生分解性プラスチックはどのように作られる?製法パターン別に代表例と特徴を解説
生分解性プラスチックの製造方法は、微生物生産系・天然物系・化学合成系の3パターンに大別できます。
この記事では、「生分解性プラスチックの製法と特徴」について、代表例を交えながらやさしく解説します。
なお、生分解性プラスチックに関する基本的な性質や分解の仕組みについては「生分解性プラスチックの基礎知識」の回で解説しています。前提知識を確認したい方はこちらの記事も併せてご参照ください。
目次
1.微生物生産系の生分解性プラスチック
微生物生産系の代表例な生分解性プラスチックとして、表1に示したポリヒドロキシブチレート(PHB)とポリヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエート共重合体(PHBH)が挙げられます。これらのポリエステル系プラスチックは「ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)」と総称されています。
古細菌等の一部の微生物がPHAを生産し体内に蓄積します。
「微生物がプラスチックを生産する」というのは不思議と思われるかもしれません。
何故プラスチックを生産するのでしょうか?
その目的はエネルギー貯蔵にあることが分かっています。
人間を含む動物も微生物も通常は脂肪の形でエネルギーを体内に蓄積しますが、これら一部の微生物においてはPHAとして蓄積されます1)。
PHAの中で最初に見いだされたのはPHBでした。しかしPHBには成型性に難があり、脆いという欠点もあるため、PHBH等の改良品が開発されてきています。
このPHBHは日本の(株)カネカが量産化に成功しています。同社PHBHの原料は植物油です。同社PHBHはスプーンやストロー等の食品用として認可されている他、海洋での生分解性も高いと報告されています2)。
【表1 微生物生産系の代表的な生分解性プラスチック】
2.天然物系の生分解性プラスチック
天然物系の代表的な生分解性プラスチックとして表2に示す、デンプン、セルロース、キトサン、酢酸セルロースが挙げられます。
デンプンやセルロース等の天然物が生分解性を持つことは理解しやすいでしょう。デンプンは穀物に含まれ、セルロースは草本類に含まれている共によく知られた素材ですが、キトサンはご存じない方もおられるかもしれません。キトサンはカニやエビなどの甲殻類から得られるキチンのアセトアミド基を脱アセチル化することにより得られます。キトサンの骨格はセルロースと同様にβ-1,4-結合で形成されています。
【表2 天然物系の代表的な生分解性プラスチック】
酢酸セルロースの生分解性
酢酸セルロースは生分解性プラスチックへの関心が高まる以前から生産されていたプラスチックであり、偏光板保護フィルム、たばこフィルター、水処理用分離膜として利用されています3)。環境意識が高まる中で、その生分解性が改めて見直されたケースと言えるでしょう。
酢酸セルロースはセルロースの水酸基を酢酸と反応させてエステル化(アセチル化)することで得られます。
酢酸セルロースの生分解性に関してご留意いただきたいのは、モノマーあたり3個存在するOH基のアセチル置換量(最大で3.0)によって大きく変動する点です。
図1にモデル実験の結果を示します4)。
置換量1.0近傍では比較的高い生分解性を示しますが、置換量2.0を超えると急速に生分解性が低下することが分かります。
【図1 酢酸セルロースの生分解性のアセチル置換量依存性】
3.化学合成系の生分解性プラスチック
化学合成系の代表的な生分解性プラスチックとして表3に示す、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコールが挙げられます。
【表3 化学合成系の代表的な生分解性プラスチック】
ポリ乳酸(PLA)
ポリ乳酸はバイオマス由来の乳酸を重合して製造されます。ラクチド(二量体)法と直接法が知られています。
ポリ乳酸には自然界での生分解性が低いという弱点がありますが、これを解決する検討も進行中です。
帝人フロンティア(株)は独自の生分解性促進剤を添加することで、強度や成型性などの実用性を損なうことなく生分解速度を向上させることに成功したと報告しています5)。
ポリブチレンサクシネート(PBS)
ポリブチレンサクシネート(PBS)は、コハク酸と1,4-ブタンジオールの共重合によって得られるポリエステルです。物性がポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンと似ており成型加工も同様の条件で出来るのが特徴です。自然環境に廃棄プラスチックされるプラスチックの大部分はポリオレフィンですので、ポリオレフィン代替の可能性持つPBSには大きな期待が寄せられています。ただ現状では高価なのが難点とされています。
ポリグリコール酸(PGA)
ポリグリコール酸(PGA)は、加水分解性ポリエステルの一種で、極めて高い生分解性と優れた機械的強度を持つ素材です。特に湿潤環境下において分解速度が速く、土壌や水中での使用にも適性があることから、医療や農業用途などで注目されています。
製法としては、グリコール酸モノマーを開環重合することにより合成されます。グリコール酸自体は石油由来でもバイオ由来でも製造可能ですが、現時点ではコストや製造プロセスの難易度が高く、量産化には課題があります。
ポリビニルアルコール(PVA)
ポリビニルアルコールは1950年代から上市されている汎用のプラスチックです。
その製法と用途に関しては下記コラムをご参照ください。
[※関連記事:3分でわかる ポリビニルアルコール(PVA)の機能・特性 ]
ポリビニルアルコールは、ポリ乳酸やポリヒドロキシブチレートのようなポリエステルよりも高い生分解性を備えています。これは、微生物体内における分解の前段階である、微生物体外での加水分解の速度がポリエステルよりも速いためです。
4.生分解性プラスチックの生産能力
生分解性プラスチックの生産能力については、図2をご覧ください。
この図はバイオマスを原料とする(酢酸セルロースは除外)生分解性プラスチックに関して、その生産能力を示したものです。世界で合計139万トンのうち2/3はポリ乳酸が占めています6)。
【図2 バイオマス原料の生分解性プラスチックの生産能力】
以上、本記事では生分解性プラスチックの製造方法を「天然物系」「微生物生産系」「化学合成系」の3つに分類し、それぞれの代表素材と特徴について解説しました。
同じ“生分解性”という特性を持つプラスチックでも、原料の種類や合成経路によって、得られる物性や分解性、さらにはコストなどにも大きな違いがあることが分かります。
次回は、生分解性プラスチックが抱える課題について解説します。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《引用文献、参考文献》
- 1) 猪野光太郎他, 超高分子量ポリヒドロキシアルカン酸:微生物生産とその物性, オレオサイエンス21(12), 517-523(2021)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/21/12/21_517/_article/-char/ja/ - 2) (株)カネカのwebsite, カネカ生分解性バイオポリマー
https://www.kaneka.co.jp/solutions/phbh/ - 3) 浜田豊三, セルロース誘導体と酢酸・酢酸誘導体の合成と利用, 化学と教育71(8), 330-333(2023)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/71/8/71_330/_article/-char/ja/ - 4) Oskar Haske-Cornelius etc., Enzymatic Systems for Cellulose Acetate Degradation, Catalysts 7(10), 287(2017);から作成
https://doi.org/10.3390/catal7100287 - 5) 帝人フロンティア(株)website, 生分解性と実用性を両立するPLA樹脂の開発
https://www.teijin.co.jp/news/2022/12/07/20221207_01.pdf - 6) European Bioplastic のwebsite情報から作成
https://www.european-bioplastics.org/market/applications-sectors/