3Dプリンター/AM技術の最新動向と注目事例

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3Dプリンタの動向

「3Dプリンター」とは、3次元データを元に金属や樹脂などを積層し、立体造形することができる機器を総称したものです。3Dプリンターを使うことで、光硬化樹脂に光を当てながら造形したり、熱溶解した樹脂を積み重ねたり、粉末状の材料に高出力レーザーを照射し焼結させたりと、さまざまな技法で材料を積み上げて立体物を成形することができます。

今回は、3Dプリンターの最新動向(2022年版)をご紹介したいと思います。

よく耳にする「3Dプリンター」ですが、産業界では通常「AM」(Additive Manufacturing)という単語で呼ばれる事が多いです。そのため、このコラムでは以降「AM」と記載します。

1.AM開発に関するバイデン声明「AM Forward」

2013年のオバマ声明以降、AMの開発を主導した America Makes に加え、2022年5月には新たに AM Forward プロジェクトの発足を宣言するバイデン声明が発表されました。
これによって、米国の製造業強化と国内供給体制の強化に向けて GE Aviation Siemens EnergyLockheed HoneywellRaytheon などが主導し、中小企業の育成や人材育成などを目指し、産業の主体を大手企業から中小企業へシフトする狙いがあります。

2500億円規模の投資で8百万人の雇用創出を狙っており、本声明が出てプロジェクトが始動されたことにより、米国の産業が発展し日本企業との差がさらに拡大することが予測されます。

このAM Forward の発表以降、日本国内でもAM技術をより詳しく知ろうという方が増えたように思います。

 

2.AM技術の標準動向

AMに関する標準は、ISO/ASTMとSAEAMSが急速に進展しており、ASME、AWSもそれに続く形で制定が進んでいます。また、これとは別に、コンソーシアム等でも業界標準の制定が進んでいます。
 

AM技術の標準動向(標準制定の動き)

 

民間機、エンジンメーカー各社は、AM部品の適用基準を緩和するため、AMS、MMPDS等の標準化を推進しています。2015年以降、標準の制定が本格化しており、2021年は新規制定8件となっています。

将来的には機体エンジンメーカーが部品外注化することも想定されるため、サプライヤ管理のための工程承認方法(NADCAP第三者による工程承認)についても認定を推進している状況です。
 

AM技術の標準化(航空機機体認証)

 

3.AM材の設計強度保証方法

造形物の強度に関する設計許容値の要求は、業界・製品によって異なり、いずれも膨大な試験が必要になります。しかし、開発期間と費用の削減のため AM 適用の先行企業では、独自基準を設けて試験を効率化している状態です。
 

NASA標準とNMPDS

 

データベース構築(SAE AMS-AMDC)

材料、装置、プロセス別に制定が必要ですが、開発費用が膨大なAMの設計材料データを公的に制定する動きもあります。”SAE AMS-AMDC“という体制でデータベース構築を検討中で、ゴールド会員になると認証機関の承認したデータベースにもアクセス可能となるとのことです。

 

【参考】AMの種類(分類)

AMは、ハードウェアや材料の要件によって、選定する必要があります。

この記事の執筆時点で、ISOではAMが以下の7種類に分類されています。

  • 液槽光重合法(Vat photopolymerization)
  • 材料噴射法(Material jetting)
  • 結合剤噴射法(Binder jetting)
  • 粉末床溶融結合法(Powder bed fusion)
  • 材料押出法(Material extrusion)
  • 指向性エネルギー堆積法(Directed energy deposition)
  • シート積層法(Sheet lamination)

それぞれに得意不得意があり、適切な製品に適切な種類のAM手法を選定しなければなりません。

 

4.注目のAM適用事例

 

事例①:ワイヤーアークAM(WAAM)を用いた海事向け補用品造形技術

BAE Systems の子会社である ASC社(豪)は、防衛船舶用の補用品造形への WAAM(*1) の採否を検討するため、造形装置”Arcemy”および独自の制御ソフト”WAMSoftware”を販売する AML3D社(豪)のシステムを用いた技術を開発しています。

(*1):Wire Arc AM(ワイヤーアーク造形)
材料はアルミ合金2319、チタンTi6Al4V、SUS、Ni合金など、一般的な溶接材に対応。低合金鋼の事例では、造形後の静強度も既存の鍛造材よりも30%高強度。2020年にはロイドが認定する初のAM用の造形プロセスの世界発の認定メーカとなり、現在、豪州海軍船舶の補用品で想定寿命の2倍を耐荷し、DNVからの認定を取得しています。

 

事例②:金属AMを用いたCO2回収装置

GE Research社(米)では、高効率CO2回収装置開発に向けて、米エネルギー省プロジェクトで開発をしています。
溶媒を用いたCO2回収装置は、CO2が吸収された際に発熱反応で溶媒温度が上昇し、吸収率が低下する課題がありました。そこで、GEではAM熱交換器をベースにしたCO2吸着面を裏面冷却する機構を付与した新規構造を開発しています。
同様の機構を持ったAM CO2回収装置は、オークリッジ国立研究所(ORNL)でも開発されており、コンセプトの検証から製造性検証を経て性能検証段階にあります。

 

事例③:ロケットエンジン

2022年に飛行予定のNASA月面着陸船のロケットエンジンを開発しているMasten Space Systems社(米)は、NASA月面着陸船のロケットエンジン向けに、セラミックスとアルミニウムの混合粉末MMC(Metal Matrix Composite)を使用した高強度アルミ合金製部品の造形技術を開発しています。
一般的に、ロケットエンジンには耐熱性に優れたNi基合金が使用されますが、Elementum3D社(米)で開発されたAM用高強度アルミニウム合金材料(A1000-RAM10)を用いることで、従来AMでの造形が困難とされた高強度アルミニウム合金製複雑構造物の製造と、さらなる軽量化を可能にしています。
A1000-RAM10は、微細なCBセラミックスをアルミ粉末にまぶした特殊粉末を用い、造形後に微細分散したセラミックスの分散強化機を特徴とし、高強度で耐熱性に優れるという特徴があります。
同社では、このA1000-RAM10用いて、従来数百パーツも必要であった複雑構造をわずか3パーツに統合することができ、メンテナンス無しで10回分の再利用飛行が可能になったとのことです。
 

このように、広く多くの産業機器に使われてきているAM。
みなさんも上手く活用し、時代に乗り遅れないように、最新の技術動向を学びませんか?
 
当研究所では、3Dプリンタに関する様々なセミナー情報をご紹介していますので、ぜひご活用ください。

 
(アイアール技術者教育研究所 M・S)
 


 

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