3分でわかる技術の超キホン ゼオライトの基礎知識|用途・機能・効果など要点解説

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ゼオライトの解説

1.ゼオライトとは?

ゼオライト」とは、1756年にCronstedtにより発見された粘土鉱物の一種であり、規則的なチャンネル(管状細孔)とキャビティ(空洞)を有する陰イオン性の骨格からなる含水アルミノケイ酸塩のことです[1]
それらは2000万年ほど前の海底に堆積した火山灰に由来し、「続成作用」と呼ばれる地殻変動により変質してできた鉱物です。

日本は天然資源に乏しい国といわれていますが、ゼオライトに関しては埋蔵量が多く、主に福島県や山形県などで採掘されています。また、このように天然から採掘される天然ゼオライトのほかに、人工的に合成される合成ゼオライトも存在します。合成ゼオライトは、天然には存在しない組成を持つ様々な種類のものがあり、天然ゼオライトにはない機能を有します。

 

ゼオライトの構造・性質

ゼオライトの組成式は (MI, MII1/2)m(AlmSinO2(m+n))・xH2O (n≧m) (MI = Li+, Ma+, K+, etc, MII = Ca2+, Mg2+, Ba2+, etc) で表されており[1]シリカゲルのケイ素原子がアルミニウム原子に一部置換して構造をとっています。
この一部のアルミニウム原子が負に帯電しているため、全体の電気的中性を保つためにカチオン(陽イオン)を吸着するという性質を持っています。

基本的な骨格単位は、SiO4やAlO4の四面体構造であり、これらが三次元方向に無限に連なり、共有結合結晶を形成しています。

また、ゼオライトの性能は、土の胃袋と例えられるCEC陽イオン交換容量)の値として評価されます。

本稿では、ゼオライトの用途を挙げながら、その機能・効果や原理を紹介していきます。

 

2.ゼオライトの用途と機能・効果

(1)農業・園芸用途

農業や園芸ではアンモニア、カリウム、鉄やマグネシウムなどの肥料分が重要な役割を果たします。
ゼオライトは天然鉱物の中では非常に高い塩基性置換容量を有する鉱物であるため、これら塩基性肥料分を吸着保持し、雨水等による流出を防止し、安定的に作物へ供給する働きがあります[2]

また、農業においては土壌塩分過多も問題となりますが、ゼオライトは塩分が多くなりすぎた土壌に対して撒くことにより、過剰分の塩類を吸着できるため、塩類障害対策にも使用されます。

さらに、土壌微生物のバランスを整えたり、連作障害の予防にも繋がったりと多くの効果が見込まれます。

なお、ゼオライトの安全性は、国際がん研究機関により、グループ3の「ヒトに対する発がん性について分類できない」に指定されており、発がん性については認められていません。そのため、農業や園芸用途にも安全に用いられています。

 

(2)畜産用途

畜産では、飼料添加用敷料用堆肥用といった用途があります。

飼料添加用では、餌にゼオライトを混ぜることにより体内のアンモニアガスを吸着するため家畜の健康維持に役立ちます。また、嗜好性もあるため餌をよく食べるようになるというメリットもあります。

敷料用では、畜舎に散布することで滑り止めや股開き防止に役立てます。また、メチルメルカプタン等のにおいの原因物質を吸着するため脱臭効果があり、畜舎の衛生管理に繋がります。

堆肥用では、ゼオライトを堆肥に混合することにより、糞尿のアンモニア臭を低減し、アンモニア態窒素を豊富に含む良質な堆肥を作ることができるというメリットがあります。

 

(3)環境対策[水処理用途など]

ゼオライトは水処理や空気を綺麗にするためにも利用されます。
例えば、工場排水には金属イオンを多く含みそのまま河川に流せないものがありますが、ゼオライトに通すことで貴金属類を吸着し、水質を改善することができます。また、排ガスにはNOxが含まれることが多くありますが、これを吸着する作用があることも知られています。
そのため身近なところでは、水道に接続する浄水器や水層の環境を維持するためのフィルターにも用いられています。

この水処理用途では、2011年の福島第一原発事故以降、ゼオライトの一種である磁性ゼオライトが注目されています。磁性ゼオライトは、石炭焼却灰とマグネタイトを原料として生成されたゼオライトのことであり、放射性セシウムと同じ大きさの細孔を有します。細孔により物理的に高い吸着機能を持っているだけでなく、他のゼオライトと同様に陽イオン交換能もあるため、セシウムイオンに対する特異的選択吸着特性を持っており、化学的にもセシウムを除去することができます。そして、汚染水や汚染土壌からセシウムを吸着させた磁性ゼオライトのみを磁力により選択的に回収することが可能です。

 

3.ゼオライトと有機合成研究

合成ゼオライトは、医農薬や材料の開発に向けた基礎的な有機合成研究にも活躍しています。

具体的には、水をはじめとした特定の大きさの分子を選択的に吸着除去するために用いられており、これはゼオライトの分子ふるい効果(またはサイズ排除効果)を利用したものです。細孔のサイズによって吸着できる分子が違うため、様々なサイズの合成ゼオライトが販売されています(通常0.2-1.0 nm)。

また、含まれる金属イオンの種類により極性分子/非極性分子を吸着する能力も変化するため、様々な金属イオンを含むものも市販されています。なお、似た意味で使われるモレキュラーシーブスは、ユニオンカーバイド社が販売する合成ゼオライトの商品名であり、組成は変わりません。

 

脱水・乾燥剤としてのゼオライト

有機合成において水は天敵であるため、様々な反応を実施するうえで使用したい有機溶媒に脱水剤を入れることが多くあります。また、吸湿性のある固体試薬を保管する保管庫に乾燥剤を置いておくこともあります。保管庫に入れる乾燥剤は水が吸着する細孔径であればどれでも構いませんが、実際に溶媒中に沈めるペレット状のゼオライトについては、使用する溶媒によって適切な細孔径を選ぶ必要があります。

例えば、メタノールやアセトニトリルの乾燥に用いる場合は、水吸着能が高い4Aを用いると、溶媒自身が吸着されてしまい、吸着熱が発生してしまったり顆粒が崩壊してしまったりと、溶媒の品質に問題が起きてしまいます。ですので、より細孔径の小さい3Aのものを用いるなどの工夫が必要です。その他、5Aは芳香族化合物の乾燥に、13Xはアミン化合物の乾燥に用いられます。

乾燥剤には塩化カルシウムや無水硫酸ナトリウムなどの色々な種類がありますが、ゼオライトには他の乾燥剤にない利点があります。それは、再生や除去が容易であるということです。
使用後に水を吸着したゼオライトを電子レンジなどで数分加熱して(もしくはヒートガンを用いて1時間程度)、減圧乾燥という操作を繰り返せば、吸着された水が脱着されて再び利用可能になります。したがって、カラムに充填したゼオライトを回収して洗浄したり、保管庫に乾燥剤として入れておいたゼオライトを定期的に加熱脱着させたりという操作が良く行われます。やり方は少し異なりますが、工業スケールにおいても行われます。

 

4.近年の研究動向

ゼオライトは、現在でも新たな用途や合理化の研究が盛んに行われています。

例えば、最近では圧力スイング吸着法による空気中からの酸素濃縮に利用され、呼吸器系治療における酸素ガス不足解消の1つの方法となっています[4]
さらに、二酸化炭素の分離や回収にも同様の手法が検討されています。

その他には、近年自動車の排ガスによる大気汚染対策が注目されていますが、排ガスの浄化材料を志向した研究も行われています[5]

古くから利用されてきたゼオライトですが、これからも更なる活躍が期待されます。

 

(アイアール技術者教育研究所 Y・F)

 


≪引用文献、参考文献≫

  • [1] 一般財団法人日本ゼオライト学会「Q1. ゼオライトとは?」(WEBサイト)
    https://jza-online.org/about/q1/
  • [2] ゼオライト工業会「ゼオライトの用途」(Webサイト)
    http://www.zeolite-ia.com/usage.html
  • [3] 一般財団法人日本ゼオライト学会「Q6.ゼオライトの挑戦?」(WEBサイト)
    https://jza-online.org/about/q6/
  • [4] 吉田智、酸素PSA用LiSLX吸着材の開発、38, 4, 2021, 119
  • [5] 加藤克昭 他、自動車用SCR触媒の現状と課題、36, 2, 2019, 38.

 

 

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