バイオ創薬系スタートアップのビジネスモデル|既存技術を利用した新製品・サービス開発戦略

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バイオ創薬系スタートアップ ~既存技術を利用した新製品やサービスの開発戦略の考え方

バイオ創薬系スタートアップの安定した成長には、自社パイプラインの開発と同時に、短中期的な収益源を確保するビジネスモデルが鍵となるかもしれません。

本コラムでは、バイオ創薬系スタートアップのビジネスモデルや、知財の観点からの既存技術による製品やサービスの開発戦略について探ります。

1.バイオ創薬系スタートアップの基本的なビジネスモデル

バイオ創薬系のスタートアップの基本となるビジネスモデルは主に2つに大別されます。

 

(1)プラットホーム型

創薬シーズを創出するプラットホーム技術を持ち、創出したシーズを他社に導出するモデルです。

製薬会社との提携等によって短中期的な収益を期待できるものの、開発主体が製薬会社となるため最終的にスタートアップが得られる収益は小さいものとなります。

 

(2)パイプライン型

自社で創出した創薬シーズの開発を行うモデルです。

製品が市場に出れば大きな収益が期待できますが、開発に多くの時間と多額の先行投資が必要になります。

 

2.成功事例が少ないパイプライン型

米国や欧州の投資環境は、投資額が大きく、多様な投資家が存在します。
こうした環境のもとで、パイプライン型の成功事例が多く見られます。

一方、日本でもパイプライン型のスタートアップは多く存在するものの、投資環境が比較的脆弱です。
このため投資中断などによって開発中断に至るケースもあり、パイプライン型の成功事例は少ないのが現状です。*1、2

 

3.ハイブリッド型ビジネスモデルの登場

近年、ペプチドリーム社や、そーせいグループ社などのプラットホーム技術を持つ企業が、大手製薬会社との提携等によって短中期的な収益を確保しつつ、将来的に大きな利益を期待できる自社パイプラインを開発するハイブリッド型(プラットホーム型+パイプライン型)のビジネスモデルを採用しており、比較的安定的な経営を進めています。

一方で、全ての企業がプラットホーム技術を持つわけではないものの、キッズウェルバイオ社ペルセウスプロテオミクス社のような企業は、自社パイプラインの開発と並行してバイオシミラー開発や試薬等販売等の短中期的な収益源を持つハイブリッド型(パイプライン型+他の製品やサービス)の経営を取り入れています。

日本の投資環境下においては、このようなハイブリッドモデルが、バイオ創薬系スタートアップの安定的な成長の鍵となるかもしれません。

 

4.既存技術を利用した製品やサービスの検討

プラットホーム技術を持たないパイプライン型企業でも、バイオシミラー、試薬、化粧品、サプリメントなどの製品や、細胞や抗体の受託作成サービス、分析サービスなどのサービスを提供することで、短中期的な収益が期待できます。
このような製品やサービスを展開する際には、複数の技術を利用する必要がありますが、これらを一から開発することは自社パイプラインを増やすことと変わりがありません。
既存の技術を利用することで、開発リソースを効率的に活用できるでしょう。

既存技術を利用する主な手法として(1)自由技術の探索、(2)迂回技術の創出、(3)他社からの技術導入(ライセンスイン)などが挙げられます。

 

(1)自由技術の探索

「自由技術」とは、特許などによる保護が存在しない技術を指します。
バイオ分野においては、特許期間が満了したり、満了が近い技術が多々見られます。これらの自由技術を活用することで、収益予測が立てやすい新たな製品やサービスを効率的に開発することが期待できます。

特に、大きなマーケットを持ち、特許による障壁が存在する製品やサービスでは、関連する特許等の満了のタイミングを見越して開発を進めることで、市場の一部を取り込めるチャンスがあります。
例えば、バイオシミラーの開発においては、先行バイオ医薬品を保護する特許の満了のタイミング等を把握した上で、投資と回収の戦略を策定し、開発に着手します。この開発過程では、多額のコストを伴う臨床試験が必要ですが、確立された自由技術等を利用して、先行バイオ医薬品のマーケットを部分的に獲得できることが見込まれるため堅実な手段といえます。*3

一方、マーケットの規模が小さい製品やサービスにおいては、自由技術であるにもかかわらず特許の状況が把握されていない場合があります。これにより特定企業が独占を続け、高価な価格が維持されている研究試薬や受託サービスなども存在します。

このような自由技術を複数確保することで、多様な製品やサービスを効率的に展開する可能性があります。

 

(2)迂回技術の創出

「迂回技術」とは、特許で保護されている技術と同様の効果を持ちつつ、特許を迂回できる(侵害しない)技術のことです。
特許で保護されている技術であっても、微細な変更を加えるだけで特許を迂回できるケースが存在します。

イメージするのが難しいと思いますので、例としてブロード研究所のゲノム編集基本特許の一部を構成する特許第6870015号を見てみましょう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジニアリングされた天然に存在しないCRISPR-Cas系であって、
(a)少なくとも1つの核局在化シグナル(NLS)を含むCas9、又は前記Cas9をコードするポリヌクレオチド;
(b)真核細胞のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)に隣接するゲノムの標的配列にハイブリダイズし、CRISPR-Cas複合体の標的配列への配列特異的結合を指向することができるガイド配列と、tracr配列にハイブリダイズすることができるtracrメイト配列と、tracr配列とを含むCRISPR-Cas系キメラRNA;
を含み、
前記tracr配列が30以上のヌクレオチド長である、系。

この特許の権利範囲を大まかに言えば

  • (a) Cas9タンパクまたはCas9をコードするポリヌクレオチド、
  • (b) crRNA(ガイド配列)と、 RNA内でハイブリダイズするRNA配列(tracrRNAメイト配列)と、tracrRNA(tracr配列)を含むキメラガイドRNA

を含むCRISPR-Cas系ですが、
着目すべきポイントの一つはtracrRNAのヌクレオチド長が30塩基以上に限定されている点です。
この場合、tracrRNAのヌクレオチド長を29塩基以下で設計し、それでもゲノム編集が可能であれば、この特許を侵害しない迂回技術として利用することができます。

このように特許の内容を詳細に検討し、迂回技術の創出を試みることで効率的に製品やサービスを開発できる可能性があります。
また、創出した迂回技術で特許を取得できる場合があるため、新たに独占的な収益源も期待できます。

なお、ブロード研究所のゲノム編集基本特許を構成する特許は極めて多く、上述の特許第6870015号との関係のみでブロード研究所の全ての基本特許を迂回できるわけではない点に留意してください。

 

(3)他社からの技術導入(ライセンスイン)

他社が持っている技術をライセンスインすることで、一定のコストはかかるものの、短期間で製品やサービスの展開が可能となります。

例えば、特定分野の参入に必須とされる技術や、海外で製品化されている技術をライセンスインすることで、製品やサービスの開発や市場展開を加速できることが期待できます。

ライセンスインを検討する際には、まず導入を予定している要素技術に関連する特許を全て洗い出し、自社で実施する内容と特許内容を詳細に比較し、慎重にライセンスインを検討することが重要です。

 

(4)その他

これまでにスタートアップがプラットホーム技術などを持つ企業を買収したり、積極的に他社特許を無効化することで新たな製品やサービスの開発を進めた事例もありますが、一般的な手法ではないため本コラムでは詳細を割愛します。

 

5.特許調査の重要性

新たな製品やサービスは、自社の強み、資金や開発力などのリソースの程度、訴訟リスクの回避などの観点で検討し、それに応じた最適な手法で既存技術を選択する必要がありますが、いずれの場合も詳細な特許調査が欠かせません

特にバイオ技術の特許は、権利範囲の判断などが難しいケースも多いため、バイオ関連特許について高度な知見を有する弁理士やスタッフを有する特許調査会社や特許事務所や特許調査会社にご相談されることをお勧めします。

当サイトを運営している日本アイアールは特許調査・技術調査をコア業務としており、バイオ医薬関連技術についても専門性の高いサーチャーチームが対応しています。ニーズに応じて最適な調査プランをご提案しますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
また当サイトにおいて、バイオ医薬分野に関連する技術セミナー、法律・知財・薬事に関するセミナーも多数ご紹介しております。ご興味がある方は是非チェックしてください。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 K・K)

 


《引用文献、参考文献》


 

 

医薬品関連の特許調査なら日本アイアール

 

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