【中国特許分析】化粧品分野の中国特許出願動向がザックリわかる!中国現地企業の特許戦略は?

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中国の化粧品

中国は世界2位の化粧品市場規模を有しているとされています。(1位はアメリカ)
では、その特許出願状況はどうなっているのでしょうか?

今回は、化粧品に関する主要な特許分類(IPC)である”A61K8“(化粧品あるいは類似化粧品製剤)について中国特許出願の状況を分析しました。

※以下の件数は、中国における主要な特許データベースの一つである”incoPat”による検索結果になります。

1.化粧品分野の各国出願状況(日本/米国/中国/韓国/欧州)

まず、日本(JP)、米国(US)、中国(CN)、韓国(KR)、ヨーロッパ(EP)の最近10年間の特許出願状況(公開年ベース)を確認してみましょう。

中国特許の公開件数は他の国(機関)より遥かに上回っているのが分かります。
(※本文中に2020年の公開件数に関しては12月25日現在のデータであり、タイムラグにより未収録公報があるので、実際の件数はもう少々増えます。)

2010年から、中国国家基準GB5296.3-2008の規定に基づき、中国に販売される化粧品は包装に全成分の表記が求められました。そこで世界的な大手化粧品メーカーは、自社製品の成分調合を保護すべく中国での特許出願戦略を強化し、これが中国特許の公開件数増加に繋がる一因となったようです。

現在のところ2018年がピークとなっており、年間12,645件に至りました。
その後は件数も落ち着きつつあり、これからは成熟期に入っていくとも考えられます。
(※図1・図2は、2021年3月24日時点における検索結果で更新したグラフです。)

IPC分類A61K8_日米中韓欧公開件数推移
【図1:日米中韓欧最近10年間A61K8分類に関する公開公報件数推移】

 

化粧品分野の中国特許出願状況

中国特許公開のうち、化粧品関連のIPCであるA61K8の下層分類をみてみると、製品の形態/形状の発明(A61K8/02及びその下層分類)よりも、主に成分組成に関する発明(A61K8/18及びその下層分類)が圧倒的に多くなっています。これは化粧品の研究開発のポイントが主に成分配合にあるためでしょう。

IPC分類:A61K8とその下層分類の定義(統計グラフに出てくる分類) 

  • A61K8/00   化粧品あるいは類似化粧品製剤
  • A61K8/02   ・特別な物理的形態に特徴があるもの
  • A61K8/18   ・組成に特徴があるもの
  • A61K8/19   ・・無機配合成分を含むもの
  • A61K8/30   ・・有機化合物を含むもの
  • A61K8/72   ・・有機高分子化合物を含むもの
  • A61K8/92   ・・油,脂肪またはろう;その誘導体,例.水素化物
  • A61K8/96   ・・構造不明の物質またはその誘導体を含むもの
  • A61K8/97   ・・・藻類,菌類,地衣類または植物由来のもの;それらの派生物由来のもの
  • A61K8/98   ・・・動物由来のもの
  • A61K8/99   ・・・藻類または菌類以外の微生物由来のもの,例.原生動物またはバクテリア

IPC分類別の公開件数推移(A61K8)
【図2:A61K8下層IPC分類別の公開件数推移】

 

その成分組成に関する発明の中では、抽出物(A61K8/96)に関する発明と、有機化合物の成分(A61K8/30)に関する発明が多いです。

A61K818下層IPC分類別の公開件数推移
【図3:A61K8/18下層IPC分類別の公開件数推移】
(※図3以下の統計データは、2020年12月25日における検索結果です)

 

また、抽出物の発明の中では、植物由来のもの(A61K8/97)が最多となっています。

A61K896下層IPC分類別の公開件数推移
【図4:A61K8/96下層IPC分類別の公開件数推移】

 

2.直近5年の公開件数推移(特許、実用新案)

直近10年の公報種別を見てみましょう。
化粧品についてはその技術内容から特許出願が多いことは当然ですが、実用新案の出願も少しずつ増えているようです。

一般的に中国の特許調査では、膨大な件数の実用新案をどこまできちんと調べるかの判断に悩むケースも多いと思います。化粧品分野は、相対的には実用新案の件数は少なめとなりますが、特に形態/形状に特徴があるような技術については注意しておいた方がいいでしょう。

最近10年間の実用新案の公開状況
【図5:最近10年間の実用新案の公開状況】

 

3.化粧品分野の中国特許に関する出願人の国別割合

A61K8に関する中国特許公開の総件数から統計すると、7割以上の公開主体が中国現地出願人となっています。

また、最近10年のA61K8に関する中国特許公開状況をみると、中国籍出願人の割合はさらに増加しており、8割以上になりました。現地企業の知財保護意識が高まっているようです。
 
なお、外国籍出願人の中では、米国出願人が一番多く7.6%で、次は日本出願人の4.9%となっています。

IPC分類A61K8に関する全部の出願
IPC分類A61K8に関する2011年以降の出願
【図6:IPC分類A61K8に関する中国特許出願人の国別割合】

 

4.化粧品分野の中国特許の出願人ランキング

incoPatの出願人ツールを使って、IPC:A61K8の公開件数上位の出願人ランキングを確認してみました。

上位10社のうち、米国企業が一番多く3社であり、日本企業が2社、中国現地企業が2社、フランス、オランダ、韓国の企業がそれぞれ1社となっています。
11位の広州丹奇日用品ケミカル有限会社は、最近10年の出願状況を調べると10位のジョンソン・エンド・ジョンソンよりも多く、中国では日用化粧品の老舗として知られている大手企業でもあるため、表に加えました。

ランキング上位において約8割が外国籍グローバル企業であり、中国籍企業は2割しか占めていません。
外国籍上位出願人はいずれもグローバル企業であるのに対し、中国現地企業は中国国内を中心に事業を展開していることが多く、特許戦略に対する意識・考え方が少し異なるのかもしれません。
なお、9位の広州賽莱拉は、PCT出願(WO)が5件、アメリカ出願(US)1件と僅かであり、8位の長沙協浩吉と11位の広州丹奇については中国以外の出願は検出されませんでした。
 

企業名 出願件数 出願人国
1位 P&G 2215 米国
2位 ロレアル
(L’Oreal)
2106 フランス
3位 ユニリーバ
(Unilever)
1118 オランダ
4位 コルゲート・パーモリーブ
(Colgate-Palmolive)
746 米国
5位 花王 686 日本
6位 資生堂 508 日本
7位 アモーレパシフィック
(AMOREPACIFIC)
519 韓国
8位 長沙協浩吉生物工程有限会社
CHANGSHA XIEHAOJI BIOLOGY ENG CO LTD
458 中国
9位 広州賽莱拉ステムセルテクノロジー株式会社
GUANGZHOU SALIAI STEM CELL SCIENCE AND TECHNOLOGY CO LTD
421 中国
10位 ジョンソン・エンド・ジョンソン
(Johnson & Johnson)
357 米国
11位 広州丹奇
GUANGZHOU DANQI DAILY CHEMICAL FACTORY CO LTD
265 中国

【表1:A61K8に関する中国特許出願人ランキング】

 

5.技術効果/課題として多いものは?

化粧品の中国特許の中には、どのような技術効果や課題に関するものが多いでしょうか?
incoPatから機械的に抽出処理されたキーワードに基づく統計処理結果では下図のようになりました。

レベル1は、原文の単語のままキーワードとして検出された件数です。
レベル2は、一定の加工をしたキーワードに基づいて検出された件数です。

このような機械的な統計処理ツールは、人手による調査のような精度を期待することはできませんが、様々な角度からの大まかな分析データを迅速に得ることができる点で有用です。

下記2つの図から見ると、抗菌殺菌、安全性、安定性、アンチエイジング、使いやすさ、ホワイトニングを技術効果・課題解決としている技術が多いことが分かります。

技術効果ごと公開件数レベル1
技術効果ごと公開件数レベル2
【図7:技術効果ごと公開件数】

 

6.中国現地企業の上位出願人3社の概要と特許出願分析

中国籍出願人の上位3社である「長沙協浩吉」「広州賽莱拉」「広州丹奇」の会社概要と出願状況について、さらに調べてみました。
 

(1)長沙協浩吉生物工程有限会社

長沙協浩吉生物工程有限会社は、2016年に設立された比較的新しい会社です。
同社の主な事業分野は、生物製品および化粧品の研究開発と製造、生物技術・農業技術の普及サービス、食品科学技術研究サービス、食品・衛生製品・試験室用システム装置および換気設備の販売等とされています。

A61K8に関する公開された特許出願458件のうち、有効特許が0で、審査中1件、ほか457件の法律状態は全て失効になっています。詳細を見ると、すべて出願公開後に取り下げられていました。

 
※中国で一時的に出願が急増する場合の理由として、例えば地方政府による特許出願奨励・優遇装置(補助金など)の影響なども含め、一般論としては色々と考えられます。ただ、長沙協浩吉社が2017年の件数だけ異常に多いことについて、個別の事情・理由はわかりません。

 

(2)広州賽莱拉ステムセルテクノロジー株式会社

広州賽莱拉ステムセルテクノロジー株式会社の公開された特許出願は421件あり、有効特許が25件、審査中が24件、失効が372件となっています。失効のうち、出願公開後の(みなし)取下げが中心で、344件占めています。また、同社は上述の通り、中国国内での出願以外に、PCT出願(WO)5件、アメリカ出願(US)1件もしています。

賽莱拉ステムセル/セレラ幹細胞技術有限責任会社(www.saliai.com)は、2009年に広州国際生物島に設立され上場企業です。
幹細胞技術の産業化に注力しているハイテク企業であり、幹細胞の貯蔵、製造、科学研究サービスから、総合セルバンク、セルラボ(細胞試験室)の技術サポートまで、ワンストップでの幹細胞/再生医療ソリューションを提供しています。

同社はフェローワークステーション、ポスドク研究ワークステーション、幹細胞製造試験室、臨床応用工学技術研究センターなどを保有しており、中国の重点大学や病院と連携して合同研究をしています。さらに複数の国家レベルまたは地方の研究開発プロジェクトをも担当し、GMP基準に基づく人類幹細胞バンクの構築なども手掛けており、高い評価を得ています。

 

(3)広州丹奇日用化工場有限会社

3位の広州丹奇日用化工場有限会社(http://danqi.binzhuang.com/)は、1992年に広州で設立されたOEM化粧品メーカです。過去は「茘湾区丹奇日用化工場」や「芳村区丹奇日用化工場」という企業名でした。

同社は、10万GMP製薬基準の無菌製造ワークショップや複数の先進的な生産ライン、米国CTFAとヨーロッパCOLIPA基準を満たす検査分析試験室などを完備しており、全ての工程で高度な品質管理をしています。(ISO9001/ ISO22716認証を取得)

メイン業務のOEM以外に、自社の研究開発チームを保有しており、自社ブランド製品の開発も進めています。
2012年にPBA社のために開発したナチュラルスキンケア商品(BB CREAM)は、中国で初めてアメリカNPA(Natural Products Association)認証を取得した製品であり、一時期ネット通販でベストセラー1位の商品になったこともあるようです。

中国現地企業上位3社の出願公開状況
【図8:中国現地企業上位3社の出願公開状況】

中国企業名 公開件数 A61K8の公開件数 A61K8の割合 法律状態(A61K8の特許出願)
有効 審査中 失効 失効出願の詳細
長沙協浩吉 983 458 50% 0 1 457 全て出願公開後のみなし取下げ
広州賽莱拉 920 421 46% 25 24 372 出願公開後のみなし取下げ345件、
拒絶27件
広州丹奇 282 265 94% 38 92 135 拒絶62件、
出願公開後のみなし取下げ63件、
特許料未納による失効10件

【表2:中国籍出願人上位3社の特許公開状況】
(※有効: 登録され、かつ生存中の特許のことです。)

 

7.中国現地の大手化粧品関連企業の概要と出願動向

なお、上記の特許出願人ランキングには載ってませんが、中国現地で良く知られている大手化粧品関連企業の「上海家化」(Jahwa)、「珀莱雅」(PROYA)、「丸美」(MARUBI)の出願状況も調べました。

企業名 出願件数 有効 審査中 失効
上海家化(Jahwa) 126 66 40 20
丸美(MARUBI) 111 59 40 12
珀莱雅(PROYA) 95 57 26 12

【表3:中国現地大手化粧品企業のA61K8分類の公開状況】
 

(1)上海家化(Jahwa)

上海家化(Shanghai Jahwa United Co., Ltd)は、126件の特許出願が公開され、有効66件、審査中40件、失効20件となっています。

同社は、中国現地では最も歴史長いの化粧品企業の一つであり、1991年設立の上場企業です。その前身は1898年設立の「香港広生行」です。資本金は6.7億元、年間売上は75億元超の規模の会社です。(2019年数値)

中国国内で有名なブランドとしては、漢方薬化粧品の「佰草集」(HERBORIST)、香水(オーデコロン)の「六神」(Liushen)、1980年代には“中国化粧品第一ブランド”とまで呼ばれた「美加浄」(MAXAM)、男性スキンケアの「gf高夫」、ベビースキンケアの「启初」(Giving)、家庭掃除・消毒・衛生品の「家安」(HomeAegis)など、多数あります。そのうち、“現代漢方薬&古代処方に基づくパーソナルケアの専門家”という理念を持つ「佰草集」はヨーロッパにも進出しています。

ISO9001とGMP認証を取得しており、中国の化粧品業界内で最大の生産能力を持つと言われ、国家レベルのR&D部門と設計センターを保有しています。

欧米や日本の企業・大学等とも積極的に連携しており、合弁企業の設立や共同研究の推進などでグローバルな活動を行っています。2011年に中国平安保険の子会社に買収されるなど、経営面の変化もありました。
現在は中国政府が主導する「中国製造2025」を背景に、化粧品業界の代表企業を目指してブランドの更なる強化を推進しているようです。
 

(2)広東丸美(MARUBI)

広東丸美(MARUBI)生物技術株式有限会社は、111件の特許出願が公開され、有効59件、審査中40件、失効12件となっています。

同社は2002年に広州に設立された上場企業です。
複数の子会社を持っており、2016年に日本でも「丸美化粧品株式会社」が設立されました。

同社は、「丸美」(MARUBI)、「春紀」(HARUKI)、「恋火」(PASSIONAL LOVER)という、3つの主力ブランドを有しています。目元化粧品(アイケア)を主力製品としたシリーズを開発しており、中国では一番売れているアイクリームブランドと言われています。それ以外にも、顔用のスキンケア製品やメーク製品も展開しています。

2013年にLVMHの子会社L Capitalが2番目の株主になり、他の外資も参入しております。
米国FDA認証のGMPCとヨーロッパ認証のISO22716を取得していて、2014年に世界最大のアイスキンリサーチセンタ「丸美5Cセンター」を設立し、年間1千万元超のR&D経費をかけているとのことです。
製品の研究開発には日本のチームで、外観デザインはフランスのチームで、マーケティング販売は中国のチームという三角形のブランド戦略を持っています。
 

(3)珀莱雅(PROYA)

珀莱雅(PROYA)は、95件の出願があり、有効特許57件、審査中26件、失効12件です。

同社は2006年、杭州に設立した上場企業です。海由来成分の研究に注力していて、スキンケア、マスク、メーク、ボディー洗浄、男性向け化粧品などに多いシリーズを開発、製造、販売しています。
使っている成分は、フランスの大西洋紅藻/ポルフィリジウム/黄金の海藻/タラソ、日本の海月クラゲ/プロテオグリカン、アメリカの深海火山好熱菌、南極の氷海活性細菌、タヒチのラグーン藻、フィジーの水等、世界中に人が見られなく、汚染されていない地域から採集されたものが挙げられます。

自ら開発した機能性成分デリバリーテクノロジー「MSET:マイクロサブマリンエクスプレステクノロジー」は、機能性成分が肌に素早く浸透し、肌の深層に長時間作用することに効くと宣伝しています。特別な技術によって「氷海耐寒性タンパク質」と「深海耐熱酵素」を分離・精製し、肌を過酷な環境から保護できるとのことです。

ブランドとしては「珀莱雅」(PROYA)、「優資莱」(UZERO)、「韓雅」(ANYA)、「悦芙媞」(HAPSODE)、「猫語玫瑰」(CATS&ROSES)、「YNM」、「悠雅」(YOYA)、 「欧蘭萱」(O’LAXSN)などがあります。

 

中国の大手化粧品メーカーの特許情報に注意?

上海家化(Jahwa)、丸美(MARUBI)、珀莱雅(PROYA)の3社は数多く有名芸能人を起用したCMで宣伝されており、知名度的には現地企業のトップクラスです。
特許出願(公開)件数ランキングには入っていませんが、いずれも高度な研究開発を行っている大手メーカーであることから、その特許情報には注目しておいた方が良いでしょう。
 

ということで今回は、中国における化粧品分野の特許出願状況について簡単にまとめてみました。
高品質・高機能な日本の化粧品は中国でも高い人気がありますが、欧米系の大手グローバル企業や韓国企業はもちろん、中国現地メーカーも含めた競争は激化していくことでしょう。
化粧品の巨大市場・中国における特許出願動向には今後も注意していく必要がありそうです。
 
(日本アイアール株式会社 特許調査部 X・W)


中国の技術情報調査、特許調査・分析サービスは日本アイアールまでお気軽にお問い合わせください。


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