【基礎からわかる再生医療】幹細胞による再生医療の概要|多分化能幹細胞と多能性幹細胞
再生医療とは、機能障害や機能不全になった組織・臓器に対して、細胞や組織の移植により、機能の再生を目指すものです。
幹細胞を用いて組織の再生や機能の回復を目的とした細胞治療法などの研究・試験が行われ、実用化に向けて進んでいます。また、再生医療の技術を用いて、疾患の原因解明や医薬品開発も行われています。
今回は、幹細胞を用いた再生医療技術の前提知識についてご紹介します。
1.再生医療関連法
日本では、2014年に再生医療の推進に関わる2つの再生医療関連法「再生医療の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)」と「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」が施行されています。
再生医療等安全性確保法は、細胞加工物のうち再生医療等製品ではないものを、臨床研究または自由診療として再生医療を実施する医療機関に対する規制する法律です。
また、医薬品医療機器等法では再生医療等製品(細胞医薬や組織工学製品、及び遺伝子治療やウイルス療法)が加えられ、有効性が推定され、安全性が確認されれば、厚生労働省が期限付きで早期に市販を承認が与えられるようになりました。2021年時点での厚生労働省の承認されている再生医療等製品は11種類になります。
2.幹細胞による再生医療
「幹細胞」は、自己複製能と様々な細胞に分化する多分化能を持つ特殊な細胞です。
幹細胞には大きく「多分化能幹細胞」と「多能性幹細胞」があります。
(1)多分化能幹細胞
多分化能幹細胞は、限られた種類の細胞に分化できる細胞で、体性幹細胞(図・上段)が挙げられます。体性幹細胞は生体の様々な組織に存在し、間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞などがあります。
間葉系幹細胞からは、中胚葉由来の組織である骨、軟骨、血管、心筋細胞、脂肪細胞などに分化できる能力を有しています。間葉系幹細胞は骨髄、脂肪組織などから比較的容易に得ることができ、がん化のリスクが低く、安全性が高いとも言われています。
骨髄由来間葉系幹細胞については、造血幹細胞移植後の急性移植片対宿主病(GVHD)の治療用として承認されている再生医療等製品や脊髄損傷の治療用として条件付承認されている再生医療等製品があります。
また脂肪由来の間葉系幹細胞は、脂肪組織が比較的安全かつ大量に採取しやすいことに加え、臓器修復・免疫調製能に優れていることがわかり注目され、関節軟骨などの再生医療に応用されています。
(2)多能性幹細胞
多能性幹細胞は、ES細胞(embryonic stem cells:胚性幹細胞)(図・下段)やiPS細胞(induced pluripotent stem cell:人工多能性幹細胞)(図・中段)があり、様々な組織や臓器に分化する能力を持つ万能細胞です。
ES細胞は受精卵が分裂を繰り返した後、胚盤胞期の胚の内部細胞塊から樹立される細胞株です。ES細胞は受精卵を加工して利用する点で倫理的な課題があります。
2019年国内初のヒトES細胞由来の肝細胞を肝疾患の治療に用いた医師主導型の治験が行われています。
京都大学の山中教授により開発されたiPS細胞は、体細胞に初期化遺伝子Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycを導入し、体細胞をリプログラミング(初期化)して、人工的に未分化な状態にした幹細胞です。ES細胞にあるような倫理的な問題を解決した事で注目されていますが、移植後のガン化するリスクは懸念されています。がん化を解決するため導入遺伝子にc-Mycを用いない方法やウィルスベクターを用いないiPS細胞の樹立方法の研究も進んでいます。
国内では2014年に世界発の患者へのiPS細胞由来網膜色素上皮細胞シートの移植手術が実施されました。それ以外にもドパミン神経前駆細胞、角膜上皮細胞シート、心筋細胞シート、網膜シートなどの投与が臨床研究や医師主導型治験において行われています。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・Y)
《参考資料》