3分でわかる ホワイト水素とは?グリーン水素との違いは?実例や生成機構も紹介
「グリーン水素」はご存じでも「ホワイト水素」は初耳という方もおられるかもしれません。
本記事では、新たなクリーンエネルギー候補として注目されている「ホワイト水素」の基礎知識を解説します。
1.グリーン水素(G)とホワイト水素(W)
これまで水素(厳密には水素ガス)と言えば、エネルギーを投入して人間が製造するものに限られていました。敢えて断るまでもなく水素とは「人工水素」でした。
また、clean水素(C)[=CO2排出を伴わない水素]と言えば、green水素(G)[=再生可能エネルギーを用いて製造する水素]に限定されていました。
しかし新たに、ホワイト水素(W)がクリーン水素(C)として登場してきました。
表1はグリーン水素(G)とホワイト水素(W)を比較したものです。
【表1 クリーン水素(C)の比較】
グリーン水素(G) | ホワイト水素(W) | |
CO2排出 | 無し | 無し |
由来 | 人工 | 天然 |
入手法 | 再生可能エネルギーで水を電気分解 | 地中から採掘 |
新旧分類 | 従来型 | 近年認知 |
将来性 | 有望 | 不透明 |
「グリーン水素(G)」は、太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギーを用いて水を電気分解して得られる水素です。
化石エネルギー由来の「グレー水素」や「ブルー水素」とは区別して「グリーン水素」と呼ばれており、CO2排出を削減するための有望技術として期待されています。ご関心のある方は下記コラムをご参照下さい。
[※関連記事:3分でわかる グリーン水素の基礎知識|水電解技術など低コスト製造への課題を解説!]
ホワイト水素とは何か?
これに対して「ホワイト水素(W)」は地中に存在する天然の水素であり、採掘により水素ガスの状態で得られる水素です。
水素が化合物や水の中に構成元素として含有されているだけでなく、水素ガスの状態でも自然界に存在することは、近年になって判明した事実です。確実だと認知されたのはつい最近です。
2014年に刊行された水素に関するハンドブックでも「このように自然界では純粋な水素はほとんどなく、そのままの状態では産出されることはない。」と記載1)されていましたが、これが覆りました。
ただしホワイト水素の資源量や産出コストについては不明な点が多く、将来性はまだ不透明な状況です。
2.ホワイト水素の実例
ホワイト水素の実例としては、マリのBourakebougouで水素純度97.4vol%のものが、オマーンのSamailで水素純度93.8 vol%のものがこれまでに発見されています2)。
マリでは採掘した水素を直接燃焼して発電し、近隣の村に提供するパイロットプロジェクトが2012年から開始され、現在まで電気の供給を続けています3)。
3.ホワイト水素が生成する機構
ホワイト水素がどういう機構で生成するのか、疑問の方も多いでしょう。
現時点で有力視されている機構のうち、ここでは2つを紹介します。
(1)水の放射線分解
岩石中に含まれる微量のU(ウラン)やTh(トリウム)等の放射性元素の崩壊で発生する放射線により水が分解され水素が発生するというものです4)。
(2)蛇紋岩化作用
これは、式1に示したように、地中深部の高温環境下でかんらん石が水と反応して蛇紋石に変化し、この反応に伴って水素が発生するというものです5)。
上記の機構ではどちらもCO2を発生しませんので、ホワイト水素(W)がクリーン水素(C)であることとは矛盾しません。ただ、ホワイト水素は地中の鉱物資源を消費して生成するので、「再生可能」とは言えません。その点でグリーン水素(G)とは異なります。
同じクリーン水素(C)でも、グリーン水素(G)は再生可能エネルギー由来であり、ホワイト水素(W)は天然物だと覚えてください。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《引用文献、参考文献》
- 1) 水素エネルギー協会(編), 水素の事典, 朝倉書店(2014)
- 2) 小杉安由美, 「天然水素の動向」, (独)エネルギー・金属鉱物資源機構(WEBサイト)
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009585/1009871.html - 3) Hydroma社(WEBサイト)
https://hydroma.ca/about-us-our-history/ - 4) Eric Hand, “Hidden hydrogen”, Science 379, Issue 6633(2023)
https://www.science.org/doi/epdf/10.1126/science.adh1477 - 5) 野坂俊夫,「蛇紋岩化作用における水素の発生に対する岩石学的制約条件」, 岩石鉱物科学41(5), 174-184(2012)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gkk/41/5/41_120608/_article/-char/ja/