3分でわかる技術の超キホン オキセタン樹脂の構造と特徴《3D印刷向け需要が急増》

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オキセタン樹脂と3Dプリンタ

「エポキシ樹脂」は知っているけれど、「オキセタン樹脂」は知らないという方もおられるかもしれません。
オキセタンとエポキシは、共に環状エーテルに属し、両者の構造は似ています
両者の反応性も類似していますが、差があります

そして、この差が工業的に重要な意味を持つため、オキセタン樹脂が産業界から注目されています。

 

1.環状エーテル

「環状エーテル」とは、その名の通り、環状のエーテル化合物です。
代表的な環状エーテルの構造を表1に示します1)
3員環のものが「エポキシ」4員環が「オキセタン」と呼ばれています。

環状エーテルにはカチオン触媒等によって開環して重合体を形成するという性質があります。

エポキシのケースを式1に例示します。
この開環重合の反応性に大きく影響するのが、表1中の右欄の環ひずみエネルギーです。
オキセタン(4員環)とテトラヒドロフラン(5員環)の間に大きな差があることが分かります。

【表1 代表的な環状エーテル構造】
代表的な環状エーテル構造

 

エポキシのケース

 

2.環状エーテルの開環重合性

環状エーテルの重合性は1960年代に活発に研究されました。
その成果は1971年刊行の成書にまとめられています2)
その要点を以下に示します。

  • 1)テトラヒドロピラン(6員環)までカチオン触媒により開環重合可能である。7員環以上の大きな環では重合が極めて困難である。
  • 2)実用上の十分な重合速度を有するのはエポキシ(3員環)とオキセタン(4員環)である。

開環することで解放される環ひずみエネルギーの大きさが開環重合の駆動力になると考えると、上記1)と2)は理解しやすいと思います。

 

3.オキセタン樹脂の特徴

オキセタン樹脂は、日本の東亜合成(株)が1990年代に世界で初めて商業生産を開始しました。
それまではエポキシ樹脂の独壇場だった光カチオン系硬化樹脂の分野に新規に参入したことになります。

現在入手可能なオキセタン樹脂の構造と代表的な性状を表2に示します3)

 

【表2 商業生産されているオキセタン樹脂】
商業生産されているオキセタン樹脂

 
これらのオキセタン樹脂は、光カチオン系硬化樹脂のユーザーの立場から見て、どんな特徴があると思いますか?
その特徴は下記2点に集約できます。

 開始速度エポキシ樹脂>オキセタン樹脂
 成長速度オキセタン樹脂>エポキシ樹脂

つまり、エポキシ樹脂よりも硬化の開始は遅いものの、いったん開始されるとエポキシ樹脂よりも高速硬化するのがオキセタン樹脂の特徴です。

硬化原料中の樹脂をオキセタン樹脂のみとすると硬化開始が遅いのが欠点となりますが、エポキシ樹脂にオキセタン樹脂を混合して使用したらどうなるでしょうか?
従来エポキシ樹脂が使用されてきた分野で、エポキシ樹脂の特性を維持しつつ硬化速度を向上させることができます。この点は実用面で非常に有効です。

 

4.オキセタン樹脂の需要が拡大中の分野:3D印刷

3D印刷技術の利用が産業界で急速に進行しています。

この3D印刷の分野で、表3に例示の組成のように、オキセタン樹脂をエポキシ樹脂に添加することによって、硬化開始後の硬化速度を無添加時よりも向上できると報告されています4)

 

【表3 3D印刷用樹脂組成の例】
3D印刷用樹脂組成の例

 
表2中のオキセタン樹脂Aを東亜合成(株)と共に上市している宇部興産(株)が、3D印刷の普及を受けてオキセタンの需要が中国をはじめグローバルに急増する中で、オキセタン樹脂の拡販に取り組むと2021年7月に報じられました5)
3D印刷以外の分野への展開も視野にあるとされています。

オキセタン樹脂の特性を活かした開発が今度進展すると予想されます。

 
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
 


≪引用文献、参考文献≫


 

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