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LTspiceで学ぶ電子部品の基本特性とSPICEの使いこなし(セミナー)
2024/12/5(木)10:00~16:00
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「炊飯器」とは、米を炊いてご飯にするための調理器具です。
業務用としては1923年に三菱電機から、家庭用としては1955年に東京芝浦電気(現在の東芝)から世界で初めて販売されました。
後に保温機能を備え、1980年代にはマイコン制御が取り入れられるなど、多機能化していきます。
家庭用としては、ガス式と電気式がありますが、ここでは家庭用の電気式炊飯器について簡単に説明します。
目次
家庭用電気式炊飯器には、主にIH式炊飯器とマイコン式炊飯器とがあります。
IH式炊飯器とは、内鍋を電磁誘導加熱(Induction Heating)する方式の炊飯器です。
すなわち、IHコイルに通電して磁力線を発生させ、発生させた磁力線により内鍋自体に電流を流してジュール熱を発熱させることにより、内鍋自体を加熱します。
マイコン式炊飯器とは、炊飯器の底面側に配置したヒータによって内鍋を加熱する方式の炊飯器です。
ヒータへの通電制御をマイコン(microcontroller)によって行うことからこの名称がつけられています。
ここでは、IH式炊飯器の仕組みについて簡単に解説します。
炊飯器は、炊飯器本体と蓋体を備え、内鍋が収容される構成となっています。[※図(a)(b)参照]
【図(a)IH式炊飯器の仕組み】
【図(b)IH式炊飯器の仕組み】
炊飯器本体内には、底部と胴部とで内鍋が収容される空間が形成されています。
底部の下方側にはIHコイルが、胴部の外周側にはヒータがそれぞれ配置されています。
IHコイルには交流の高周波電流が通電されます。この高周波電流によりIHコイルから磁力線が発生し、内鍋が誘導加熱されます。
「誘導加熱」とは、電磁誘導の原理を利用して、金属などを加熱することを指します。
IHコイルに高周波の交流電流を流すことにより、その周囲に向き及び強度が変化する磁界が発生します。
発生した磁界中の内鍋(底部分)には電磁誘導により電流が流れます。
内鍋は後述するクラッド材からなる金属で構成されているため、その電気抵抗により
電力 =(電流)2 ×(抵抗)
のジュール熱が発生することになり発熱します。
内鍋には、クラッド材が使用されています。
クラッド材(クラッドメタル)とは、1つの金属の表面と他の金属(通常は異種金属)の表面に圧力を加えて圧延し、接合する技術を用いた金属のことを言います。
一般に、内鍋に使用されるクラッド材には、有底筒状の内鍋の外側部分をステンレス、内側部分をアルミニウムで構成し、その内表面にフッ素コーティングを施したものが使用されています。
これは、内鍋を電気抵抗の大きいステンレスだけで構成すると、誘導加熱できる範囲が限られることから、収容する米および水を均等に加熱するために、熱伝導性に優れたアルミニウムの層を設けているのです。
フッ素コーティングの層は、米飯のこびりつきを防止し、アルミニウムの層を保護することを目的として設けられています。
蓋体には、内蓋が着脱可能に設けられており、この内蓋が内鍋の上方開口部を閉鎖して内部空間を密封状態とする役割を果たしています。内蓋には、後述するような圧力炊飯を可能とするための調圧ボールやヒータ、あるいは温度センサなどが設けられています。
現在の炊飯器では、1気圧を超える圧力まで内部空間(内鍋と、その上方開口部を閉鎖する内蓋とで形成される空間)を加圧して炊飯する機能を備えたものが多くなってきています。
なぜ炊飯時に加圧するのかというと、甘味成分を増大させ、炊きムラを抑制することが主な目的のようです。
1気圧を超える圧力まで加圧すると、沸点が100℃を超えることになります。
例えば、1.2気圧まで加圧すると、水を105℃で沸騰させることができます。そして、100℃を超える温度になると、米のα化が促進されるのです。
米のα化により、デンプンが膨潤し、甘み成分である、多くのブドウ糖やショ糖が得られることになります。
また1気圧を超える圧力で加圧している状態から1気圧まで減圧すると、水が沸点を超え、爆発的な沸騰が引き起こされます。この爆発的な沸騰により内鍋内の米の撹拌が促進され、全体に均一な温度となって炊きムラが抑制されるのです。
炊飯中に蒸気が発生しますが、炊飯器の設置場所などによっては、そのような蒸気が発生しないことが望まれます。このため、蒸気レスタイプの炊飯器が開発されました。
発生した蒸気を水冷してタンクに回収し、回収した水を再び蒸発させて米飯に戻して保温に利用するタイプのものがあります。
蒸気には、うまみ成分が含まれています。
うまみ成分である“おねば”と言われる粘り気のある汁が、水蒸気と共に外部に流出しないように回収して内鍋内に戻すことで、美味しく炊き上げることを実現しています。
蒸気を利用して炊飯するようにしたタイプの炊飯器もあります。外釜と内釜の間に水を入れ、加熱することにより発生させた高温の水蒸気を内釜内に供給して炊き上げるものです。
IH式炊飯器でも、炊飯の後半に高温の水蒸気を供給して米の乾燥を防ぎながら加熱するものもあります。
通常モードのほかに、早炊きモード、炊き込みモード、おかゆモードなど、炊飯の仕方を選択できるようになったものがあります。炊飯は、吸水、沸騰、炊き上げ、蒸らしの各工程で行われますが、上記モードでは次のように時間を変更しています。
早炊きモードでは、吸水工程や蒸らし工程の時間を短縮化したり、省略したりすることにより、炊飯時間がかからないようにしています。このため、炊きあがったご飯が硬めに仕上がると言われています。
炊き込みモードでは、通常モードに比べて炊飯時間を長く設定しており、内鍋の底に、いわゆる“おこげ”ができるように炊飯しています。
おかゆモードでは、収容する水量を多めにして、炊飯時間を長くすることにより、通常モードよりも糊化を進行させています。
例えば、AI(人工知能)を搭載し、米の銘柄やその状態に合わせた炊飯プログラムをクラウド上に用意することにより、購入した米に合わせた炊き分けができるようにしたものがあります。
米の残量を管理して残量が少なくなると、スマートフォンなどに通知したり、あるいは自動的にお米を注文したりする機能も備えています。
内鍋を超音波振動によって振動させることにより、お米の吸水を促進させ、研いですぐに炊いてもふっくらとした仕上がりとすることができるようになっています。
お米の品種を選ぶことにより、お米の性質や味、食感が最も適切に得られるように炊き上げることができる機能です。
内鍋に使用する素材により、次のような特徴を持たせることができます。
圧力IH炊飯器が主力商品であり、6つのIHコイルによる複数箇所を誘導加熱するという、いわゆる炎舞炊きを行うことができるものがあります。この炊飯器では、熱範囲を6ブロックに分け、対角線上に位置する2つのIHコイルの組み合わせを3組設けています。そして、1組ずつ同時加熱することで、上下左右の激しい対流を引き起こし、内鍋の中心部までかき混ぜることにより、均一な加熱を実現しています。
(※URL: https://www.zojirushi.co.jp/syohin/rice/ )
内鍋に土鍋を採用することにより、細かくて均一な大量の泡でお米を包み込みながら炊飯できるようにしています。大量の泡により、お米が傷付くのを防止することができ、表面がつややかで、もっちりとした食感のご飯に炊き上げることが可能となっています。
(※URL: https://www.tiger-corporation.com/ja/jpn/feature/rice-cooker/ )
可変圧力で、内部の圧力を高圧状態から一気に減圧して爆発的な沸騰を引き起こし、米の撹拌能力を高めています。また、高速でIHを切り替えることで、大火力を実現し、激しい泡の対流を引き起こすことによりふっくらと炊き上げることを可能としています。さらに、内部にスチームを供給することで、お米の保温状態を良好なものとしています。
(※URL: https://panasonic.jp/suihan/ )
炊飯時に1.3気圧まで加圧し、最高107℃の高温で加熱することにより、お米を美味しく炊き上げることを実現しています。しかも、炊き上がりでの余分な水分を短時間で除去できるので、お米のベタつきを抑えることができます。また、蒸らし工程では、加圧した状態で行っているのも特徴です。このようにして、炊き上がったお米の状態を外硬内軟としているのです。
(※URL: http://kadenfan.hitachi.co.jp/kitchen/index.html )
可変超音波吸水、すなわちお米を超音波で振動させることにより吸水しやすくしています。また、内鍋に炭釜を使用することで、大火力で炊き上げることを実現しています。さらに、蒸気レス機能の搭載の他、季節モードや芳潤炊きモードなど炊き分け機能も充実しています。
(※URL: https://www.mitsubishielectric.co.jp/home/suihanki/ )
ということで今回は、日本人にとっては身近な存在である「炊飯器」のキホンを解説しました。
(アイアール技術者教育研究所 T・N)