【医薬品製剤入門】可溶化剤とは?主な種類/剤形の要点まとめ[医薬品添加物の解説⑧]
医薬品の多くは、水に溶けないまたは溶けにくい有機化合物でできています。
これら溶解性の低い薬物は、そのままでは服用しても胃や腸で吸収されず患部に届かなくなり、医薬品としての機能が充分に発揮できないことになります。
だからといって、薬物の服用量を増やすと副作用が現れたりしてしまう場合もあります。
そこで、添加剤によって医薬品原薬の溶解性を上げるという技術があります。
今回は、医薬品原薬を溶解する「可溶化剤」について概要をご説明したいと思います。
目次
1.可溶化剤とは?
可溶化剤とは、薬物の溶解度を増加させるために使用される添加物をいいます。
胃や腸で吸収されるためには、胃液や腸液で溶解している必要があります。
薬物の溶解度は、種々の要因(温度、pH、溶媒、粒子径等々)によって影響されますが、溶解性向上の手段の一つとして可溶化剤が使用されます。
可溶化剤としては、界面活性剤が多く使われています。
また、可溶化の方法としては、リポソーム製剤やシクロデキストリンによる包接化などによる方法も使われています。
2.可溶化剤を用いた医薬品剤形
(1)注射剤
注射剤のうち、特に難溶性薬物の場合は、可溶化剤が使用されています。
可溶化剤としては、非イオン界面活性剤が多く用いられているようです。
可溶化剤は、一般的には大量の可溶化剤を必要とし、時に薬物の10倍以上の量を要する場合もあります。
(例)パクリタキセル注射剤
抗癌剤であるパクリタキセルの注射剤は、難溶性であるパクリタキセルをエタノールと界面活性剤のポリオキシエチレンヒマシ油を用いてつくられていますが、パクリタキセル100mgに対して、ポリオキシエチレンヒマシ油を8.35ml使用して注射剤としています。
同様な処方としているものとして、タクロリムスやバルルビシンなどがあります。
(2)経口剤
経口内服剤に可溶化剤として界面活性剤が少量使用されることがあります。
実際、溶出性が改善された例などが報告されています。
固形剤の濡れを改善するには界面活性剤のHLB値(*)が6~7以上が望ましいとされています。
(*)参考:HLB値とは?
HLB値とは、界面活性剤の疎水性と親水性のバランスを表す値で、一般的にHLB値が大きくなれば水に溶けやすい性質になります。HLB値が6~8の界面活性剤は、水によく分散して乳濁液となり、w/oエマルジョンに乳化剤として使用されます。
(3)外用剤
軟膏・ローション剤等への利用として、界面活性剤を乳化剤または分散剤として添加する例が多くあります。
(4)リポソーム製剤
「リポソーム」とは、リン脂質が水中で形成する脂質2分子膜より成る小包のことをいいます。
レシチンなどのリン脂質は両親媒性物質で、ベシクルと呼ばれる脂質2分子膜の集合体を形成し、このリポソーム内に各種薬剤を閉じこめて一種のカプセルとすることで、難溶性薬物の可溶化の一手段とされています。
医薬品としては、注射用アムホテリシンBリポソーム製剤、ドキソルビシン塩酸塩リポソーム注射剤などがあります。
(5)シクロデキストリン製剤
「シクロデキストリン」は、D-グルコースが6~8分子結合した環状オリゴ糖で、環状構造の内部は疎水性になっており、薬物などを包摂することができます。
ボリコナゾール静注用には、スルホブチルエーテル β-シクロデキストリンナトリウムが用いられており、ボリコナゾールの可溶化剤として使用されています。
3.可溶化剤の種類
以下、代表的な可溶化剤を取り上げてみます。
(1)中鎖脂肪酸トリグリセリド
主として飽和脂肪酸(CH3(CH2)nCOOH、n =4~10)のトリグリセリドよりなるもので、ヤシ油パーム核油から得られた脂肪酸をグリセリンでエステル化して作られます。
性状は、無色~微黄色の澄明の液で、においはないか、又は僅かに特異なにおいがあり、味は緩和であり、エタノール(95)、ジエチルエーテル、シクロヘキサン又は石油エーテルと混和し、水と混和しないとされています。
可溶化剤以外の用途としては、可塑剤、基剤、矯味剤、軟化剤、乳化剤、賦形剤、溶剤、溶解補助剤などがあります。最大使用量は、経口投与 適量、一般外用剤 300mg/g、舌下適用 100mg/gとなっています。
医薬品としては、アセトアミノフェン坐剤小児用、アルファカルシドールカプセル、イコサペント酸エチルカプセル、カルシトリオールカプセル、ケトコナゾールクリーム、デュタステリドカプセル、ナルフラフィン塩酸塩カプセルなどに使用されています。
(2)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール
水にプロピレンオキシドを付加重合させて得られるポリプロピレングリコールにエチレンオキシドを付加重合したもので、HO(C2H4O)n(C3H6O)m(C2H4O)n-H で表され、プロピレンオキシド及びエチレンオキシドの平均重合度の異なるものがいくつか界面活性剤として使用されています。
ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコールの性状は、白色のパラフィンようの薄片又は粉末で、僅かに特異なにおいがあり、味はなく、水又はメタノールに極めて溶けやすく、エタノール(95)に溶けやすく、ジエチルエーテルにほとんど溶けないとされています。
可溶化剤以外の用途としては、界面活性剤、可塑剤、コーティング剤、賦形剤、分散剤、崩壊剤、糖衣剤などがあります。最大使用量は、経口投与 400mgとなっています。
医薬品としては、アシクロビル顆粒、アダパレンゲル、アリピプラゾールOD錠、アロチノロール塩酸塩錠、エポジン注シリンジなどに使用されています。
(3)マクロゴール300
HOCH2(CH2OCH2)nCH2OH 、n=5~6 で表される酸化エチレンと水との付加重合体であるポリエチレングリコールです。
重合度によって使い分けがされ、可溶化剤としては、マクロゴール300が使われます。
性状は、無色澄明の粘性の液で、僅かに特異なにおいがあり、水、エタノール(95)、アセトン又はマクロゴール400 と混和し、ジエチルエーテルにやや溶けやすいとされています。
可溶化剤以外の用途としては、安定(化)剤、基剤、コーティング剤、湿潤剤乳化剤、分散剤、溶剤、溶解補助剤などがあります。最大使用量は、経口投与20 mg、一般外用剤450 mg/g、その他の外用2 mgとなっています。
医薬品としては、アシクロビル軟膏、アナストロゾール錠などに使用されています。
(4)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
ヒマシ油に酸化エチレンを付加重合して得られ、酸化エチレンの平均付加モル数は3、10、20、35、40、50 及び60 があります。
このうちのポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50の性状は、白色~微黄色のワセリンようの物質で、僅かに特異なにおいがあり、味はやや苦く、酢酸エチル又はクロロホルムに極めて溶けやすく、エタノール(95)に溶けやすく、水に溶けにくく、ジエチルエーテルにほとんど溶けないとされています。
可溶化剤以外の用途としては、基剤、懸濁(化)剤、乳化剤、賦形剤、分散剤、溶解補助剤などがあります。最大使用量は、経口投与450mg、静脈内注射400mg、一般外用剤 200mg/gとなっています。
医薬品としては、ケトチフェンシロップ小児用、セルシンシロップ、リドメックスコーワクリームなどに使用されています。
(5)ポリソルベート80
別名としては、「オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン」などがあります。
性状は、無色~帯褐黄色の透明またはわずかに乳濁した油状の液で、水、メタノール、エタノール(99.5)、酢酸エチルと混和するとされています。
可溶化剤以外の用途としては、安定(化)剤、界面活性剤、可塑剤、滑沢剤、基剤、結合剤、懸濁(化)剤、コーティング剤、湿潤剤、消泡剤、乳化剤、粘着剤、粘調剤、賦形剤、分散剤、崩壊剤、崩壊補助剤、溶剤、溶解剤、溶解補助剤などがあります。最大使用量は、経口投与 300mg、その他の内用 156.8mg、静脈内注射 500mg、筋肉内注射 100.2mg、皮下注射 50mg、皮内注射 2mg、その他の注射 8.6mg、一般外用剤 100mg/gとなっています。
医薬品としては、アスピリン腸溶錠、アゼルニジピン錠、インドメタシンパップ、エトポシド点滴静注液、オランザピン錠、クラリスロマイシン錠、ケトプロフェンテープなどに使用されています。
(6)ラウリル硫酸ナトリウム
ラウリルアルコールの硫酸エステルのナトリウム塩です。別名は「ドデシル硫酸ナトリウム」です。
性状は、白色~淡黄色の結晶または粉末で、わずかに特異な臭いがあり、水に溶けやすく、エタノール(95)にやや溶けにくいとされています。
可溶化剤以外の用途としては、安定(化)剤、界面活性剤、滑沢剤、基剤、結合剤、光沢化剤、賦形剤、崩壊剤、乳化剤、発泡剤、分散剤、湿潤剤などがあります。最大使用量は、経口投与 300mg、一般外用剤 20mg/gとなっています。
医薬品としては、アシクロビル顆粒、アジスロマイシン錠、アンブロキソール塩酸塩徐放カプセル、エゼチミブ錠、オメプラール錠、シロドシンOD錠、セレコキシブ錠に使用されています。
(7)精製卵黄レシチン
ニワトリの卵黄から精製して得たレシチンで、定量するとき、換算した脱水物に対し、リン(P:30.97)3.5~4.2%及び窒素(N:14.01)1.6~2.0%を含むものです。
性状は、白色~橙黄色の粉末又は塊で.僅かに特異なにおい及び緩和な味があり、クロロホルムに極めて溶けやすく、ジエチルエーテル又はヘキサンに溶けやすく、エタノール(95)にやや溶けやすく、水又はアセトンにほとんど溶けないとされています。
医薬品添加物としては、乳化剤としてのみ使用されます。最大使用量は、静脈内注射 36mgとなっています。
医薬品としては、ディプリバン注、アルプロスタジル注、プロポフォール静注、リプル注などに使用されています。
(8)大豆レシチン
大豆から精製したもので、その主成分はリン脂質です。
性状は、淡黄色~暗褐色の澄明又は半澄明の粘性の液、若しくは白色~褐色の粉末又は粒で僅かに特異なにおい及び味があるり、クロロホルム又はヘキサンに極めて溶けやすいとされています。
可溶化剤以外の用途としては、安定(化)剤、乳化剤、分散剤などがあります。最大使用量は、経口投与120mg、静脈内注射1.2g、一般外用剤10mg/gとなっています。
医薬品としては、イコサペント酸エチル顆粒状カプセルなどに使用されています。
4.可溶化剤選択のポイント
上記のように可溶化剤の多くは、界面活性剤と呼ばれるものです。
界面活性剤は、電気的性質から、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤(両親媒性物質)の4種類に分けることができますが、界面活性剤の安全性の観点からは、通常、
[ノニオン界面活性剤 > アニオン界面活性剤 > カチオン界面活性剤]
の順で安全性が高いとされています。
したがって、界面活性剤の種類と使用目的は連動しており、例えば、注射剤には難溶性薬物の可溶化剤としてノニオン界面活性剤を用いることが多いとされています。
5.可溶化剤に関する特許・文献を検索してみると?
(※いずれも2020年7月時点での検索結果です)
(1)可溶化剤に関する特許検索
- 請求範囲検索: [可溶化剤/CL] ⇒ 2725件
- [可溶化剤/CL]*[A61K/FI] ⇒ 1535件
Fタームには、「溶解補助剤、可溶化剤」として”4C076FF15″がありました。
- Fターム検索: [4C076FF15/FT] → 4673件
《年代別グラフ》
Fターム検索で得られた 件を年代別グラフにしてみると次のようになりました。
《出願傾向》
また分野別にみてみると、やはり医薬分野が圧倒的に多いです。(2000年以降)
分野(FI) | 件数 |
A61 | 2997 |
C07 | 545 |
A23 | 223 |
C12 | 154 |
C08 | 147 |
A01 | 89 |
《可溶化剤別出願数》
上記の可溶化剤が請求範囲に記載されている特許を調べてみました。
- 中鎖脂肪酸トリグリセリド
- ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール
- マクロゴール300
- ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
- ポリソルベート60
- ラウリル硫酸ナトリウム
- 精製卵黄レシチン
- 大豆レシチン
内用液、経口液剤、、眼科用組成物などの特許が多く、経皮投与に関する特許も数件見受けられました。
(2)可溶化剤に関する文献検索
- 全文検索: 可溶化剤 ⇒ 721件
- 全文検索: 可溶化剤 * 医薬 ⇒ 237件
- 全文検索: 可溶化剤 * 脂肪酸トリグリセリド ⇒ 1件
- 全文検索: 可溶化剤 * ポリオキシエチレン * プロピレングリコール ⇒ 9件
- 全文検索: 可溶化剤 * マクロゴール ⇒ 3件
- 全文検索: 可溶化剤 * ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 ⇒ 25件
- 全文検索: 可溶化剤 * ポリソルベート ⇒ 29件
- 全文検索: 可溶化剤 * ラウリル硫酸ナトリウム ⇒ 15件
- 全文検索: 可溶化剤 * 精製卵黄レシチン ⇒ 4件
- 全文検索: 可溶化剤 * 大豆レシチン ⇒ 9件
タイトルをザっと見てみると、「貼付剤の製剤学的同等性の評価」「医薬品における界面活性剤の役割」「シクロデキストリンを用いた難水溶性薬物の溶解性改善」などの文献がありました。
各特許文献・非特許文献の具体的な内容について興味がある方は、ぜひご自身でデータベースを検索して確認してみてください。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)