3分でわかる技術の超キホン 「トランス」(変圧器)とは?構造・原理・使い方を解説
1.トランスとは?
電子部品の「トランス」は、電圧を変換するという基本的な部品です。
日本語では「変圧器」といいます。
まず、発電所で作られた電気は、電線を通して各家庭やビルに届けられます。
しかし、発電所で作られた電気は高い電圧であるため、そのまま家庭やビルで使うことはできません。
そこで、電圧を低く変換する必要が出てきます。それを可能にするのが、トランス(変圧器)です。
電気をたくさん使うビルや工場には6600V以上の高い電圧(=高圧)、一般家庭には100Vの低い電圧(=低圧)といったように、各施設の負荷に合わせて、トランス(変圧器)で電圧を変えることで、安全に電気を使用することができるようになります。
さらに、家庭で使用する電気製品は、100Vのコンセントから電源をとって、利用しています。
電気製品の中の電圧は、100Vからさらに様々な電圧に変換されています。
今回は、この電気製品に用いられているトランス(変圧器)について説明します。
2.トランスの構造と原理
トランスは、発電所や変電所で使われるものから、電子回路用の小さなものまで種類はさまざまですが、原理は共通しています。
図1にトランスの基本的な構造と原理を示します。
【図1 トランスの基本構造】
図1より、トランスは、共通の鉄心に1次側コイルと2次側コイルを巻き付けた構造となっています。
片側のコイル、1次側コイルに電圧をかけると、コイルの中を通っている鉄心に磁束が生じます。
この電圧が直流であれば鉄心は単純な電磁石になりますが、交流の場合は磁束の向きが周波数に合わせて交互に入れ替わります。
入力側の1次コイルに交流電圧を加えると交流電流が流れ、1次コイルに磁束が発生します。磁束は鉄心を通って2次コイルを貫きます(「鎖交」といいます)。
コイルには電磁誘導作用(ファラデーの電磁誘導の法則)という、鎖交する磁束が変化すると電圧が発生する性質があります。「ファラデーの電磁誘導の法則」とは、電磁誘導において、1つの回路に生じる誘導起電力の大きさはその回路を貫く磁界の変化の割合に比例するという法則です。
また、片方のコイルに電流を流した場合、そのコイルから発生する磁場により、近くのコイルに誘導起電力が発生する現象のことを「相互誘導」と呼びます。
これにより2次コイルに電圧が誘導されて、再び交流電流に変換し出力されるという原理となります。
すなわち、トランスは電磁誘導の法則と相互誘導の法則を利用し、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換し、再度、電気エネルギーに変換する部品なのです。
1次コイルと2次コイルの関係
【図2 1次コイルと2次コイル】
図2において、1次コイルの巻き数をn1、それにかかる電圧をV1とし、2次コイルの巻き数をn2、発生する電圧をV2とすると、1次コイルと2次コイルの関係は、[V1/V2=n1/n2]で表されます。
例えば、1次コイルの巻き数が1000で電圧が1000Vの場合、2次コイルの巻数を100にすると100Vの電圧が発生することになります。
この原理により、トランスで電圧を自由に変更することができるのです。
また、エネルギーは入力側と出力側で変わらないので[入力電圧×入力電流=出力電圧×出力電流]という式が成り立ちます。すなわち、入力電圧より出力電圧を大きくすると、出力電流は小さくなるということです。
3.トランスの用途
トランスには、以下のように様々な使われ方があります。
(1)電圧の変換
これが最も知られているトランスの用途です。
電力用トランス、配電用トランス、またはただトランスといったときには、この目的で使われているものを指していることが一般的です。
(2)回路間の絶縁
1次側と2次側で直接導通せずに電気を流すことができる特性を使い、複数系統間の絶縁目的で使われるのが「絶縁トランス」です。
(3)ノイズカット
1次側コイルと2次側コイルが絶縁されている特性を応用して、ノイズの混入を遮断する目的で使われるのが「ノイズカットトランス」です。
インバータやモーターは常にノイズを発生させています。このノイズカットトランスを使うことで、電気・電子機器へ影響を及ぼすのを防ぐことができます。
他にも、スイッチング電源に用いられる「スイッチングトランス」、オーディオ機器に用いられる「オーディオトランス」、伝送機器に用いられる「伝送用トランス」など、使い方によって様々な呼び方のトランスがあります。
4.トランスの使用法(電源回路の例)
図3にトランスの基本的な電源回路における使用法を示します。
【図3 トランスの電源回路】
図3は、トランスを電源回路に使用した図です。
ここで、トランスは、AC100Vに接続され、電圧を変換するとともに、負荷側の回路をAC100Vから絶縁する働きをしています。
図3は、AC100Vを電圧変換し、ダイオードブリッジで整流し、コンデンサで電圧波形を平滑化して負荷に供給する回路になっています。
ほとんどの電化製品は、上記のような回路が基本となっており、これに用いられるトランスは非常に重要な部品といえるでしょう。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 E・N)