3分でわかる技術の超キホン 「光触媒」とは?酸化チタンと「超親水性」の基礎知識
1.光触媒とは?
まず大前提として、「触媒」とは反応物質より少ない量で反応速度を加速し、自らは化学反応式に現れないものを指します。例えば、有名な「クロスカップリング反応」では、”C-C結合”を作るためにパラジウム錯体が触媒として使われます。
そして、「光触媒」(Photocatalyst)とは、光化学反応の一種であり、光の照射による触媒作用を示す物質のことです。光エネルギーの吸収により反応を加速するため、光を吸収する触媒が必要不可欠となります。
光合成も光触媒?
お馴染みの植物の「光合成」は自然界の光触媒です。
光合成生物は、光エネルギーを使って、水と空気中の二酸化炭素から炭水化物(糖類等)を合成しています。また、光合成は水を分解する過程で生じた酸素を大気中に供給します。
光合成は葉緑体(クロロプラスト)の中で行い、光合成反応の前後に葉緑体の変化はありません。
ただ、実際に使われている「光触媒」は、天然物ではなく、人工の化学物質を指していることが多いです。
光触媒作用を示す材料はいろいろありますが,ここでは最も実用化されている「酸化チタン」を例として、光触媒の仕組みを説明致します。
2.酸化チタンとは?
酸化チタンは通常は白い粉で白色塗料として多く使われています。
また紫外線を吸収するので化粧品にも使われています。
1967年、東京大学の本多健一氏と藤島昭氏は、実験で水溶液中の酸化チタン(TiO2)電極に強い光を当てたところ、表面から泡が出ることを見出しました。
この泡の正体は酸素であり、対極の白金からは水素が発生していることが確認されました。
このように、酸化チタンに光を照射することによって、水が酸素と水素に分解されるのは、後の酸化チタン表面での『光触媒』研究の発端となっていました。
酸化チタンは半導体?
酸化チタンは、半導体でもあります。
半導体は、電気を通す金属のような良導体とは異なり、電子が通常存在する領域(図1 価電子帯)と電子が自由に動いて電気を伝えることができる領域(図1 伝導帯)との間にエネルギーのギャップ(バンドギャップ)が存在するため、通常は電気を通しません。
この酸化チタンに光が当たると、光のエネルギーを受けることで自分自身が高エネルギーの状態となり、光が当たった表面の電子を放出します。
このとき受けたエネルギーが充分に高ければ(光の波長は400nm以下)、価電子帯にあった電子(e-)は、価電子帯と伝導帯のエネルギーの差(バンドギャップエネルギー)を超えて、一気に伝導帯まで上がります。(このようにエネルギーレベルが上昇することを「励起」と呼びます。)
電子が抜け出た穴は「ホール」(正孔)と呼ばれ、プラスの電荷を帯びて、h+で表示します。
正孔は強い酸化力をもち、水中にあるOH⁻(水酸化物イオン)などから電子を奪います。
電子を奪われたOH–は非常に不安定な状態の・OHラジカルになります。・OHラジカルは強力な酸化力を持ちます。一方飛び出した電子は、酸素O2と結合して活性酸素(O2–)を発生させます。
これらの活性酸素やラジカルによって、様々な化学物質が酸化分解され、最終的には二酸化炭素や水などの無害な物質が生成されます。また、酸化チタンは元の状態に戻ります。
このように光(紫外光)の照射により、触媒の電子構造の変化を起こし、関連の化学反応を起こしたり、促進したりするのは「光(紫外光)応答型光触媒」と呼ばれます。
[図1.酸化チタン表面の光触媒反応の仕組み]
3.超親水性とは?
「超親水性」とは、酸化チタンに紫外光を照射すると表面が非常に水になじみやすくなり、水滴を垂らしても薄く広がって膜を形成するようになる現象のことを指します。
これは紫外光の照射で生じた正孔によって、酸化チタン表面におけるチタン原子と酸素原子の化学結合(Ti-O-Ti結合)が切断され、その酸素原子と水が反応して、水になじみやすい水酸基(-OH)が形成されるためと考えられています。
4.光触媒の用途
酸化チタンを素材とする光触媒は酸化還元反応を促進することから、有機物や細菌を分解することが可能で、環境問題を中心とした身の回りの様々な局面で利用できます。
具体的には、大気、水質、土壌の浄化から、抗菌・除菌、防汚・セルフクリーニングなどに利用できます。
また、超親水性という性質を利用して、ガラス、鏡、建物の外壁等の防汚や曇り防止等の面にも活用されています。
次回は、いま注目度の高い技術の一つである可視光応答型の光触媒と人工光合成について解説します。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)