滅菌バリデーションとは|滅菌バリデーション基準の概要
医薬品や医療機器の滅菌では、滅菌バリデーションの実施が要求されます。
医薬品や医療機器の製造に携わる方にとって、滅菌バリデーションは馴染みがある言葉ではないでしょうか。
本コラム記事では、滅菌バリデーション基準の概要をご紹介します。
ご存じの方もそうでない方も、この機会にさらっと目を通してみてください。
目次
1.滅菌バリデーションとは?
滅菌バリデーションとは、製造所の滅菌における状態管理を目的とし、恒常的に製品の無菌性を保証することです。
- 構造設備
- 手順、工程
- その他の製造管理及び品質管理の方法
上記について、製品の無菌性保証が妥当であるかを検証・文書化して管理します。
また、医薬品・医療機器の滅菌では、滅菌バリデーションの実施が義務化されています。
2.滅菌バリデーション基準
滅菌バリデーションはQMS文書の一つで、ISO13485やQMS省令でも作成するよう記載されています。
ISO13485やQMS省令では、実施すべき内容が規定されているのみで、どのような方法・手順で行うかの制定は各企業ごとに設定する必要があります。
そこで参考文書として、滅菌バリデーション基準が、責任や権限、実施手順、報告の方法などについて定める際の各項目について規定しています。
滅菌バリデーションの基準は、厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課長通知(薬生監麻発)により制定されています。以下で、薬生監麻発で定められた滅菌バリデーションについて簡単にご紹介します。
(1)目的
適切に滅菌バリデーションを行うことで、QMS省令(「医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」平成16年厚生労働省令第169号)に基づく滅菌医療機器の製造管理・品質管理を適切に行われることを目的に制定されました。
(2)適用範囲
滅菌バリデーションは製造販売業者等・製造業者が対象です。
- 滅菌医療機器の滅菌プロセス開発
- バリデーション/日常管理
QMS省令に基づいて、上記業務を実施する場合に適用されます。
(3)滅菌バリデーションの規格基準
滅菌方法ごとに指定されたJIS規格、または同等以上の規格・基準で滅菌を行う必要があります。
- エチレンオキサイド滅菌
- 放射線滅菌
- 湿熱滅菌
滅菌バリデーションでは、上記滅菌方法が規定されています。
滅菌プロセスの開発やバリデーション、日常管理は、各規格基準に則った滅菌方法が求められます。
(4)品質管理監督システムに関する規定
滅菌バリデーションでは、品質管理監督システムとして、下記が規定されています。
- 文書化
- 管理監督者の関与
- 滅菌バリデーションに係る責任者の業務
- 製品実現
- 測定、分析及び改善―不適合製品の管理
手順を定め、文書化することが求められます。
(5)滅菌剤に関する規定
滅菌バリデーションでは、滅菌剤に関する規定項目を定めています。
- 滅菌剤の特定
- 微生物殺滅効果の有効性
- 材料への影響
- 環境への影響
それぞれにおいて評価し、文書化することが求められます。
(6)プロセスおよび装置に関する規定
滅菌バリデーションでは、プロセスについて定義しています。
- 製品の無菌性保証水準
- プロセス監視/管理に必要なプロセスパラメータの許容範囲
上記を定め、文書化することが定義されています。
さらに、プロセスおよび装置に関して下記3点が求められます。
- プロセス変数の特定
- プロセス変数の管理/監視方法の規定
- 滅菌プロセスで使用する装置の仕様の文書化
(7)製品に関する定義
滅菌バリデーションでは、製品に関する定義が示されています。
- 滅菌する製品の規定
- 同じ滅菌プロセスで処理する製品群では、各製品についてその製品群に含める根拠と、判断基準の定義
- 滅菌済製品の製品要求事項の適合確認
上記が定義されており、すべて文書化することが求められます。
また、滅菌プロセスの有効性を損なわないよう、必要に応じて滅菌する製品のバイオバーデンの管理を保証する事項を定め、実施するよう規定されています。
さらに、「バイオバーデンと無菌性保証水準の関係及びバイオバーデンの管理水準等を含めるのが望ましい」と追記されています。
(8)バリデーションに関する規定
滅菌バリデーションで定めるべき事項として、下記があげられます。
- 各業務の責任者の業務範囲と権限に関する事項
- 実施時期に関する事項
- 計画書の作成と変更、承認等に関する事項
- 結果の報告と評価、承認に関する事項(記録方法を含む)
- 文書の保管に関する事項
- この基準に定める日常の滅菌プロセスの管理に関する事項
滅菌バリデーション基準では、上記のほかに「その他必要な事項」が挙げられており、限定されるものではありません。
また、対象とする製品群ごとに、判定基準を含む計画の作成と実施が求められます。
下記項目が、計画書に定める事項の例として挙げられます。
- 対象製品名
- 滅菌バリデーションの目的
- 期待される結果
- 検証方法/検証結果の評価方法
- 検証の実施時期
- 滅菌バリデーションを行う者(担当者)の氏名
- 滅菌バリデーションの照査及び承認に関する事項
- 計画書の作成者及び作成年月日並びに改訂した場合においては改訂した者、改訂の年月日、内容及び理由
- 当該滅菌バリデーションに関する技術的条件
計画書に定める事項についても、上記に限定されるものではなく、「その他必要な事項」と定められています。
さらに、バリデーションに関して、下記についても定められています。
- 滅菌バリデーションで用いる測定器等の校正
- 据付適格性の確認(IQ)
- 運転適格性の確認(OQ)
- 稼働性能適格性の確認(PQ)
- 滅菌バリデーションの照査及び承認
(9)滅菌からの製品リリース
滅菌プロセスの運用結果の記録照査手順を定めることが必要です。
ただし、プロセスの定義、滅菌バリデーションの照査/承認で必要とした事項を含め、無菌性の保証の判定基準とその方法を規定します。
- パラメトリックリリース
- バイオロジカルインジケータの培養試験結果、および滅菌バリデーションの結果に基づき定めたパラメータの管理結果による判定
日常の滅菌プロセスで処理した製品は、上記の判定方法によって無菌性の保証を行います。
(10)プロセス有効性の維持
滅菌バリデーションで確認されたプロセスの有効性の状態を維持しなければなりません。
下記について、それぞれ規定されています。
- 変更管理: 滅菌装置、手順を含む滅菌プロセス、製品、載荷形態、バイオバーデンに影響を与える可能性のある変更を行う場合には、変更に伴う影響の確認を行う必要があります。
また、必要に応じて、適格性の再確認などの措置をとることが求められます。 - 再校正: 装置の監視・管理に用いる測定機器の再校正には、予め定めた手順通りに行う必要があります。
- 装置の保守業務: 保守業務の計画や手順は、記録して保管しなくてはなりません。また、予め定めた間隔ごとに責任者が照査し、その結果を文書化する必要があります。
- 適格性の再確認: 適格性の再確認として、下記が求められます。
- 範囲・程度を含む実施基準の文書化
- 手順を定め、適格性の再確認の記録を保管する
- 予め定めた判定基準に基づき結果を照査し、承認する(適格性の再確認の記録は保管する)
3.滅菌バリデーション基準は手順書作成の「参考」
本コラム記事でご紹介した滅菌バリデーション基準は、各企業が手順書を作成する際に参考とするために規定された文書です。手順書の作成には、滅菌バリデーション基準に概ね則っている必要がありますが、必要に応じて変更する必要があります。
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(アイアール技術者教育研究所 S・N)
《引用文献、参考文献》
- 1) 滅菌バリデーション基準の制定について(◆平成26年12月18日薬食監麻発第1218004号)
「https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc0626&dataType=1&pageNo=1