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2024/12/3(火)9:30~16:30
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標準化に関する前回の記事では、デファクト標準のうち「事実上の標準」についてご説明しました。
今回はデファクト標準の続きとして「フォーラム標準」をご紹介します。
目次
業界(企業)や専門家(学会、個人)が集まって標準化集団を形成し、議論を重ねてルール化したものを、「コンソーシアム標準」や「フォーラム標準」といわれますが、これらもまたデファクト標準です。
本稿ではこれらを『フォーラム標準』と呼ぶことにします。
「コンソーシアム」とは。他の企業連合間との規格問競争を想定している企業連合をいい、ここで策定された標準を「コンソーシアム標準」といいます。ここでの活動には多くの組織(例えばW3C、The Open Group、ユニコードコンソーシアム、等多数)があります。
「フォーラム」とは他の企業連合間との規格問競争を想定していない企業、専門家連合をいい、ここで策定された標準を「フォーラム標準」といいます。ここでの活動もまた、多くの組織(例えばIEEEやDVDフォーラム)が存在します。フォーラム標準では業種毎、或いは業種の垣根を超えて課題毎に、課題に対して関心を有する企業、学会等の専門家が集まり、議論を交わし標準を策定します。
本書ではコンソーシアム標準、フォーラム標準と区分けせず、フォーラム標準として説明します。
フォーラム標準は、専門家集団によるボランティア活動で作成されています。
私達が毎日使っているパソコンやスマートホンによるインターネット接続や無線によるアクセス。いつでも、どこでも、だれとでも通信や、ネットでの閲覧など不自由なく出来ています。これらのルールや仕組みを構築している多くの活動があります。
数多くのフォーラム標準化活動の中から、今回は多くのタスク活動を行っているW3Cの活動とIEEEの活動を紹介しましょう。
「W3C」(World Wide Web Consortium、ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム)は、World Wide Webで使用される各種技術の標準化を推進するために設立された標準化団体であり、非営利団体です。
略称は「W3C」(ダブリュースリーシー)と略称されます。
1994年にティム・バーナーズ=リー氏が創設し、率いています。
本コンソーシアムは企業や団体が会員として加入し、専任スタッフと共にWorld Wide Webの標準策定を行っています。2022年1月8日現在、456の組織が会員として加入しています。
W3Cは教育活動も行っており、ソフトウェアを開発してWebに関するオープンな議論の場を提供しています。
また、HTML、XML、MathML、DOM等の規格を勧告しています。HTMLは、従来IETF(Internet Engineering Task Force)でRFC(Request for Comments)として標準化されていましたが、HTML 3.2以降はW3Cへ引き継がれました。
近年では新型コロナウィルスの世界的猛威によって、外出や対面でのコミュニケーションの制限によって、テレワークや、web会議、web展示会など、急速にweb技術の活用機会が増えてきました。こうしたテレワーク環境もまた、W3Cが設計した勧告技術によるところが多いのも事実です。
W3Cは非常に大きな組織、活動範囲ですが、ここではその概要と私達との関わりについて紹介します。
W3Cが勧告しているWWW関連の規格は「Web標準」と呼ばれ、Web制作の現場でもHTMLやCSS、DOMに関する仕様としてサービスの品質を決める大きな役割を果たしています。
インターネット通信では互換性が重要視されており、Web標準規格に準拠することはこの「互換性を保証する」ことにつながります。
互換性の重要性を象徴するものが、Webブラウザです。Webブラウザと言えば、Google Chromeをはじめ、Microsoft EdgeやFirefox、OperaやSafariなどが有名ですが、これらの開発元は異なります。同じWebページが、ブラウザの種類によってレイアウト等が大きく変わってしまうとなると困ります。
Webブラウザやバージョンごとの互換性を保証することは、ユーザーの使いやすさや開発者の開発における負担の軽減につながるため、大変重要です。このような互換性を保証するために開発者側が気をつけることとして、Web標準規格に準拠することが推奨されています。
W3C の作業は、Web テクノロジーの標準化を中心に展開しています。この作業を達成するために、W3C は、メンバーシップ、チーム、および一般の人々のコンセンサスに基づいて、高品質の標準の開発を促進する勧告トラックがあります。
仕様標準化の第1ステップは「作業草案」で、W3Cのワーキンググループが起草し、ディレクターの承認を受けて一般に公開されます。
勧告トラックの概要は以下の通りです。
ワーキンググループは、ワーキンググループの憲章によって想定される作業範囲を完了するための仕様とガイドラインを作成します。
これらの技術レポートは、W3C 勧告のステータスに向けて改訂とレビューのサイクルを経ます。レビューにより、ワーキンググループが広範なレビューを含む新しい標準の要件を満たしていることが示唆されると、勧告候補フェーズでは、ワーキンググループが実装経験を正式に収集して、仕様が実際に機能することを実証することができます。プロセスの最後に、諮問委員会は成熟した技術報告書をレビューし、メンバーシップからの支援があれば、W3Cはそれを勧告として公開します。
要約すると、W3C勧告トラックは以下で構成されています。
W3Cによる勧告は、次のURLから得ることができます。
https://www.w3.org/TR/
上記は英語版ですが、翻訳も可能となっています。正しい解釈は英語による解釈が妥当です。
W3Cからの成果物は、上記URLを参照するとわかるように非常に多岐にわたっています。
本稿では個別の成果については紹介しませんが、例として
『Accessibility of Remote Meetings(リモートミーティングのアクセシビリティ)』
を部分的に紹介しましょう。
概要
このドキュメントは、リモートおよびハイブリッド会議の実施で発生するアクセシビリティの考慮事項をまとめたものです。このような会議は、一部またはすべての参加者にとって、通常はWebテクノロジに基づいて構築されたリアルタイム通信ソフトウェアによって仲介されます。ソフトウェアの選択の問題、およびアクセスを提供する際の会議の主催者と参加者の役割について説明します。関連するW3C文書は、該当する場合、より詳細な、場合によっては規範的なガイダンスのソースとして参照されます。・・・・・
定義
一貫性と明確さのために、ここで定義されているように、このドキュメント全体で次の用語が使用されています。
1.1リモートミーティング
リモートミーティングは、オンラインで2人以上の関係者間で行われるリアルタイムのディスカッションまたはプレゼンテーションを表すために使用される包括的な用語です。よく使用されるその他の関連用語には、仮想会議、オンライン会議、オンラインプレゼンテーション、ビデオ会議などがあります。ウェビナーはリモートミーティングと見なすこともできますが、プレゼンターと出席者の間のやり取りが制限される場合があります。
リモート会議では、通常、参加者が相互に対話できるようにするコンピューター、スマートフォン、デジタルアシスタントなどのオンラインデバイスでオンライン会議プラットフォームを使用する必要があります。リモート会議プラットフォームの一般的な機能には、オンラインマイクまたは従来の電話を介した音声通信、オンラインカメラを介したビデオ通信、テキストベースの通信用のチャット機能、およびコンテンツを共有する機能が含まれます。これには、参加者のコンピューター画面の共有、スライドやビデオなどのメディアが豊富なコンテンツとの画面上のプレゼンテーションの共有、およびファイルの転送が含まれます。さらに、リモート会議プラットフォームには通常、参加者が他の参加者が利用できる機能を制御する会議ホストを割り当てる機能があります。・・・・・・
このように、私たちの日常とかかわりの強い標準が数多く作られています。
W3Cソフトウェアの実装とテストは仕様開発の重要な部分であり、コードをリリースすると開発者コミュニティでのアイデアの交換が促進されます。
【図1 認定オープンソースのロゴ】
すべてのW3Cソフトウェアは、オープンソース/フリーソフトウェアの認定を受けています。
より多くの開発者による実装・テスト・評価によって、早期にソフトウェア仕様の改善・改良がなされるのもまた、W3Cの特徴といえるでしょう。
W3Cのパテントポリシーの要約は以下の通りです。
「W3C 特許ポリシーは、Web 標準を作成する過程での特許の取り扱いを規定しています。
このポリシーの目的は、このポリシーに基づいて作成された仕様がロイヤリティフリー(RF)ベースで実装できることを保証することです。」
[出典:https://www.w3.org/Consortium/Patent-Policy-20200915/]
以上のように、W3Cによって作成される標準はRFを保証します。
ただし、W3C勧告に同ポリシーの条件で利用できない技術が含まれる場合,W3Cは問題調査を行う諮問委員会「Patent Advisory Group(PAG)」を召集します。
PAGには該当するワーキング・グループに参加しているW3Cメンバーなどが参加し,特許に抵触しない技術設計の検討,抵触する機能の削除の検討,仕様策定作業の中止などをワーキング・グループに提案するという。最終的にあらゆる方法を検討しても解決できない場合,PAGは該当技術をW3C勧告に採用するかどうかの判断を全W3Cメンバーに委ねます。そして、問題解決の際にW3Cのポリシーとの矛盾が発生する特許請求に関しては,例外手続きに従って処理することとなっています。
例外手続きについては前記のパテントポリシーを参照ください。
W3Cのワーキンググループで活動する個人や団体に対してもライセンス義務が課せられます。
W3Cにおいて標準化活動をするにあたっては上記URLからW3Cパテントポリシーをアクセスし、十分な理解のもと参加されることを勧めます。また、W3C勧告技術と関連する特許を有している際にもパテントポリシーを十分理解した上で対応することが求められます。
また、W3C勧告技術を利用する場合、勧告に対する特許の存在の有無を事前に把握することが重要です。
「IEEE」(アイ・トリプル・イー、Institute of Electrical and Electronics Engineers)は、アメリカ合衆国に本部を置く電気・情報工学分野の学術研究団体(学会)、技術標準化機関です。
会員の分布、活動は全世界的規模に及び、この種の専門職団体(英語版)として世界最大規模です。
W3Cがソフトウェアに軸足を置いた標準化を行っているのに対し、IEEEはハードウェアに軸足を置いた標準化活動といえるでしょう。ただし、両者ともにソフトウェア、ハードウェアを扱っています。
IEEEは、人類の利益のために技術を進歩させることに専念する世界最大の技術専門組織です。
以下は、IEEEのミッションとビジョンステートメントです。
下図は私たちの日々の暮らしと関連するIEEE規格を俯瞰したものです。
IEEEの最近の状況は、900件以上のスタンダードが実用化され、500件以上が開発中です。
身近なIEEE標準については、「IEEEスタンダード・アソシエイション(IEEE Standards Association ‒ IEEE-SA)について」(IEEEジャパンオフィス)をご参照ください。
IEEEの規模を把握してみましょう。
IEEEの活動や成果は次の通りです。
以上のように、IEEEは規模的にも活動成果の面でも全世界に影響を与える活動体であるといえます。
(以下は、「IEEEスタンダード・アソシエイション(IEEE Standards Association ‒ IEEE-SA)について」からの引用を含みます)
IEEEにおける標準化のステップは以下のⅰ~ⅴとなります。
ⅰ.IEEEで標準化したい案件があれば、アイデアの段階では大雑把なものでも具体的なものでも構いません。ただ、標準化を進めるには一個人ではなくグループの協力と同意が必要となります。IEEE-SAで標準化プロジェクトを開始するには、その提案者はまずPAR(Project Application Request)をそのプロジェクトの「スポンサー」に提出する必要があります。PARが認可されると「スポンサー」はその標準化したい案件に責任を持ち、技術的な監督を行います。
「スポンサー」は通常は IEEE のソサィエティが務め、提案したい標準化プロジェクトの分野や領域によって複数のソサイエティが務めることもあります。
ⅱ.PARをスポンサーの審査に適うものにしたい人達は、集まってPAR提出前に議論を重ねたいかもしれません。その集まりを「スタディ・グループ」と呼び、このグループがPAR承認後に実際に標準化の議論を重ねるワーキング・グループ(WG)に発展することもあります。
ⅲ.IEEEの標準化活動には2つのカテゴリーがあります。一つはIEEE-SAの個人会員および非会員(個人)がWGに参加して議論を重ねて開発に至るもの(Individual Project)です。もう一方はIEEE-SAの団体会員によって議論と開発がされるもの(Entity Project)です。
団体会員には企業、教育機関および政府機関などがなれます。団体会員はIEEE-SAにおけるいずれの Entity Project にも参加でき、それらの WG情報は団体会員のみに開示されます。IEEEで標準化をしたい案件がある場合、それを Individual Project としたいか Entity Project にしたいかはPAR 提出の際に示し、決定するのはスポンサーとなります。
Individual Project の WG の議論にはIEEE会員でも、IEEE、IEEE-SA いずれの非会員でも参加することが出来ます。
IEEE-SAにおける標準化の流れを下図にしまします。
【図2 IEEE-SAにおける標準化フロー】
[出典:IEEEジャパンフィスホームページより転載]
https://jp.ieee.org/activities/files/About_IEEE-SA_July2015.pdf
ⅳ.WGでの議論がある程度進んだ段階で、WG 参加者によってそのスタンダードの主な仕様の可否を決める投票(バロット)が行われます。WGバロットでの投票権は各 WGのルールに従って与えられます。例えば通信規格の IEEE802WGの場合、参加者が投票権を得るためには WGミーティングに3回の出席が必要となります。WGミーティングは2か月に1回開催されるので、これには半年を要します。
ⅴ.WGバロットを経てスタンダード開発の議論がさらに進み、それをドラフト化する段階でスポンサー・バロットを行います。スポンサー・バロットで投票できるのは基本的にIEEE-SA会員に限られますが、その WG のメンバーである必要はありません。しかしそのスタンダードの仕様を議論する上では WGバロットがより重要です。スポンサー・バロットではIEEE-SA の非会員でも1回のみ有効の投票権を購入して投票に参加することもできます。
このスポンサー・バロットを経てそのスタンダードは IEEE-SA 理事会で承認の運びとなり、発効します。
今日では、家庭や職場、そして駅や病院に至るまで無線ネットワークのWi-Fiにスマホやパソコンを接続することができます。このWi-FiもIEEEが策定した標準で成り立っています。
図3は日本における電波の利用状況を示します。
[出典:https://www.tele.soumu.go.jp/resource/j/equ/mra/pdf/30/j/01.pdf]
無線の通信規格IEEE802,11規格の通信速度は20年間で1000倍に高速化していることがわかります。家庭で使われているWi-FiルータにはIEEE802.11.b.g.nや、IEEE802.11ac規格準拠といったものがあります。
最近ではIEEE802.11axや、Wi-Fi6などといった機種も販売されています。IEEE802.11acの通信速度が6.93Gbpsに対して、IEEE802.11axでは9.6Gbpsと高速になっています。IEEE802.11axとWi-Fi6は同じもので6とはWi-Fiの6世代目を意味します。
【図3 電波の利用状況】
[出典:総務省 日本における電波利用の現状 (soumu.go.jp)]
身の回りには数多くのケーブルレスの電気製品があります。そしてそれらがスマートホンと無線で接続することができ、大変便利を感じている人が少なくないと思います。
例えば、スマホとイヤホンを無線で繋いで音楽を聴いたり、スマホで見ているYouTubeをテレビ側に切り替えたりといった、ホストと端末を無線で接続して使用します。このとき活躍するのがBluetoothです。Bluetooth 端末とホストの接続には認証のためのペアリングという操作が必要になります。これは、ホストと端末とを1対1で繋ぐためです。この動作によって不必要な接続がなくなり、セキュリティーが確保されます。
この規格もIEEEが策定しました。Bluetooth技術は、近距離(概ね10m)通信を低消費電力で行なうことを目的に、Ericsson、Intel、IBM、Nokia、東芝などの企業により結成された業界団体「Bluetooth SIG(Special Interest Group)」によって策定された規格を、IEEEがBluetooth SIGから技術をライセンスし、IEEE802.15ワーキンググループで検討されていたPAN(Personal Area Network)規格をBluetoothと完全互換にすることで「IEEE802.15.1」として採択され、標準となりました。
今ではマウス、スピーカ、ヘッドセット、ヘッドホン、スマートウオッチ、カラオケマイク等多くの製品に実用化されています。
2015年2月8日付で、IEEEがPatent Policyを改訂しました。
改定のポイントは2点です。
※詳細は次のURLを参照ください。
https://mentor.ieee.org/myproject/Public/mytools/mob/patut.pdf
IEEE標準に含まれる必須パテントを所有している場合、上記パテントポリシーを理解し、アクションをとる必要があります。
また、IEEE標準技術を使って製品製造またはサービスをする場合は標準と関わる必須パテントの存在の有無、LOAの存在を十分把握する必要があります。
以上、いくつかの例を挙げてデファクトスタンダードを説明しました。
前回の記事、デファクトスタンダードのその1「事実上の標準」では、継続的な顧客満足度向上の活動がとても大事なことをVHSの事例を通して理解しました。
Apple社がPCやスマホでとってきたクローズド戦略と、マイクロソフトやIBM、Googleがとってきたオープンアーキテクチャ戦略のどちらが良いとは断定できませんが、今日の早い技術進歩を支えているものにはオープンな、アジャイルな取り組みがあるのではないでしょうか?
パソコンやスマホの事例からはトップダウンのウォーターフォール型に対して、多くの人が知恵を出し素早く改善して完成度を高めていくアジャイル型を志向している団体が増えているようにも見受けられます。
一方の、デファクトスタンダードその2「フォーラム標準」ではく専門技術者の意見を反映し、コンセンサスを形成し、素早い実装とテスト、評価を行って市場に対して利便性を問いかけるアジャイル型の標準開発、そして進歩性の高い技術をパテントフリーとして安価で市場に普及させる取り組みによって、わたくしたちの生活がより手軽に便利に豊かになっています。
非営利団体のこうした標準化活動に、感謝と声援を送りたい気持ちです。
(アイアール技術者教育研究所 M・O)