【心地よさの技術】”1/fゆらぎ”とノイズ対策への応用
たしか(?)物理学者にして、随筆家・俳人の寺田寅彦の言葉だったと思いますが、「涼しさ」とは、ある一定の低い温度の状態ではなく、適度の温かい空気と、適度の冷たい空気が、交互に流れる状態である、という言葉があります。
人にとって涼しい、すなわち快い空気を感じるのは、一定ではなく、そこにゆらぎ(ある変化)が必要だという考えです。
心地良さを科学すると、そこには1/fゆらぎ(えふぶんのいちゆらぎ)と呼ばれる、波動変化があります。
1/fゆらぎは、スペクトル密度が周波数 f に反比例するゆらぎのことと定義されていて、中々分かりにくいと思いますが、既にいろいろな研究が行われています。
エアコンや扇風機でも、1/fゆらぎを取り入れた制御が取り入れられていますが、アメニティ(amenity、快適性)技術の視点から拡張していくと、風を受けた時のような触覚以外にも、聴覚、視覚、味覚、あるいは嗅覚へも拡張応用できる可能性があります。
音の心地よさと”1/fゆらぎ”
日本人が心地よいと感じる典型的な音としてよく挙げられるものに、小川のせせらぎ、野鳥のさえずり、あるいは海の潮騒などがありますが、これらは全て、1/fゆらぎを含んでいると言われています。
ノイズ対策の技術(車両の排気音の例)
心地よい音の逆は、「ノイズ」と呼ばれます。
音は波で表され、波を表す三大要素は、周波数(又は波長)、振幅及び波形です。
ノイズの対策は、不快な周波数帯の振幅を下げる(パワースペクトルにおける波動エネルギーを低減する)ことによって行われます。
実際のノイズ対策では、音の発生自体を低減する、エアボーンノイズと呼ばれる空気伝搬ノイズも含め伝達系の対策をする、あるいは吸音材や遮蔽材で聞こえなくするというものがあります。
これに対して、音を出して音を低減するという技術があります。
この技術は一旦市場に出ましたが生産中止され、その後復活しました。
それは車両の排気音を低減するために、発生する排気音に対して、逆位相の音を発生させて、音を低減するというものです。
最終的に人間が聞く音は、音波の合成音です。逆位相の音を発生させると、波が正と負で打ち消し合うため、最終的に聞く音が低減されます。
一旦生産中止された理由は、当時は装置の不具合や劣化により発生する音の位相が狙い値とずれてしまい、波の山に対して逆位相で波の谷を送って打ち消し合わなければならないのに、波の山に波の山が重なって、余計にうるさくなったからと言われています。
この技術が復活したということは、品質と耐久信頼性を高めることに成功したのですね。
イグノーベル賞で注目された”スピーチジャマー”も同じ原理
ノーベル賞のパロディ版で「イグノーベル賞」(人々を笑わせ、考えさせてくれる業績に対して与えられる賞)というものがありますが、日本人は受賞の常連です。
上述の排気音を下げる技術と同じ原理を用いた技術も2012年に受賞しました。
話のやかましい人に向けて、逆位相の音を浴びせかけることにより静かにさせるというものです。
(※2012年音響賞、栗原一貴氏 他。自身の話した言葉を、ほんの少し遅れて聞かせることで、その人の発話を妨害する装置「スピーチジャマー(Speech Jammer)」の発明による受賞)
波というものは不思議ですね。
うるさい音に、逆位相のうるさい音を加えると静かになるというのは、理屈では理解できても不思議感はぬぐえません。
波には音波以外にも、電磁波、熱波、重力波などいろいろありますが、同じようなことが起こりえるのでしょうか?
光も粒子の特性と波の特性を持つと言われています。脳波も脳内の電気信号の波動です。
健康にも1/fゆらぎが必要?
「バイオリズム」と呼ばれるものもあります。
ストレスの変化も波(横軸が時間で縦軸がストレス)として考えると、波のピーク値は抑えなければなりませんが、ストレスがほとんど無く一定に低い状態よりも、1/fゆらぎをもって変化する適度のストレスがあった方が、肉体的及び精神的な健康のためには良いのかもしれませんね。
(アイアール技術者教育研究所 H・N)