ゼロから学ぶセラミックス入門|種類・特徴・用途の基本をやさしく整理
私たちの身の回りには、目に見えるものから最先端テクノロジーまで、様々な形で「セラミックス」が活躍しています。食器やタイルだけでなく、医療機器や電子部品、さらには宇宙開発やエネルギー分野にも欠かせない存在です。しかし、セラミックスと聞いて具体的な特徴や種類、どんな分野で使われているのかをすぐに想像できる人は意外と少ないかもしれません。
本記事では、セラミックスの種類・特徴・用途をわかりやすく整理し、初めて学ぶ方でも基礎をしっかり理解できるように解説します。
目次
1.セラミックスとは?
「セラミックス」とは、主に高温で処理された非金属無機材料を指します。例えば、お皿や茶わん、タイル、レンガ、最近では、スマホやパソコンの中の部品、人工の歯や骨など、いろいろな場所で使われています。
物質は大きく分けて有機物と無機物に分けられ、無機材料の中で金属に分類されない物質をセラミックスと呼びます。セラミックスは、金属元素と非金属元素を含む化合物(金属酸化物等)や非金属元素のみからなる化合物(グラファイト、炭化ケイ素等)を含みその種類は多岐にわたります。
【図1 材料の分岐図】
金属やプラスチックと比較したセラミックスの性質の違いは以下のとおりです。
【表1 セラミックスと金属、プラスチックの比較】
性質 | セラミックス | 金属 | プラスチック |
硬度 | 高い | 中程度 | 低い |
耐熱性 | 非常に高い | 中程度 | 低い |
耐摩耗性 | 非常に高い | 中程度 | 低い |
電気伝導性 | ほとんど通さない | よく通す | ほとんど通さない |
衝撃への強さ | 割れやすい | 粘りがあり強い | しなやかで強い |
セラミックスの中には焼成するときの温度や時間などを精密に制御して作られる「ファインセラミックス」と呼ばれるものも存在します。ファインセラミックスは、従来のセラミックスよりも高い性能を持ち、半導体製造装置や医療機器、自動車部品などの最先端分野で広く使われています。
2.セラミックスが持つ特徴
生活の中で幅広く利用されているセラミックスには多くの特徴があります。
以下にセラミックスの特徴を詳しく解説します。
(1)硬くてもろい
セラミックスは、構成原子が「イオン結合」もしくは「共有結合」によって結びつき、形成されています。これらは結合力が強いため、セラミックスは非常に硬く傷がつきにくい材料となります。
一方で、強い衝撃や急な力が加わると、割れたり欠けたりしやすい性質も持っています。金属材料は力が加わった際に原子がずれる(転位する)ことができるため変形し力を吸収しますが、セラミックスはそのようなことができず割れてしまいます。これは「脆性破壊」と呼ばれ、破壊に至るまでほとんど材料が変形しないのが特徴です。
【図2 セラミックスと金属材料の比較1】
この「硬くてもろい」性質のため、セラミックスを構造部品などに使う場合は、衝撃や急激な温度変化、応力集中を避ける設計が必要です。
(2)耐熱性が高い
セラミックスは原子同士の結合力が強いため、高温でも構造が壊れにくいのが特徴です。
例えば、代表的なセラミックスであるアルミナの融点は約2,000℃以上であり、鉄(約1,500℃)やアルミニウム(約660℃)などの金属よりもはるかに高くなっています。
このため、セラミックスは高温環境でも形や性質が変わらず使い続けることが可能です。
一方で、熱の伝わりやすさ(熱伝導率)は材料によって大きく異なります。熱をよく伝えるもの(窒化アルミニウムや炭化ケイ素)もあれば、熱を伝えにくいもの(ジルコニアやコージェライト)もあります。その中でも熱伝導率が低いセラミックスは、断熱材や耐火物として高温の炉や工業用設備に利用されます。
(3)電気を通しにくい
セラミックスは物質中に自由電子がほとんど存在しないため、電子が動きにくく基本的には電気を流しません。「自由電子」とは、自由に動ける状態にある電子のことであり、金属材料などの導電性物質中に存在しています。
【図3 セラミックスと金属材料の比較2】
この絶縁性を活かし、セラミックスは送電線を支える「がいし」や、電子部品の基板、絶縁体などに広く使われています。セラミックスの中には温度や組成によって電気を通す「半導体セラミックス」や「導電性セラミックス」もありますが、一般的なセラミックスは電気絶縁性が非常に高いのが特徴です。
(4)腐食に強い
セラミックスは酸やアルカリ、様々な化学薬品に対して反応しにくく、金属のように錆びたり腐食したりすることがほとんどありません。これもセラミックスを構成する原子同士が強い結合力で結びついていることに起因し、化学的に非常に安定しているためです。
例えば、アルミナや炭化ケイ素、ジルコニアなどは、強酸や強アルカリにも高い耐性を持っています。耐食性の高さにより、化学プラント、製薬・食品工場、実験装置、医療用インプラントなど、腐食性物質にさらされる環境で長期間安定して使われます。
(5)耐摩耗性がある
原子同士の結合が非常に強いセラミックスは、金属よりもはるかに高い硬度を持っています。例えば、アルミナはステンレス鋼の約3倍、炭化ケイ素はステンレス鋼の4倍以上の硬度があります3)。この高硬度により、摩擦や擦り傷に対して非常に強く、すり減りにくい(摩耗しにくい)という特性を持っているのです。
耐摩耗性があるため摩耗しやすい部分に使うことで部品の交換頻度を減らし、製品を長持ちさせることが可能です。用途としては、切削工具、研磨材、耐摩耗コーティングなど、摩耗が激しい場所で広く使われています。
3.主なセラミックスの種類
様々な特徴を持つセラミックスには、元素の違いによって性質の異なるものが生まれます。
ここでは、代表的なセラミックスの種類を解説します。
(1)アルミナ
アルミナ(Al2O3)は、最も広く使われている酸化物系セラミックスのひとつであり、産業界における非常に重要な材料です。
アルミナのモース硬度は9(ダイヤモンドは10)と非常に硬く、耐摩耗性に優れています。ほとんどの酸やアルカリに侵されにくく、耐薬品性が極めて良好なのも特徴です。また、原料が豊富で製造コストも比較的低いため、他の高機能セラミックス(ジルコニアや炭化ケイ素など)と比べて安価に大量生産が可能です。
このようにアルミナは、耐摩耗性や化学的安定性、コストパフォーマンスのバランスが非常に良く、幅広い分野で汎用的に使われています。
(2)ジルコニア
ジルコニア(ZrO2)は、力がかかる用途や長寿命が求められる分野で活躍するセラミックスのひとつです。
ジルコニアの大きな特徴は、「人工ダイヤモンド」とも呼ばれるほど強度が高く、セラミックスの中でもトップクラスの硬さと耐久性を持っている点です。また、ジルコニアは他のセラミックスと比べて靭性が高く、強い力が加わっても割れにくい性質があります。そのため、歯科治療(詰め物・被せ物・インプラント)、包丁やハサミなどの刃物、工業部品など幅広い分野で活用されています。
(3)炭化ケイ素
炭化ケイ素(SiC)は、主に工業的に合成されるファインセラミックス材料です。
酸やアルカリなどの強い薬品にも極めて強い耐食性を持ち、過酷な腐食環境下でも長期間性能を維持します。そのため、火力発電所や化学プラントなど、腐食性物質にさらされる用途で特に重宝されます。また、1,400℃を超える高温でも機械的強度や耐薬品性を維持でき、超高温環境下での構造材料や部品として利用できる点も魅力のひとつです4)。
このように、炭化ケイ素は特に過酷な化学・熱環境や高耐久性が求められる分野で不可欠な材料です。
(4)窒化ケイ素
窒化ケイ素(Si3N4)は、ケイ素と窒素からなるファインセラミックスの一種で、工業材料として非常に優れた特性を持っています。
急激な温度変化に非常に強く、自動車のエンジン部品やベアリングなどの温度上下が激しい用途でも割れにくいのが特徴です。また、非常に高い機械的強度と割れにくさを持っており、高温でも強度を維持できます。
このように、窒化ケイ素は過酷な環境や温度変化の激しい用途、耐久性が求められる部品に最適な材料となっています。
(5)チタン酸バリウム
チタン酸バリウム(BaTiO3)は、バリウムとチタン、酸素からなるペロブスカイト型結晶構造を持つファインセラミックス材料であり、主に電子部品分野で広く利用されています。
チタン酸バリウムの優れている点は、極めて高い誘電率や強誘電性、圧電性などの電気的特性にあります。電気を蓄える能力(誘電率)の高さはコンデンサ材料に使用され、力を加えると電気を発生する圧電性はセンサやアクチュエータに不可欠です。
このように、チタン酸バリウムは電気を蓄える・変換する機能が必要な電子部品材料として優れた特性を持っています。
4.セラミックスを用いた身近な用途例
セラミックスは私たちの身近な生活から産業分野まで、幅広い用途で利用されています。
セラミックスを用いた身近な用途例としては、以下のようなものがあります。
【表2 セラミックスの身近な用途例】
用途分野 | 具体例 |
調理器具・食器 | 土鍋、急須、セラミック包丁、スライサー、IH用トッププレート、電子レンジ用耐熱ガラス |
建材・住宅設備 | タイル、瓦、洗面台、衛生陶器(トイレ・シンク) |
電子部品 | コンデンサ、圧電素子(ブザーなど)、半導体パッケージ、LED照明の基板や蛍光体 |
医療機器 | 人工関節、歯科用インプラント、人工歯 |
家電製品 | 空気清浄機のフィルター、除湿機のローター、遠赤外線ヒーター |
5.セラミックスの将来性
セラミックスの将来性は非常に高いと考えられています。世界市場は今後も年平均5%以上の成長が見込まれており、2030年には4,000億ドル規模に拡大すると予測されています5)。
特に注目されている分野は以下の通りです。
- 医療分野: 人工関節や歯科材料などの医療用セラミックス市場は年平均8%で成長し、今後も需要が拡大する予測です6)。
- 3Dプリンティング: セラミックスの3Dプリント技術は年20%以上の高成長が続き、航空宇宙・医療・自動車分野で活用が広がっています7)。
- 電子部品・エネルギー分野: 高性能な絶縁体や圧電素子、バッテリー材料など、次世代エレクトロニクスやグリーンエネルギー分野でも重要性が増しています。
今後は、より高機能な材料開発や複雑形状部品の製造技術が進展し、幅広い産業でセラミックスの役割がさらに大きくなると予想されます。
6.まとめ
本記事では、セラミックスの基本的な性質から、代表的なファインセラミックスの特徴や用途、今後の成長分野や将来性までをわかりやすく解説しました。セラミックスは、医療・電子・エネルギー・3Dプリンティングなど多様な分野で活躍し、今後も技術革新を支える重要な材料です。本記事の内容を参考にセラミックスの理解を深めることで、学習や実務の場で役立てていただければ幸いです。
より専門的な知識を習得したい場合は、専門セミナーの受講をおすすめします。
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(アイアール技術者教育研究所 MTGR)
《引用文献、参考文献》
- 1) 志波 光晴ら,「セラミックスの破壊靱性」,日本金属学会会報, 27巻 (1988)8号
- 2) 中山 淳ら,「5.セラミックスの熱特性と熱応力破壊」, 材料32 (357), 683-689, 1983
- 3) ファインセラミックスワールド(WEBサイト),「ファインセラミックスの強さー硬度(こうど)」
- 4) NEDO(ニュースリリース),「MI法による世界初の1400℃級セラミックス基複合材料の研究開発に着手」
- 5) 株式会社グローバルインフォメーション,「セラミックス市場:材料、製品、用途、エンドユーザー別-2025-2030年の世界予測」
- 6) 株式会社グローバルインフォメーション,「医療用セラミックス市場:タイプ別、用途別-2025-2030年の世界予測」
- 7) tct MAG(WEBサイト),「3Dプリンティングセラミックス市場、2030年までに3億8,840万ドルに」