なぜ血液は赤い?タコやイカの血が青い理由をヘモグロビンとヘモシアニンから解説

私たち人間が生きていく上で酸素は必須であり、その酸素の運搬は血液中のタンパク質である「ヘモグロビン」が担っています。そして、ヒトの血液は赤色です。
しかし、生物の中にはヘモグロビンではなく、別の酸素運搬タンパク質を利用することで、青色を呈する体液をもつものがいることをご存じでしょうか?タコやイカ等の血液は青色です。
なぜ、同じ酸素を運ぶ体液でありながら、赤色と青色という違いが生じるのでしょうか?
1.ヘモグロビンとヘモシアニン
表1はヘモグロビンを含む血(赤い血)とヘモシアニンを含む体液(青い血)を対比したものです。
ヒトを含む脊椎動物においてヘモグロビンが酸素と結合する部位は鉄の錯体です。ヘモグロビンは酸素との結合状態によって色調が変化し、酸素と結合した酸素化ヘモグロビンは鮮紅色、酸素を放出した脱酸素化ヘモグロビンは暗赤色を示します。
一方、タコ等の一部の軟体動物・節足動物では酸素運搬は「ヘモシアニン」というタンパク質が担い、酸素と結合する部位は銅の錯体です。この錯体が酸素と結合した際に青色となります。
即ち、赤い血と青い血の違いには、酸素と結合する錯体金属の違いが反映されています。
さらに、赤い血では鉄:酸素分子が1:1で結合するのに対して、青い血では銅:酸素分子が2:1という違いもあります1),2)。
【表1 ヘモグロビンを含む血(赤い血)とヘモシアニンを含む体液(青い血)】
| 血液の色 | 赤 | 青 |
| 保有動物 (典型例) |
脊椎動物 (哺乳類,鳥類,爬虫類,魚類) ヒト |
軟体動物と節足動物 タコ、イカ |
| 酸素運搬を担う たんぱく質 |
ヘモグロビン (Hemoglobin) |
ヘモシアニン (Hemocyanin) |
| 酸素との 結合部位 |
鉄(Fe2+)の錯体 | 銅(Cu+)の錯体 |
| (比率) | Fe2+ : O2=1:1 | Cu+ : O2=2 : 1 |
| 存在場所 | 赤血球中 | 血リンパ中に溶解 |
図1-1はヘモグロビン錯体部の酸素結合・放出に伴う反応を、図1-2はヘモシアニン錯体部の酸素結合・放出に伴う反応を示したものです。
これらの反応で重要なのは、可逆的に起こり、しかも容易に起こるという点です。呼吸器官で取り込んだ酸素を体の各部まで運搬し、そこで酸素を放出するという機能を果たすためには必須の性質です。

【図1-1 ヘモグロビン錯体部の酸素結合・放出に伴う反応】

【図1-2 ヘモシアニン錯体部の酸素結合・放出に伴う反応】
2.地球上での出現はどちらが先?
この赤い血と青い血で、先に地球上に出現したのはどちらでしょうか。
タコやイカの青い血の方が早かったように思いませんか?
しかし、両者の起源を単純に年代だけで比較することは容易ではありません。
ヘモグロビンの祖先にあたるグロビンタンパク質は非常に古い起源をもつ一方、現在の脊椎動物型ヘモグロビンが成立した時期はそれより新しいと考えられています。また、ヘモシアニンについても、その起源年代には研究によって幅があります。
したがって、「ヘモグロビンが先で、ヘモシアニンが後」と単純に断定するより、両者は異なる進化的起源をもつ酸素運搬システムとして捉える方が適切です。
こうした酸素運搬タンパク質における金属利用の進化には、太古地球の海洋環境も関係したと考えられています。太古の海洋ではFeが比較的利用されやすい一方で、Cu・Zn・Moなどの利用可能性は低く、その後の酸素濃度の上昇に伴ってCuなどの利用可能性が高まったとされています3)。
3.Fe、Cu以外に酸素運搬に関与する金属は存在するのか?
さて、Fe、Cu以外の金属を酸素との結合に利用する酸素運搬タンパク質は存在するのかという疑問をお持ちの方もおられると思います。現在のところ、そのような天然の酸素運搬タンパク質は知られていません。
先に述べた通り、酸素の運搬には酸素と可逆的に結合する錯体が必要になります。赤い血でも青い血でも、遷移金属であるFeやCuのd軌道を利用して電子のやりとりが行われ、強すぎず弱すぎず適度の結合を形成できます。これにより可逆的な結合が可能になっています。天然の酸素運搬タンパク質では、このような役割をFeやCuが担っています。
可逆性の重要性を別の角度から考察してみましょう。
一酸化炭素COが猛毒であることはご存じだと思います。これは、COがヘモグロビンのヘム鉄に酸素よりも強く結合し、容易には解離しないため、酸素とヘモグロビン錯体部との結合形成を阻害するためです。
なお、「海のパイナップル」とも呼ばれるホヤには、特有のバナジウム結合タンパク質(バナビン、Vanabin)があることが知られていますが、このタンパク質には酸素運搬機能はないとされています。その機能は十分には解明されていません4)。
身近な血の色は、化学の奥深い世界への入口と言えるかもしれません。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《引用文献、参考文献》
- 1) 森本英樹, 「ヘモグロビン」, 生物物理 21(1),1-12(1981)
- 2) 牧野誠夫, 「ヘモシアニンの構造と機能」, 生物物理19(4), 171-175(1979)
- 3) Mak A Saito etc., The bioinorganic chemistry of the ancient ocean: the co-evolution of cyanobacterial metal requirements and biogeochemical cycles at the Archean–Proterozoic boundary?, Inorganica Chimica Acta 356,308-318(2003)
- 4) Tatsuya Ueki etc,. Vanadium accumulation in ascidians: A system overview, Coordination Chemistry Reviews 301-302, 300-308 (2015)


































