鋳造による巣の影響|巣が発生しにくい設計
QCD(Quality、Cost、delivery)に優れた製品を設計するには、製造方法もよく理解して、製造に優しい設計とすることが重要です。(*)
今回のコラムでは、アルミニウム鋳造に関する設計を例として、作り安く、品質リスクの少ない設計の考え方について説明したいと思います。
(*)QCD:
“Quality”は、いわゆる品質のみならず、性能・機能及び信頼性などの設計品質も含みます。
“Cost”は、いわゆる製品コストのみならず、管理や物流も含めた製造のためのコストを含みます。
“Delivery”は、ジャストインタイムで表されるような納期だけでなく、供給安定化システムも含みます。
1.鋳造による巣の影響
「巣」(鋳巣)と呼ばれるのは、鋳造により素材内部に生じた空隙のことです。
鋳造では、アルミニウムなどを高温にして溶かした溶湯を型に入れ冷却により鋳造品としての形状を得ます。
この工程において、薄肉部に対して厚肉部では、溶湯供給・凝固が遅れ、充分な溶湯密度・分布が得られず、部品を切断してみると図1(a)に示すように、いくつかの巣が発生していることがあります。
【図1 鋳造後・加工前と加工後の状態】
アルミニウムは、軽量であることや耐腐食性から、「ハウジング」と呼ばれる部品によく用いられます。
この際、ハウジングはケースとしての構造的機能だけでなく、ポートが設けられ流体通路などの機能も求められることがあります。
コストを下げるためには、機械加工で全ての形状を作るのではなく、粗材形状を鋳造で作り、必要最低限の部分を追加加工によって作るという方法が用いられます。
図1(b)は、鋳造後に、精度を求められる縦ポートと横ポートを加工で形成した状態を示しています。
この場合に、図1(a)のような巣があると、図2の(ア)~(エ)の箇所に関する不具合が生じます。
【図2 巣の影響】
(1)機能・耐久信頼性への影響
- (ア):巣により貫通経路が形成され、ポートからハウジング内側へ流体がリークする。
- (イ):ポートへの開口部により、管路抵抗の増大、開口部がちぎれ、流体中へコンタミネーション(混入異物)として流失する。
- (ウ):初期に検出できず、経時劣化によりポート部へ貫通・開口、(イ)と同様の影響を生じる。
- (ア)~(エ):構造強度において、設計の想定値と実際値が一致しなくなる。
(2)品質管理への影響
(ア)~(エ):鋳造粗材において、巣の状態に対する抜き取り切断検査を行わなければならない。
(3)コストへの影響
(ア)~(エ):性能テストなどの下流工程で不具合影響が検出されNG品となった場合、上流工程費用分損失とスクラップコスト(廃却費)が生じる。
(4)供給への影響
(ア)~(エ):品質水準が急変し不良品が急増した場合、供給安定性へ影響する。
2.巣の影響を防ぐ「含侵処理」のデメリット
巣の影響を防ぐ方法として、形状設計以外に、「含浸処理」と呼ばれ、鋳物巣に樹脂を注入・硬化させ、空隙を塞ぐ処理がありますが、QCD上、以下のようなデメリットが生じます。
(実際には、これらデメリットとメリットを総合評価して、敢えて含侵を選択する場合もあります)
- 含侵コスト(C)
- 含侵工程に対する品質保証活動・コスト追加(Q、C)
- 含侵工程場所との移動にともなう物流関係コスト(C)
- サプライチェーン構成増加による供給安定性上のリスク(D)
3.巣が発生しにくい設計を考える
上述のように、巣が発生することにより様々な不具合や損失が生ずることを考えると、生産技術だけに頼らず、設計としても巣が出にくいようにしておくことが有益であることが分かります。
図3を用いて、巣の出にくい設計方法の事例(カ)~(ケ)について説明します。
【図3 巣の出にくい設計】
- (カ):ハウジング内側の肉減らし(鋳造中子の抜き方向に配慮が必要)
- (キ):縦ポートの穴加工部に鋳抜き穴部を設定
- (ク):ハウジング外側の肉減らし
- (ケ):ハウジング肉減らしにより構造的に剛性が低下する分への対策として補強リブを設定
以上、今回はアルミニウム鋳造の事例について説明しましたが、設計形状に対して、現在適用されている、あるいはこれら適用しようとしている製造方法に対する理解を深め、製造に優しい設計とすることが重要です。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・N)
《併せて読みたい関連コラム》
- 機械設計マスターへの道:鋳造における設計上の注意点(形状・構造面の重要ポイント)はこちら