3分でわかる技術の超キホン 晶析とは?種類・原理など重要知識を厳選まとめ解説

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晶析

1.晶析とは?

晶析」とは、化合物の精製方法の一種であり、混合物から単一化合物を結晶として取り出す手法のことを言います。ほぼ同じ意味の用語として「結晶化」がありますが、結晶化は雪や鍾乳石などで見られる自然界のものも含みます。すなわち、結晶化のうち、精製操作として意図的に結晶を得ようとすることが晶析であると考えられます。

精製方法には他に、分液抽出、クロマトグラフィー、蒸留や昇華などがありますが、これらと比較して晶析は大小すべてのスケールで簡便に実施でき、かつ純度の高い化合物を得ることができるため、実験室でも工業スケールでもよく用いられる手法です。次項から、晶析の原理や方法、利用例について紹介します。
 

2.晶析の種類

晶析は、結晶を発生させる方法によって、4種類に分けることができます。

1つ目は、冷却することにより対象化合物の溶解度を下げて結晶を取り出す方法冷却法)、2つ目は、貧溶媒を添加して結晶を取り出す方法貧溶媒法)で、この二つが主に用いられています。

他には、溶媒を蒸発させて結晶を析出させる方法や、対象化合物を塩化などの反応により溶解度の異なる別の化合物に変換し、結晶として取り出す方法などもあります。
 

3.晶析の原理(核の生成と成長)

晶析は、核の「生成」と「成長」という二つの過程に大別することができます。

核の発生は、さらに一次核生成二次核生成に分けることができます。

一次核の生成とは、結晶が全く存在していない過飽和溶液において、溶質分子が近接と離散を繰り返す中で、安定な会合体(マイクロ~ナノサイズ)が形成されて、新たに核が生じるものです。
これには、「不均質核発生」と「均質核発生」の二つがあります。

「不均質核発生」は溶液に混入した固体微粒子や容器の壁面などから誘発される不均一なものです。例えば、小さなごみからの刺激で誘発されたり、スパチュラで壁面をこすることで結晶化が始まったりすることもあります。また、「均質核発生」は、異物混入とは全く無関係に起こるものです。

このようにして生じた核に対して、周囲の単分子が付着して大きな核となるのが「成長」です。

二次核の生成とは、過飽和状態の溶液に対して種結晶を外部から加えることで引き起こされる核発生のことです。通常、反応溶液内には無数の微細な結晶が懸濁しているため、先に述べた一次核発生よりも二次核発生の方が支配的となるようです。
 

4.実験室レベルでの晶析

身近な晶析としては、中学や高校の授業でミョウバンや塩化ナトリウムの再結晶をやったことがある人も多いと思います。単溶媒を用いる一般的な方法としては、できるだけ高温で少量の溶媒に溶質を完溶させたのち、徐々に冷やしていき、温度による溶解度変化により結晶を析出させます。この時、攪拌しながら冷却すれば均一で細かい結晶が得られる傾向があります。一方、攪拌せずに静置した場合は、ミョウバンの結晶のように大きい結晶に成長します。

二溶媒系では、できるだけ高温で少量の良溶媒に溶質を溶かしておき、攪拌しながらそこに貧溶媒を滴下していき、その混合溶媒系の溶解度を減少させることにより結晶を析出させます。小スケール時では、順番を逆にして、先に貧溶媒に懸濁させておいて、これを加熱還流しながら良溶媒を少しずつ溶けるまで滴下していく方法も有効です。結晶が生じたら、低温で放置した後、桐山ロート等を用いて吸引ろ過した後、ろ物を貧溶媒で洗い、乾燥させ、結晶を単離します。
 

5.晶析に影響を与えるパラメータ

ここまでの内容からもわかるように、晶析の収率や結晶品位に影響を及ぼすパラメータは多くあります。
溶媒の種類、混合組成比、溶解させる温度、pHや濃度などが挙げられます。これらに加えて、大スケールの検討では攪拌翼の形状や攪拌の速さ、反応器の大きさ(熱の伝わりやすさや攪拌効率)が影響を及ぼすことも多くあります。

合成実験で晶析検討を行う時は、まず少量ずつ分け取り、様々な溶媒に溶解させて放冷させたり、窒素を吹き付けて溶媒を飛ばしたりして、そもそも結晶が生じるかスクリーニング的に検討します。良さそうな溶媒に当たりを付け、そこから温度や混合溶媒の溶媒比、温度などを詳細に検討し、最適化していくことになります。
 

6.結晶多型

結晶多型」とは、同じ化合物であるにもかかわらず、結晶系や分子の配座、物性が異なるもののことを言います。

多くの化合物でこの多型が存在するといわれており、晶析時の溶媒組成や温度、攪拌方法、冷却速度等により生成する結晶多型が変わってきます。結晶多型が異なると、分かりやすいときは見た目で判別できますが、溶解度や融点、IRスペクトルが異なるので、これらを測定して判定するが多いです。

物性が異なるということは、医農薬において作用も異なってくるので、結晶多型を制御するということは非常に重要な検討事項となります。

例えば、ヒト免疫不全ウイルス等への治療に使用されるリトナビルでは、はじめⅠ形結晶が発売されました。しかし、生物活性が低く、化学的にはより安定なII形結晶が後々見つかり、服用しても十分な効果が得られないということで製品回収となり、問題となったこともあります。この場合、望ましくないII形の方が化学的に安定であったため、少しでも製造中にII形が生じるとI形がII形へ転移してしまうという問題がありました。そのため、製造方法や保管、服用方法の変更を余儀なくされたようです。

はじめから結晶多型の存在を認識して、情報を集めておくことが後のトラブルを防ぐことになります。
生物活性のほかにも、爆発性など安全性に影響を及ぼすこともあるようです。
 

7.工業的な晶析へのスケールアップ

基本的には実験室での晶析からスケールアップするときには、反応のスケールアップと同様に攪拌効率温度制御などが問題になる事が多いようです。
晶析に特徴的な問題としては、結晶を取り出すとき、すなわち、ろ過や乾燥の工程での操作性が挙げられます。結晶を溶液中で作ることに目がいきがちですが、小さすぎる結晶になってしまうと、ろ過の際に目詰まりを起こしてろ過不良トラブルに繋がります。他にも、オイルアウトや凝集(不規則的な集合)、破砕が問題となることもあります。これらの様子を見極めながら、先述の様々なパラメータを検討する必要があります。

パラメータが多くあり検討は大変なものになりますが、実験室レベルからスケールアップを支援するための実験機器も開発されています。

 

(アイアール技術者教育研究所 Y・F)
 


※参考文献・参考サイト


 

 

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