表面分析手法「XPS」とは?原理・特徴・応用例をやさしく解説

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表面分析 XPS分析の基本と特徴

材料の表面状態は、接着性、耐食性、導電性、濡れ性など、さまざまな機能に大きく影響します。例えば、スマートフォン画面の防汚性や、電池材料の劣化挙動も、材料表面の化学状態と深く関係しています。現代の精密ものづくりでは、表面からわずか数nm程度の状態を把握することが重要です。
表面分析にはさまざまな手法がありますが、その中でもXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)は、研究開発や品質管理の現場で広く利用されている代表的な表面分析手法です。(表面分析の基礎知識については、関連記事「表面分析とは?基本原理と主な分析手法の種類・特徴を整理」もご参照ください。)

XPS」とは、材料表面にX線を照射し、放出される光電子のエネルギーを測定することで、表面近傍に存在する元素やその化学結合状態を分析する手法です。日本語では「X線光電子分光法」と呼ばれ、表面の元素組成を半定量的に評価できるだけでなく、材料表面の酸化状態、汚染、表面処理層、薄膜、界面などの評価にも用いられます。

本記事では、XPSの原理、特徴、注意点、主な応用例についてわかりやすく解説します。

1.XPSの原理

XPSは、Mg Kα線やAl Kα線などのX線を物質表面に照射し、そこから放出される光電子の運動エネルギーを測定することで、表面近傍の元素組成や化学状態を分析します。

X線照射により試料内部でも光電子は発生しますが、深い位置で発生した光電子は試料内で非弾性散乱を受け、エネルギーを失いやすくなります。そのため、エネルギーを保ったまま表面から脱出して検出される光電子は、主に表面近傍の数nm程度に由来します。

情報深さは光電子の運動エネルギー、材料、検出角度などに依存しますが、一般にXPSは材料表面の数nm程度の状態を調べるのに適した分析手法(図1)です。

 

位置分解能と検出深さ
【図1 位置分解能と検出深さ】

 

照射X線のエネルギー hν が十分に大きいと、原子内の電子が励起され、光電子として放出されます(図2)。
このとき、光電子の結合エネルギーは次式で表されます。

 Ek = hν – φ – Eb (式1)

  • φ:装置に由来する補正項、一般には分光器の仕事関数(work function)
  • hν:照射X線のエネルギー
  • Ek:測定される光電子の運動エネルギー
  • Eb:結合エネルギー

XPSでは、既知のX線エネルギーと測定された光電子の運動エネルギーから、装置の仕事関数やエネルギー校正を考慮して結合エネルギーを求めます。結合エネルギーは元素ごとに固有の値を示すため、表面に存在する元素を同定できます。

 

光電子放出模式図
【図2 光電子放出模式図】

 

元素の結合状態が変わると、電子状態も変化し、XPSで観測されるピーク位置も変化します。これを「化学シフト」と呼びます。
化学シフトを解析することで、元素がどのような化学状態にあるのかを推定・評価できます。XPSの大きな特長は、元素の有無だけでなく、化学結合状態に関する情報を得られる点です(図3)。

化学状態分析とは、元素がどのような結合状態や酸化状態にあるかを評価する分析です。
例えば、元素分析によりC、O、Siが検出されても、それだけでは表面近傍でどのような結合状態をとっているのかまでは分かりません。XPSの化学状態分析により、表面近傍にSi-C結合が多いのか、Si-O結合が多いのかといった情報を評価できます。

 

PETフィルムのC 1sスペクトル
【図3 PETフィルムのC 1sスペクトル】

 

2.XPSの特徴

XPSは、表面近傍の元素組成だけでなく、化学結合状態や酸化状態まで評価できる点に大きな特徴があります。一方で、高真空環境が必要であることや、検出できない元素があることなど、測定上の制約もあります。
ここでは、XPSの主なメリットとデメリットを整理します。

 

(1)XPSのメリット

  • 極表面の分析に強い
    XPSの情報深さは、一般に表面から数nm程度です。そのため、材料の最表面で起こる酸化、汚染、表面処理、コーティングなどの評価に適しています。
  • 化学シフトから化学結合状態を評価できる
    XPSでは、化学シフトを解析することで、対象元素がどのような化学結合状態や酸化状態にあるかを評価できます。例えば、同じSiであっても、Si-C結合、Si-O結合、金属Siなどではピーク位置が異なります。
  • 絶縁物も比較的測定しやすい
    X線を用いるXPSは、電子線を用いるAESなどに比べて試料損傷や帯電の影響を制御しやすく、プラスチック、セラミックス、ガラスなどの絶縁材料にも広く用いられます。ただし、絶縁物では帯電補正が必要になる場合があります。
  • 深さ方向分析にも対応できる
    Arイオンやクラスターイオンによるエッチングを併用することで、表面から内部方向への組成変化を調べることができます。多層膜、酸化膜、表面処理層などの評価に有効です。ただし、イオンスパッタにより化学状態が変化したり、成分によって削れやすさが異なったりする場合があるため、解析には注意が必要です。
  • 非破壊的な半定量分析ができる
    通常のXPS測定では、試料表面を大きく破壊せずに、標準試料なしで元素濃度を半定量的に算出できます。ただし、イオンスパッタを併用する深さ方向分析は試料表面を削るため、破壊分析に分類されます。

 

(2)XPSのデメリット(注意点)

  • 高真空環境が必要
    放出された光電子が気体分子と衝突するのを防ぐため、通常のXPSでは装置内を高真空または超高真空に保つ必要があります。そのため、装置が大型・高価になりやすく、測定前の排気にも時間がかかる場合があります。
  • 液体や揮発性試料に不向き
    真空中に置く必要があるため、液体や揮発性の高い物質はそのままでは測定できません(冷凍冷却などの特殊な対策が必要)。
  • 空間分解能が比較的低い
    電子線を用いるAESやSEM/EDXに比べると、X線は絞り込みが難しいため、数十マイクロメートル程度の領域が分析対象となります。ナノ単位の微小な「点」の分析には不向きです。
  • 水素・ヘリウムが検出できない
    通常のXPSでは、水素やヘリウムは実用的な分析対象になりません。水素は内殻電子を持たず、明瞭な光電子ピークとして検出しにくいためです。ヘリウムも一般的な固体表面分析では検出対象外と考えられます。水素の評価が必要な場合は、他の分析手法との併用を検討する必要があります。
  • 表面汚染の影響を受けやすい
    表面感度が高いため、大気中から吸着したわずかな有機物や水分が測定結果に影響し、本来の材料表面の評価を妨げることがあります。

 

3.XPSの主な応用分野と活用例

XPSは、半導体・デバイス開発をはじめ、電池材料、触媒、高分子材料、表面処理、接着不良解析など、幅広い分野で利用されています。

  • 半導体・デバイス材料: 極薄絶縁膜、電極材料、酸化膜、界面層などの元素組成や化学結合状態の評価に用いられます。
  • 電池材料の解析: 二次電池や燃料電池の充放電に伴う電極表面の化学変化、固体電解質界面(SEI)膜の組成分析にも用いられます。
  • 触媒・高分子材料: 触媒表面の活性点(価数状態)の特定や、有機フィルム・ポリマーの表面改質、官能基の同定に広く用いられます。
  • 環境・リサイクル分野: 新材料やリサイクル材の表面汚染、酸化状態、処理状態の評価にも応用されています。

 
《現場での活用例》

  • 不具合原因を探る: 接着不良が起きた際、表面に目に見えない油分などの有機汚染が残っていないか、あるいは洗浄工程で表面の化学状態が変化していないかを調べることで、不具合原因の推定に役立ちます。
  • 異物・汚染物の原因を推定する: 製造ラインで発生した微小なシミや汚染について、金属酸化物、有機物、シリコーン系汚染などの可能性を絞り込み、発生源の推定や再発防止に役立てます。

 

4.まとめ

XPSは、表面近傍の元素組成に加えて、元素の化学結合状態や酸化状態を評価できる点が大きな強みです。接着不良、表面汚染、酸化膜、コーティング、電池材料、触媒など、表面状態が性能に直結する材料評価で広く利用されています。
一方で、測定には高真空環境が必要であり、水素・ヘリウムの検出が難しいこと、微小領域分析には限界があること、深さ方向分析ではスパッタによる影響を受けることなどに注意が必要です。

表面分析を行う際は、化学状態を詳しく知りたい場合はXPS、微小領域を観察・分析したい場合はAESやSEM/EDX、極微量成分や分子情報を調べたい場合はSIMSなど、目的に応じて手法を選択することが重要です。近年は、複合分析装置やAP-XPSなどの技術も発展しており、より実環境に近い条件での表面分析も進みつつあります。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)

 


《引用文献、参考文献》

  • 1) 氏平祐輔, 測定法講座:固体の表面分析(1)
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/kogyobutsurikagaku/54/7/54_556/_pdf/-char/ja
  • 2) H・N, 組成を知る:固体表面の分析方法(AES/EPMA/XPS/XRF) 《機器分析のキホン⑤》, 日本アイアール
    https://engineer-education.com/instrumental-analysis05_aes-epma-xps-xrf/

 

 

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