3分でわかる技術の超キホン イオン交換樹脂とは?種類(分類)/原理/特徴/用途など要点解説
目次
1.イオン交換樹脂とは
「イオン交換樹脂」(ion exchange resin)は、イオン交換基(官能基)を持つ網目状構造の不溶性高分子化合物です。通常は球状の粒子となっています。
官能基は化学結合により樹脂の骨格にくっつき、溶液中で電離することができます。
樹脂の骨格と結合しているイオンを「固定イオン」、反対電荷をもつイオンを「対立イオン」といいます。
樹脂のイオン交換によってそれぞれのイオンを分離することができ、「イオン交換樹脂」と呼ばれます(図1)。
【図1 イオン交換樹脂の構造イメージ図】
イオン交換樹脂は主に直径1ミリメートル弱の粒状で、分子鎖が網目構造であるため水やイオンの浸透が容易であり、表面積も大きくなります。他に繊維状や液状の製品もあり、膜状のものは特に「イオン交換膜」と呼ばれます※。
※関連記事:「3分でわかる技術の超キホン イオン交換膜の基礎知識|原理 (仕組み)・種類・用途など」はこちら
2.イオン交換樹脂の種類(分類)
イオンの性質により、イオン交換樹脂はカチオン交換樹脂(陽イオン交換樹脂)とアニオン交換樹脂(陰イオン交換樹脂)に大別され(図2)、また解離性により強酸/弱酸、強塩基性/弱塩基性に分けられます(表1)。
【図2 イオン交換樹脂の分類】
【表1 】
カチオンイオン樹脂 (陽イオン) |
強酸性イオン交換樹脂 | スルホン酸基 |
弱酸性イオン交換樹脂 | カルボキシル基 | |
アニオンイオン樹脂 (陰イオン) |
強塩基性イオン交換樹脂 | 4級アンモニウム基 |
弱塩基性イオン交換樹脂 | 1~3級アミノ基 |
また、「キレート樹脂」と呼ばれる特別なイオン交換樹脂があります。キレート樹脂は特定の金属イオンに対する選択性が高く、キレート(錯体)を形成して金属イオンを除去(回収)することができます。
3.イオン交換の原理(仕組み)
溶液中でイオン交換樹脂の官能基は電離した後、対立イオンが溶液に入ってある程度自由に動き、溶液中に含まれる様々な対立イオンとの吸着性の差を利用することによって、イオンが交換されます。
亜硫酸カチオン交換樹脂を例にして、溶液中のナトリウムイオンの分離を説明いたします。
NaClを含まれる溶液をイオン交換樹脂で充填したカラムにゆっくり通水すると、Na+が樹脂の骨格に入り込み、樹脂が電離したH+との交換を行います(図3)。
その結果、カラムから塩酸が流出してきます(式1)。
HSO3– + NaCl ⇔ NaSO3– + HCl ・・・(式1)
イオン交換樹脂の再生
一定量のH+ が Na+ に置き換わると、樹脂のイオン交換能が失われますが、酸溶液に浸すと回復できます。
溶液中の H+ 濃度が樹脂骨格上の H+ 濃度より高いので、この濃度差の影響により H+ が樹脂に戻ります。
このような分離と逆のプロセスを、樹脂の「再生」プロセスと呼びます(図3)。
【図3 イオン交換と再生のイメージ図】
4.イオン交換樹脂の特性・特徴
イオン交換樹脂の選択性
イオン交換樹脂の選択性は、通常、価数が大きく重いイオン(原子番号の大きい)ほど吸着しやすい(イオン交換されやすい)です。このため、水素イオン(酸)で再生したイオン交換樹脂は、様々なイオンを溶液中から取り除くことが可能です。
アニオン樹脂でも同様です。ハロゲン元素では、原子番号の小さいFイオンより大きい方のBrイオンやIイオンの方が吸着しやすい特性があります。Fイオンは水酸化物イオンより小さいため、イオン交換法による分離には向きません。
カチオン(陽イオン)の吸着性
高価数イオンは優先的に吸着されますが、同じ価数の場合、直径が大きいほど強く吸着されます。
吸着順は次のとおりです。
Fe3+> Al3+> Pb2+> Ca2+> Mg2+> K+> Na+> H+
アニオン(陰イオン)の吸着性
強塩基性アニオンについての吸着順序は次のとおりです。
SO42-> NO3–> Cl– > HCO3–> OH–
5.イオン交換樹脂の構造
ここでは最も一般的なスチレン・ジビニルベンゼンの共重合体を例として説明します。
作り方としては、まずスチレンに少量のp-ジビニルベンゼンを混ぜて共重合させます。
スチレンの重合によりできたポリスチレン鎖は糸状構造ですが、p-ジビニルベンゼンの架橋により、立体的網目構造の樹脂を作ります。
さらに、目的によりベンゼン環に置換基を導入して、ビーズ状に加工することで、イオン交換樹脂をつくることができます(図4)。
【図4 スチレン・ジビニルベンゼンのイオン交換樹脂の作り方】
6.イオン交換樹脂の用途
イオン交換樹脂は水処理をはじめ、様々な産業で幅広く使われています。
[※関連記事:「イオン交換水」とは?純水の作り方と特徴を解説 はこちら]
例えば、下記のような用途などが挙げられます。
- 食品業界:脱塩、脱色など
- 化学工業:様々な物質精製、バイオディーゼルの製造、廃水、排ガスの処理など
- 鉱業治金産業:金属イオンの回収・除去など
- バイオテクノロジー業界:アミノ酸、抗生物質、ビタミンなどの効果的な分離や精製
- 半導体および電子産業:超純水(UPW)の製造、燃料電池、過酸化水素の分解など
以上、今回はイオン交換樹脂に関する基礎知識知識を紹介いたしました。
イオン交換樹脂の種類や特徴などは様々であり、目的に応じて最適なものを選ぶことが重要です。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)
《引用文献、参考文献》
- 1)細川 利雄, イオン交換樹脂
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yukigoseikyokaishi1943/42/2/42_2_173/_pdf/-char/en - 2)板垣 孝治, イオン交換樹脂,醸協,第77巻 第4号.
- 3)細川 利雄, 有機合成化学, 第2巻 第2号, 1984.