表面分析手法 SIMS/TOF-SIMSとは?原理・種類・特徴・用途を解説

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表面分析 SIMS/TOF-SIMS分析の基本と特徴

当連載の前回の記事では、代表的な表面分析手法の一つである「XPS」の基礎知識を解説しました。
今回は、同じく表面分析手法の一つである「SIMS」を取り上げます。SIMSは、微量元素や分子種の検出、深さ方向の分析、成分分布の可視化などに用いられる手法です。

[※関連記事:表面分析とは?基本原理と主な分析手法の種類・特徴を整理

本記事では、SIMSの基本原理と主な種類を整理するとともに、幅広い分野で活用されているTOF-SIMSの特徴や用途、分析上の注意点について、わかりやすく解説します。

1.SIMSとは

SIMS」(Secondary Ion Mass Spectrometry:二次イオン質量分析法)は、一次イオンビームを試料表面に照射し、表面から放出される二次イオンを質量分析する手法です。
SIMSには、微量元素や同位体の高感度分析、深さ方向の濃度分布の測定、試料最表面に存在する分子種の分析、成分分布のイメージングなど、測定方式に応じた幅広い用途があります。

 

2.SIMSの原理と仕組み

SIMSでは、一次イオンの照射によって試料表面から二次イオンを発生させ、それらを質量電荷比(m/z)ごとに分離・検出します。ここでは、測定の基本的な流れを順に説明します。

  1. 一次イオンビーム照射
    真空中で、加速した一次イオンを固体試料の表面に照射します。
  2. スパッタリングと二次イオン生成
    一次イオンの衝突によって試料内部に衝突カスケードが生じ、表面の原子や分子が真空中へ放出されます。この現象をスパッタリングといいます。放出された粒子の多くは中性ですが、その一部は正または負の電荷を持つ二次イオンとして放出されます。
  3. 質量分析
    放出された二次イオンを電場で引き出し、質量分析計によって質量電荷比(m/z)ごとに分離・検出します。SIMSに用いられる質量分析計には、磁場型、四重極型、飛行時間型などがあります。

 

SIMSの原理
【図1 SIMSの原理】

 

3.SIMSの主な種類と特徴

SIMSは、一般にダイナミックSIMSとスタティックSIMSに大別されます。
ここでは、それぞれの特徴と主な用途について説明します。

 

(1)ダイナミックSIMS(D-SIMS)

高い一次イオン電流密度で試料表面を連続的にスパッタし、試料を掘り進めながら、深さ方向の元素濃度分布を測定します。対象元素や試料によっては、ppm~ppbレベルの微量分析が可能です。

 

(2)スタティックSIMS(S-SIMS)

単位面積当たりの一次イオン照射量を極めて少なく抑え、試料表面のごく浅い領域を、非破壊に近い状態で分析します。分子イオンや、化学構造を反映した特徴的なフラグメントイオンを検出できるため、無機物だけでなく、有機物の同定や構造の推定にも活用できます。質量分析計には、飛行時間型が広く用いられています。

 
なお、「ダイナミックSIMS」と「スタティックSIMS」は、主に一次イオンの照射量や分析目的による分類です。
一方、次章で詳しく取り上げる「TOF-SIMS」は、飛行時間型の質量分析計を用いるSIMSを指します。TOF-SIMSはスタティック条件での表面分析に広く用いられますが、スパッタイオン銃を併用した深さ方向分析にも利用されています。

 

4.TOF-SIMSとは

TOF-SIMS」(飛行時間型二次イオン質量分析法)は、二次イオンが検出器に到達するまでの飛行時間の差を利用して、質量電荷比(m/z)を求めるSIMSです。固体材料の最表面に存在する元素、同位体、分子種などを高感度で分析でき、通常は試料表面から1 nm以下という極めて浅い領域の情報が得られます。

また、分子イオンや特徴的なフラグメントイオンを検出することで、表面成分の種類や有機物の化学構造に関する情報を得られます。

 

(1)TOF-SIMSの原理

TOF-SIMSの測定は、試料表面から二次イオンを発生させる工程と、放出されたイオンを質量電荷比ごとに分離・検出する工程に大きく分けられます。

  1. サンプリング
    試料表面にパルス状の一次イオンビームを照射し、表面の原子や分子の一部を二次イオンとして放出させます。一次イオンにはGaやBiのほか、Biクラスター、Auクラスターなどが用いられ、分析対象や目的に応じて使い分けられます。
  2. 質量分離
    放出された二次イオンを一定の運動エネルギーとなるように加速し、検出器に到達するまでの飛行時間を測定します。一般に、同じ電荷数であれば、軽いイオンほど早く、重いイオンほど遅く検出器に到達するため、その時間差から質量電荷比(m/z)を求めます。

 

(2)TOF-SIMSのメリット

TOF-SIMSは、試料最表面の元素や分子種を高感度で分析できるほか、成分分布の可視化も可能です。また、スパッタイオン銃を併用することで、深さ方向の分析にも対応できます。主なメリットは、次のとおりです。

  • 低ダメージ(試料損傷を抑えた分析)
    スタティック条件では、単位面積当たりの一次イオン照射量を少なくすることで、分析中に生じる表面損傷を抑えます。また、BiやAuなどのクラスターイオンを分析用の一次イオンとして用いることで、フラグメンテーションを抑え、分子イオンや特徴的なフラグメントイオンを検出しやすくなります。有機材料の深さ方向分析では、C₆₀やアルゴンガスクラスターなどをスパッタイオンとして使用することで、スパッタに伴う化学損傷を抑えることができます。
  • 極表面分析
    通常、試料表面から1 nm以下という極めて浅い領域の情報を取得します。
  • 有機物に関する情報を取得しやすい
    TOF-SIMSでは、元素だけでなく、ポリマー、添加剤、界面活性剤などに由来する分子イオンや特徴的なフラグメントイオンを検出できます。特に、試料最表面に存在する有機物の種類や分布を調べる用途に適しています。
  • 高い検出感度
    TOF-SIMSは、水素を含む幅広い元素や同位体を測定対象にできるほか、微量の有機成分の検出にも利用できます。ただし、検出感度は対象元素や分子種、試料のマトリックス、測定条件によって大きく異なります。
  • イメージングと3D分析
    表面の成分分布を画像化(マッピング)できるほか、スパッタイオン銃を併用することで、深さ方向を含む3次元的な成分分布も解析できます。

 

(3)TOF-SIMSのデメリット

TOF-SIMSには多くのメリットがある一方、測定や解析にあたって注意すべき点や課題もあります。主なデメリットは、次のとおりです。

  • 定量性が限定される
    二次イオンの生成効率は、周囲の元素や化学状態など、試料のマトリックスに強く影響されます。そのため、ピーク強度がそのまま成分濃度に比例するとは限りません。定量や半定量を行うには、測定対象と類似した組成を持つ標準試料などが必要です。
  • スペクトル解析の複雑さ
    分子の開裂によって生じる多数のフラグメントイオンが検出されるため、元の化合物を同定したり、その構造を推定したりするには、高度な専門知識やデータベースとの照合が必要です。また、1回の測定で多量のデータが生成されることがあり、専用ソフトや多変量解析を用いたデータ処理に時間を要する場合があります。
  • 試料への制約
    表面から1 nm以下という極めて浅い領域を高感度で分析するため、指紋や空気中の浮遊物などの表面汚染も容易に検出されます。そのため、試料の取り扱いや保管には十分な注意が必要です。また、通常は高真空中で分析するため、水分を多く含む試料や揮発性の高い試料では、乾燥や凍結乾燥などの前処理が必要になる場合や、分析が困難な場合があります。絶縁体では、表面の帯電によってスペクトルが歪むことがあるため、電子銃などによる帯電補償が必要になる場合があります。
  • 完全な非破壊分析ではない
    スタティックSIMSでは一次イオンの照射量を抑えるため、非破壊に近い状態で分析できます。ただし、イオン照射によって分析領域の一部には損傷やスパッタリングが生じます。同じ場所を繰り返し測定すると、表面組成や分子構造が変化する可能性があります。
  • 装置とコスト
    TOF-SIMSは高度な真空装置、イオン源、質量分析計などを必要とするため、装置の導入・維持に相応のコストがかかります。また、複雑なスペクトルの解析には専門知識が必要であり、外部機関へ依頼する場合には、測定条件や解析内容によって費用が高くなることがあります。なお、実務では、TOF-SIMS単独では得にくい元素組成や化学状態に関する情報をXPS(X線光電子分光法)で補うなど、他の分析手法と併用することがあります。

 

(4)TOF-SIMSの用途

TOF-SIMSは、表面に存在する微量成分や有機物の分布を詳しく調べられるため、半導体、電池、ポリマー、生体材料など、さまざまな分野で活用されています。主な用途は、次のとおりです。

  • 半導体・電子部品
    Siウェハ表面の有機汚染、レジスト残渣、電極の接着不良の原因となり得る微量有機物の付着調査。
  • 電池・材料
    リチウムイオン電池の電極表面の劣化評価、高分子フィルム中の添加剤のブリードアウト(表面への染み出し)確認。
    [※関連記事:ブリードアウト現象とは何か?
  • ライフサイエンス
    毛髪や皮膚における薬剤成分の分布評価、生体組織中の成分マップ作成。

 

5.おわりに

TOF-SIMSは、固体試料の最表面に存在する元素、同位体、分子種などを高感度で分析できる手法です。表面汚染の調査、有機物の種類や分布の評価、微小領域のイメージング、深さ方向分析など、幅広い用途に利用されています。
一方、二次イオンの生成効率が試料のマトリックスに影響されるため、定量が容易ではないことや、多数のフラグメントイオンによってスペクトル解析が複雑になることには注意が必要です。

近年では、一部の装置にMS/MS(タンデム質量分析)機能が搭載され、特定のイオンを選択してさらに解離させることで、ピークの帰属や分子構造の推定を支援できるようになっています。クラスターイオン源やデータ解析技術の進歩により、TOF-SIMSは複雑な材料表面や界面を解析する手法として、今後さらに活用が広がると考えられます。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)

 


《引用文献、参考文献》

  • 1) 氏平祐輔, 測定法講座:固体の表面分析(1)
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/kogyobutsurikagaku/54/7/54_556/_pdf/-char/ja

 

 

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