はIPX5よりも、より強い水圧と水量に耐える必要があります。具体的には、内径12.5mmのノズルから、100kPaの圧力で毎分100Lの水を3分間、あらゆる方向から噴射する試験に合格する必要があります。

 

IPX7の試験方法

水に浸しても影響がないように保護するため、真水の入ったタンクに製品を浸し、製品の外郭上端から水面までの距離を0.15m、下端から水面までの距離を1mとして30分間浸します。

 

IPX8の試験方法

IPコードの防水等級の中で最も高いレベルの一つであり、 メーカーが定める条件(水深と時間)に水没しても水が侵入しない ことを示します。 つまり、IPX7よりもさらに深く、または長い時間水中に沈めても、機器内部に水が侵入しない高い防水性能を保証します。

IPX8を取得するためには、メーカーは具体的な試験条件(水深、水圧、時間など)をIEC規格に基づいて設定し、その条件下で試験を実施する必要があります。試験条件は、機器の用途や使用環境などを考慮して決定されます。例えば、ダイビング用の防水カメラであれば、水深10mで30分間水没させるといった条件が設定されることがあります。

IPX8の防水性能を持つ機器は、水中での使用を想定した機器や、水没する可能性のある環境で使用される機器に適しています。例えば、防水スマートフォン、水中カメラ、潜水艦などが挙げられます。
ただし、IPX8を取得していても、あらゆる水没状況において防水性能を保証するものではありません。 メーカーが設定した試験条件を超える水深、水圧、時間での使用や、水流や波浪などの影響を受ける場合は、水が侵入する可能性があります。また、経年劣化や衝撃などによって防水性能が低下する可能性もあります。したがって、IPX8の機器を使用する際は、メーカーが指定する使用条件や注意事項をよく確認することが重要です。

 

防水性能の評価基準について

IPX6までとIPX7以降では、防水性能の評価基準が大きく異なります
 

IPX6まで

  • 水滴や噴流水に対する保護: IPX0からIPX6は、落下する水滴や様々な方向からの噴流水に対する保護性能を評価します。
  • 一時的な水濡れを想定: これらの等級は、機器が一時的に水に濡れる状況を想定しており、水没には対応していません。
  • 試験方法: 水滴を落下させたり、ノズルで水を噴射したりして、機器内部に水が侵入しないことを確認します。
  • 適用例: 雨天時の使用、水しぶきがかかる場所での使用など。

 

IPX7以降

  • 水没に対する保護: IPX7とIPX8は、機器を水中に沈めた状態での防水性能を評価します。
  • 継続的な水没を想定: これらの等級は、機器が一定時間水没する状況を想定しています。
  • 試験方法: 機器を規定の水深に一定時間沈め、内部に水が侵入しないことを確認します。
  • 適用例: 水中での使用、水没する可能性のある場所での使用など。

 

防水規格の試験方法 まとめ

  • IPX7とIPX8の違いは、水深と水没時間です。IPX7は水深1メートルに30分間、IPX8はメーカーが定める条件(水深と時間)で試験を行います。つまり、IPX8はIPX7よりも、より深く、または長い時間水中に沈めても水が侵入しないことを保証します。
  • 機器の用途や使用環境に応じて、適切な防水等級を選ぶことが重要です。

 

防水規格の試験方法・試験条件のまとめ

 

6.防水規格の重要性

防水規格は、電子機器の信頼性と耐久性を確保するために非常に重要です。特にスマートフォンやウェアラブルデバイスなど、日常的に使用される機器においては、防水性能が求められます。防水規格を満たすことで、ユーザーは安心して製品を使用することができます。

また、防水規格は製品の市場競争力を高める要素でもあります。防水性能を持つ製品は、ユーザーにとって魅力的であり、購入の決め手となることが多いです。特にアウトドアやスポーツシーンで使用される製品においては、防水性能が重要な要素となります。

 

7.防水規格の取得方法

防水規格を取得するためには、製品が規定された試験をクリアする必要があります。試験は第三者機関によって実施され、試験結果に基づいて防水等級が付与されます。

以下に、主な試験機関を紹介します。

これらの機関は、IEC規格60529やJIS C0920に基づいた試験を実施し、製品の防水性能を評価します。

 

8.防水規格の応用例

防水規格は、さまざまな製品に適用されています。
以下に、いくつかの応用例を紹介します:

  • スマートフォン(IP68): 高い防塵・防水性能を持ち、水中での使用も可能です。
  • ウェアラブルデバイス(IP67): 日常生活での使用に耐える防水性能を持ち、汗や雨に対しても保護されます。
  • 屋外電子機器(IP57)

 

防水規格の応用例

 

9.防水性能の目安としてのIPコード

IPコードは、電気機器などの筐体が、埃や水などの侵入に対してどの程度保護されているかを示す国際規格です。IPコードは、製品の防水・防塵性能を客観的に評価するための指標として、広く利用されています。

 

(1)生活防水との関係

IPコードは、日常生活でよく使われる「生活防水」といった表現にも対応しています。
一般的に、「日常生活防水」はIPX1~3、「生活防水」はIPX4~5(6)、「完全防水」はIPX7~8(9)に相当するとされています。 ただし、これは厳密な定義ではなく、製品によって異なる場合があります。

 

(2)製品選びのポイント

製品の防水性能は、IPコードで確認することができます。 特に、水回りで使用する製品や、屋外で使用する製品を選ぶ際には、IPコードを確認することが重要です。また、製品によっては、IPコードに加えて「生活防水」や「完全防水」といった表現が使われている場合があります。
しかし、これらの表現は、必ずしもIPコードと一致するとは限りません。
したがって、製品を選ぶ際には、具体的な防水性能をしっかりと確認することが大切です。

 

鈴木 崇司 講師 《この記事の執筆者》

 鈴木崇司 講師
 神上コーポレーション株式会社 代表取締役

 開発QCDの最適化を追求する「匠のコンサルタント」として豊富な実績。
 設計の上流工程のみならず、製造フェーズまで含めた技術支援が可能。
 (※神上コーポレーションのWEBサイトはこちら)

 

 

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