3分でわかる技術の超キホン 完全特性と動力回収タービン

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タービンと水車

液体や気体を扱う機械を「流体機械」といい、様々な産業で広く使われています。
流体機械は24時間連続運転されることも多く、その運転に必要な動力を低減することは省エネルギーとCO2削減のために重要なことです。

今回は、流体機械が持つ2つの面からその省エネについて見ていきたいと思います。

1.完全特性とは?

流体機械には、外部から仕事を加えて流体にエネルギーを与えるものと、流体のエネルギーを外部へ仕事として取り出すものがあります。
前者が、ポンプ、送風機、圧縮機などです。
また、後者には、水車、風車、タービンなどがあります。

実は、前者と後者には裏表のような関係があり、例えば、回転を両方向としてポンプと水車、両方の機能を1台で兼ね備えたものを「ポンプ水車」といいます。

[※ポンプ水車については、別コラム 水力発電用「水車」の分類・種類と仕組み をご参照ください。]

横軸に流量Q%(正負)、縦軸に回転速度n%(正負)をとり、等水頭H%曲線と等トルクT%曲線を重ねて表示した図を「完全特性」といいます。
流量Qの負は逆流を、回転速度nの負は逆転を、それぞれ示します。

水頭Hが正(ポンプとしての吐出し口から吸込み口へ向かって揚程の落差がある)で、流量Qと回転速度nが負(逆流逆転)の領域では、出力トルクTの正値を得ることができて、水車として機能することがわかります。
完全特性のうち、流体機械として利用するのは、正常ポンプと正常タービンの領域です。

完全特性

 

2.動力回収タービン

石油精製プラントや石油化学プラントでは、ポンプで流体に高エネルギー(高揚程)を与えて高圧反応槽へ送り、一部の流体を減圧して低圧処理槽へ戻すプロセスが多く使われます。

高圧流体をバルブで減圧する代わりに、タービンに導入して揚程を消費させて、低圧処理槽へ戻すとともに、ワンウェイクラッチを介してタービンをポンプ駆動モータに連結することで、タービン出力の分だけポンプ駆動動力を低減させて省エネルギーを図ることが可能です。

このような目的に使うタービンを「ハイドロリック動力回収タービン」(Hydraulic Power Recovery Turbine、以下”HPRT“と呼ぶ)といい、通常はポンプを逆回転させる構造のものが使われます。
HPRT特性は、完全特性線図からも推測することができますが、より正確には、実験などで得られ比速度で整理した、ポンプ‐逆転タービン間の流量および揚程の換算比率データから選定します。

 

HPRTの設計に関する注意点

高圧反応塔から低圧処理槽へ戻る流体は、硫化水素(H2S)を含有する場合が多く、HPRTに用いる部品の材料選定や軸封部の設計には十分な考慮が必要です。

材料は、NACE規格に準拠した、耐応力腐食割れ性の高い材料を使用します。
具体的な例として、12%Crのマルテンサイト系ステンレス鋼を使用する場合は、ロックウェル硬度をHRC22以下に抑えるよう熱処理することが必要です。

軸封については、ダブルメカニカルシールを採用して、内部液が大気中へ漏洩することがないようにします。

[※メカニカルシールについては、別コラム 【早わかりポンプ】軸封の種類/用途/使い分けを総整理! もご参照ください。]

また、減圧によってHPRT内部で液が気化する場合があります。
摺動部品の設計(すき間、表面硬度)や回転体の安定性にも、十分な考慮が必要となります。

ポンプが増速ギア付きである場合、ポンプ‐増速ギアボックス‐電動機‐ワンウェイクラッチ‐HPRTという機器トレインとなって全長が10,000mmを超えることもあります。
このため、芯出しが支障なく行われるようにするためのシム代や、機器取付けボルト穴径の配慮、軸継手を含めた回転体のねじり振動解析評価、が必要となります。

圧縮機を用いてガス循環するプロセスで、高圧の排ガスをタービンに導入して減圧するとともに、動力を回収して圧縮機を駆動するモータの動力を低減することが可能です。
このような目的で用いるタービンを「ガスエキスパンダー」といいます。
ガスエキスパンダーで発電機を駆動することにより排熱を回収する目的で使われる場合もあります。

動力回収タービン

 

3.海水淡水化プラントとエネルギー回収方式

気候変動や人口増加により水不足の深刻化が懸念されるなか、海水淡水化は水不足を解決するための手段として期待されています。

海水淡水化には「蒸発法」と「膜法」とがあります。

そのうち「膜法」は、逆浸透膜(Reverse Osmosis Membrane、RO膜) に、ポンプで6MPa程度に昇圧した海水を送り、RO膜を通過した低圧の淡水と、膜を通過できない高圧の濃縮海水(以下、「ブライン」と呼ぶ)とに、分離するものです。
造水した淡水の料金を下げるためには、海水淡水化プラントのランニングコストを低減することが必要であり、ブラインが有するエネルギーを効率良く回収することがポイントとなります。

そのエネルギー回収には3つの方式があります。
 

(1)ペルトン水車による高圧ポンプの動力回収

高圧ポンプ駆動モータの後方に、ペルトン水車を連結して、高圧ブラインと海水の落差を利用してペルトン水車を回し、得られた出力の分だけ、高圧ポンプ駆動動力を低減する方式です。
つまり、ブラインが持つエネルギーを動力として回収する方式です。高圧ポンプの流量と圧力は変わることがありません。

[※ベルトン水車の説明は、別コラム 水力発電用「水車」の分類・種類と仕組み をご参照ください。]

高圧ポンプの動力回収
 

(2)ターボチャージャによる高圧ポンプの圧力低減

ターボチャージャは、共通駆動軸の両端にポンプまたは圧縮機と、タービンを装着した構造の流体機械で、タービンがポンプまたは圧縮機の駆動機となります。

自動車に用いるターボチャージャは、排気ガスをタービンに導入して圧縮機を駆動し、エンジンに送り込む空気を圧縮することでエンジン出力を高めるものです。

RO膜海水淡水化プラントでは、ブラインをタービンに導入してターボチャージャのポンプを駆動することにより、高圧ポンプの揚程を下げることが可能となります。
つまり、ブラインのエネルギーを圧力の形で回収します。

高圧ポンプの圧力低減
 

(3)容積形動力回収装置による圧力交換

ピストン‐シリンダの往復式あるいは、回転式の容積形閉じ込め空間に流入した海水を高圧ブラインで押し出すことで加圧しRO膜へ送る方式です。

高圧ブラインと低圧海水の間で圧力交換をする形になります。
ただし、動力回収装置で生じる圧力損失分を補うブースタポンプが必要となります。

ブラインと同量の海水を加圧してRO膜へ送ることができるので、高圧ポンプの流量を低減することが可能となります。
つまり、ブラインのエネルギーを流量の形で回収します。
この方式は(1)(2)と異なり、タービン(水車)によるエネルギー回収ではありません。

圧力交換

 
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)

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