化学産業における高純度化要求と異物混入対策

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化学工場における異物混入対策
 

1.国内化学素材産業の台頭

日本のお家芸と呼ばれた半導体やPCなどのエレクトロニクス産業の国際競争力の急落とは対照的に化学産業は急成長をしています。成長の背景には、電気自動車(EV)の普及に代表される電動化の波、素材レベルでの軽量化のニーズ、機能性材料、機能性食品包装フィルム、薄型ディスプレー用フィルムなど高付加価値の収益の増大が関係しています。
さらにこの成長は、化学産業が世界の流れとは逆に、付加価値の高い製品へのシフトで生き残りを図った結果、さらに最終メーカーとのすりあわせによる高品質へのこだわりの結果とも言えます。
自動運転車、AIの普及をにらみ、カメラやセンサー、ディスプレー向けの素材開発、スマートフォンへの採用が広がる有機ELディスプレー向けの発光材料の素材開発も今後ますます発展していくことでしょう。
 

2.「高純度」への厳しい要求事項

このような化学素材産業では、製造プロセスの超清浄化の重要性が認識され、高純度化により材料の性能を向上させるという動きが活発になり、薬品、純水、部材、装置、操作環境への高純度の要求が加速度的に高まりました。

上述のように化学素材産業のユーザーは電子デバイス業界に集中しており、電子デバイスに電気を通す際に余分な電気を流してしまうことがあるとの懸念から金属イオンの混入をコントロールしようとする動きになりました。

金属イオンの混入ゼロというのは不可能ですが、どの程度であったら許容されるかというと、現在ではng/g (ppb)からpg/g (ppt)という極微量のオーダーが業界標準です。
ng/g (ppb)というオーダーは10億分の1です。日本の人口が1億人だったとすると、その中に1人も宇宙人がいては許されないということになります。探す方も大変ですよね。
ですから化学素材産業は高度な管理の下、超高純度の薬品を製造しなければなりません。
 

3. 製造装置が異物源であるという課題

金属イオンを除去する技術はすでに確立されています。しかしng/g (ppb)というオーダーをクリアーするにはいくつか大きな課題があります。

その一つが「装置」です。

化学産業はガラス製の反応装置を使って薬品を製造します。シリカ質(SiO2)を主成分とするガラス層を金属表面に強固に焼成結合したものホーローと呼び、ホーローで、そのうち、特に耐酸性、耐アルカリ性、耐熱性に優れているものはグラスライニング(GL)と呼びます。

GL用のガラス層には、高い耐薬品性、金属基材との密着性、施工性等を得るために酸化カルシウム(CaO)、酸化ナトリウム(Na2O)又は酸化カリウム(K2O)のような様々な成分が含有されています。
このアルカリ金属イオンが製造中にガラス面から製品に混入し異物となってしまいます
GLに含まれる成分のうち、特に溶出しやすいのはNa+(ナトリウムイオン)、K+(カリウムイオン)又はLi+(リチウムイオン)です。

GL表層からは微量のアルカリ金属成分がイオンとして溶出しても、通常であれば問題となることはないのですが、電子デバイス産業のように製品が超高純度を要求される分野であれば、GL層からの溶出した微量のアルカリ成分が、深刻な問題になってしまいます。
 

解決するものは洗浄水の水質

この課題を解決するためには前処理として装置を徹底的に洗う必要があります。
洗浄用の水も高純度のものが必要です。洗浄用の水が汚染源になるかもしれないからです。
現在ではイオン交換水を安価でかつ容易に15MΩ・cm以上の超純水化する技術もすでに確立されています。
水の管理がしっかりできていればng/g (ppb)というオーダーもクリアーすることは不可能ではありません。
 

それを支える社内チームワーク、サプライチェーンのチームワークも重要

せっかく作った製品も異物が入っていれば売れません。
しかし敵は目に見えない金属イオンです。
目に見えない敵に挑戦するには技術者同士のチームワークと信頼関係も必要です。
チームワーク、信頼関係作りにはどうしたら良いでしょうか?

まず、上司、部下双方わからないことをわからないままにしておかないことです。
疑問(異常)があったら、立ち止まってみんなで解決して行くこと。
作業員に人間差(ひとかんさ)はないだろうか?今日の測定値は正しいと言えるだろうか?解決のプロセス、疑問(異常)に答えるプロセスから信頼関係が生まれます。これが基本となります。

次に、一度起こしてしまった異物トラブルは確実に対策を行い、再発をさせないことです。
工場には不適合報告書があると思いますが、作業員は過去の不適合を把握しているでしょうか?
製造開始前の打ち合わせで過去トラブルリストを一枚出してあげることで、さらにチームワークと信頼関係は向上することが期待できます。水平展開の情報共有も欠かせません。

さらに、サプライチェーン全体のチームワークが重要です。
チームワークは自社内に限ったことではありません。
化学素材産業は工程が長く、各社得意分野によって棲み分けがされています。触媒反応が得意な会社、カップリング反応が得意な会社、ハロゲン化反応が得意な会社、そういった会社を経て、今、目の前に中間体という形で原料があります。
私たちはそれを顧客要求レベルに合わせた異物対策をしなければなりません。サプライヤーとの協力なしでは異物対策は成り立たないのはおわかりいただけるでしょう。川上企業、川下企業双方のコミュニケーションと情報の共有が必要です。
目的は国際競争力で勝ち抜くためです。

 
(※この記事は一代技術士事務所鈴木孝講師からの寄稿です。)
 

技術士・鈴木孝先生による「化学工場の運営」に関する実務セミナー情報はこちら
 

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