《図面の改善点を厳選解説》手戻りや品質不良が発生しやすい定番ポイントを紹介
外注するに当たり調達担当者や生産管理者も、手戻りや品質不良を発生させないように図面の改善を検討することもあるでしょう。加工者や設計者と話し合いをするには、図面に関する基礎知識が必要です。
本記事では手戻りや品質不良が起きやすい図面と、図面を改善する時に知っておきたい基礎知識について解説します。
目次
1.手戻りや品質不良が発生する図面とは?
製図の基本は、加工に関する情報が全て記載されており、誰が見ても同じ加工ができるようにすることです。
ここでは、加工者にとって分かりづらい図面や品質不良が発生しやすいポイントについて紹介します。
(1)図面のルールに則っていない
図面には書き方に関するルールがあり、JISと呼ばれる日本工業規格に則って製図されるのが基本です。
例えば、部品の形状を表す線の種類はJISで決まっており、外形には太実線、寸法には細実線、直接には見えない部分は破線(かくれ線)と指定されています。
簡単な図面であれば外形が太実線でなくとも、部品の形状を読み取ることは可能です。
しかし、複雑な形状になればなるほど寸法線や破線が多くなるため、外形が細実線で描かれていると加工者は部品の外形を読み取りづらくなります。
(2)基準面がない
図面に寸法を入れる時は、基準面を起点にしなければなりません。
なぜなら、基準面を決めずに寸法を入れてしまうと、加工者はどこを基準として加工を始め、測定してよいか分からないからです。
下の図1の(a)は基準面を決めずに寸法をいれた例です。丸物なら基準面の両側を旋盤で加工しますが、基準面がないとワークのどこを把持して切削を開始すればよいか加工者は分かりません。
【図1 基準面の有無による図面の比較】
一方、右の(b)は基準面を決めているため、切削加工の基準となる箇所が分かります。
加工の基準を決めるだけでなく、基準面は意図した通りの寸法精度を出すという意味でも重要です。
(b)の場合、左端の120mmという寸法は普通公差の中級を適用すれば119.7~120.3mmに収まるように加工されます。
(3)公差情報がない
公差情報を入れ忘れた場合、設計通りの製品が出来る保証はありません。
例えば寸法公差を入れ忘れた場合、本来求めていた寸法精度とは異なる部品が出来上がり、手戻りや品質不良が発生する可能性があります。
下の図2では、穴の間の100mmという寸法を見てみると、(a)には寸法公差がなく、(b)には寸法公差が入っています。一見すると(a)と(b)は同じ形状の部品ですが、寸法公差が入っている場合といない場合とでは、その出来上がりは異なるのです。
【図2 公差情報の有無による図面の比較】
(4)公差が厳しい
上の例では寸法公差を指定していなかったために求めていた精度が出せないケースですが、その逆に公差を無駄に厳しくしても余計なコストや品質不良が発生します。
高い精度を求める切削加工には熟練した技術が欠かせません。生産現場や外部の協力会社の工程能力を把握せずに、厳しすぎる公差を図面で指定すると、図面通りの加工ができずに不良品が無駄に発生します。
それ以外にも、公差指定があるためにわざわざ工具を付け替えなければならず、作業時間がかかるといったケースも想定されます。余計な作業コストを発生させないために、調達や生産管理、営業などの担当者も図面を見直すことが重要です。
2.図面を改善する時に知っておきたい基礎知識
手戻りや品質不良が発生しないように図面を改善する場合には、当然ながら図面に関する基礎知識が必要です。ここでは、図面を正確に読み取る上で知っておきたいポイントを解説します。
(1)図面から加工方法を読み取る
加工に使われる技術には旋盤加工やフライス盤、プレス成形、射出成形などがあります。旋盤加工は円筒状の丸物を、フライス加工は板状やブロック状の角物を製作する場合に使われる技術です。プレス成形と射出成形は金型を使って目的の形状に曲げたりする技術で、金属かプラスチックかによってどちらかを選択します。
どの加工を採用すれば目的とする部品ができるかを図面から読み取り、社内で製作できるか、あるいは外注にするのかを判断します。その際に加工者と話し合いをするため、「図面から加工方法を読み取れる」ことは設計以外の人も持っておきたいスキルです。
(2)幾何公差について知る
公差には寸法公差のほかに幾何公差があります。寸法公差は長さに対しての指定ですが、幾何公差は形に対する指定です。ここでは一例として同軸度について紹介します。
「同軸度」とは、円筒状の部品が多段の場合にそれぞれの円筒の中心軸のずれを示すものです。
【図3 多段円筒の中心軸のずれ】
上の図3ように太い円柱の中心軸をA軸、細い円柱の中心軸をB軸として、2つの円柱の中心軸のずれを指定したい時に幾何公差の同軸度を記載します。
【図4 幾何公差の表し方(同軸度の場合)】
図4に示したように、幾何公差の表し方は、同軸度の公差記号と公差値、基準面を四角で囲い指示したい面を矢印で記載します。公差値φ0.05であれば「A軸とB軸の同軸度がφ0.05を満たしていること」が条件です。
「満たしている」とは、A軸を中心としたφ0.05の円があったとして、その円の中にB軸の中心位置が入っているという意味です。円筒状の部品は中心軸のずれが重要となるため、このような幾何公差を指定することがあります。
幾何公差には同軸度以外にも平行度や平面度、直角度など14の種類があり、もっと知りたいという方は以下の記事も参考にしてください。
[※関連記事:幾何公差とは?設計初心者に役立つ基礎知識を解説]
(3)記号の意味を知る
図面には様々な記号が記載されています。ばね記号や溶接記号のほかに、右下の表題欄には使用する材料の記号も記載されており、調達担当者にとっては必須の知識です。
なぜ材料を記号で示すかと言えば、工業製品として使用される材料には同じ鉄でも相当数の種類が存在するからです。材料記号は「S45C」のように示します。Sは鉄鋼のSteel、45は含有する炭素量で0.45%を意味しています。Cは炭素のCarbonの略です。
代表的な鉄鋼材料として表1のような材料が挙げられます。
種類 | 材料記号 | 用途 |
一般構造用圧延鋼 | SS400 | 一般機械部品 |
合金工具鋼 | SKS3 | 焼入れ部品 |
機械構造用炭素鋼 | S45C | 一般機械部品 |
S50C | ||
炭素工具鋼 | SK4 | 軸、ピン等 |
SK5 |
【表1 代表的な鉄鋼材料】
3.業務効率化はわかりやすい図面から!
どの加工者が見ても設計通りの加工ができるよう、わかりやすい図面を用意することが大切です。資材調達や生産管理者も日頃から図面の改善ポイントを探しておくと業務効率化が図れます。
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(アイアール技術者教育研究所 T・H)