3分でわかる技術の超キホン 希土類金属(レアアース)と磁性

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希土類磁石

現代の高付加価値産業を支える「希土類金属」(レアアース)。
その基本的な性質については前回の記事「希土類金属(レアアース)の基礎知識・要点解説」で解説しました。

今回は、希土類金属の磁性体への応用についてご紹介します。

高性能希土類磁石の製造技術をめぐる中国の禁輸措置に関する報道も注目を集めているようです。
磁石はモーターの性能を大きく左右する中核部品で、電気自動車、飛行機、ロボットなどの産業機器から携帯電話、エアコンなどの家電用品まで幅広く利用されていますが、高性能なネオジム磁石やサマリウムコバルト磁石は中国が高いシェアを占めています1)

なぜ希土類磁石(レアアース磁石)が凄いのか。その磁力の源とその磁性体の種類についてご説明します。

 

1.希土類金属の電子配置など(おさらい)

希土類元素(Sc、Yを除く)は、満たされていないf電子殻構造を持っているため、対になっていないf電子を形成し、さまざまな電子エネルギー準位を生成します。
したがって、磁性体、光電材料などへの応用が広く使われています。
 

【表1 希土類元素の基本データ】

原子番号 元素記号 原子量 原子外殻 電子配置 イオン外殻 電子配置(3+) 原子価 原子半径(Å) 3+イオン半径(六配位)(Å) 色(3+イオン) 塩水溶液
21 Sc 44.97 3d14s2 3d0 +3 1.63 0.88 無色
39 Y 88.92 4d15s2 4d0 +3 1.78 1.04 無色
57 La 138.92 5d16S2 4f0 +3 1.87 1.17 無色
58 Ce 140.13 4f15d16s2 4f1 +3, +4 1.83 1.15 無色
59 Pr 140.92 4f36s2 4f2 +3, +4 1.82 1.13
60 Nd 144.27 4f46s2 4f3 +2, +3, +4 1.81 1.12 赤紫
61 Pm 147.00 4f56s2 4f4 +3 1.80 1.11 淡赤
62 Sm 150.35 4f66s2 4f5 +2, +3 1.79 1.10 淡黄
63 Eu 152.00 4f76s2 4f6 +2, +3 1.98 1.09 無色
64 Gd 157.26 4f75d16s2 4f7 +3 1.79 1.08 無色
65 Tb 158.93 4f96s2 4f8 +3, +4 1.76 1.06 1.06
66 Dy 162.51 4f106s2 4f9 +2, +3, +4 1.75 1.05
67 Ho 164.94 4f116s2 4f10 +3 1.74 1.04 淡黄
68 Er 167.27 4f126s2 4f11 +3 1.73 1.03 桃色
69 Tm 168.94 4f136s2 4f12 +2, +3 1.72 1.02 淡緑
70 Yb 173.04 4f146s2 4f13 +2, +3 1.94 1.01 無色
71 Lu 174.99 4f145d16s2 4f14 +3 1.72 1.00 無色
 

特にランタノイド元素の4f電子配置の特徴をまとめると、以下の3つがあります(表1)。

  1.  4f電子軌道の外側にある、5s, 5p, 6s軌道に先に電子が埋まり、その後に4f電子軌道に電子が入る。
  2.  第一遷移金属元素のように、4f電子軌道に電子が1―14と順番通りで入らない。
  3.  La(ランタン)、Ce(セリウム)、Gd(ガドリニウム)、Lu(ルテチウム)のみ、5d電子軌道に電子(Laは4f電子なし、Gdは4f電子が7つ持ち、準安定の半充填、Luは4f電子が全て充填)が入る。

そのうち、LaとLuは5d軌道に電子を持ち、かつ4f軌道が空か全充填かしているため、第3族典型元素の電子配置によく似て、色や性質などは他のものとやや異なって、使い道もそれぞれです。

 

2.磁性の基礎知識

磁性といえば、「鉄」を思い出す方が多いかもしれません。
実は常温で強磁性を示す元素Fe以外に、CoNiがあります。

では、これらの元素はなぜ磁性を示すのでしょうか?
反磁性体と磁性体の違いはどこにあるのでしょうか?

電子は「スピン」(回転)という性質を持っています。
このスピンによって電子そのものが磁石としての性質を帯びています
一般的にはスピン磁気モーメントこそが、磁性の主な源だと考えられます。

電子が回転(スピン)すると、電流の磁気作用と同じく周囲に磁場が発生します。
しかし、多くの原子は回転が互いに逆向きの電子対(ペア)となっているために、磁場は打ち消されてしまいます。

例えば、代表的な磁性体のFeと反磁性体のCuを見比べると、そのどちらも3d電子殻の収容可能電子数に達する前に4s殻に電子が入っています。
Feの場合、スピンの向きが逆符号同士の3d電子対は1組であり、残りの4個の3d電子は孤立した不対電子となって、電子の回転による磁場が発生します。ところがCuの3d電子に不対電子がなく、逆符号同士の3d電子対が5組となって、磁場は打ち消されてしまいます(図1)。

 

鉄と銅のd軌道電子配置と磁性の関係
【図1 鉄と銅のd軌道電子配置と磁性の関係】

 

表1に示したように、ランタノイド元素の4f殻電子と5s、6s殻電子の間に同様な配置関係があって、不対電子が存在します。この4f不対電子を「磁性電子」とも呼びます。
この磁性電子は、スピンの向きが同じで且つ孤立しているためにスピン磁気モーメントが生じ、近隣原子との交換相互作用および外殻電子によってある程度保護されていることとのバランスにより、強磁性を生み出しています。

 

2.磁性体の種類

全ての物質は磁場に対して何らかの反応を示します。

     
  • 常磁性体: スピンがそれぞれ無秩序な方向を向いていて、磁場の中に置かれたら、同方向に磁化されるが、磁場を取り除くと磁化が消失する物質。
  • 強磁性体: スピンが同じ方向を向いていて、外部磁場がなくても大きな自発磁化を示す物質(図2)。永久磁石として利用できます。
  • 反磁性体: 隣り合うスピンがそれぞれ反対方向を向いて整列し、全体として磁気モーメントを持たない物質(図2)。
  • 物質の磁気双極子の並び方
    【図2 物質の磁気双極子の並び方:a) 強磁性体 b)反磁性体】

     

     

    3.希土類永久磁石

    永久磁石は、まったくエネルギーを消費することなく安定した磁界を発生し続けることができる不思議な材料です。電化製品をはじめ、あらゆる方面に幅広く使用されています。

    Ndネオジム、Smサマリウムのような希土類金属は4f軌道に不対電子があり、室温では常磁性です。鉄やコバルトと化合物になると相互作用で磁気モーメントの方向が揃って強磁性を示すようになり、磁場を発生させます。

    例えば、ネオジム磁石(Nd-Fe-B)サマコバ磁石(Sm-Co)は大きな自発磁化を持っています。鉄やコバルトだけでは外部磁場が取り除かれると、磁性が消えやすいです。

    [※関連記事:主な希土類磁石と金属合金磁石 [サマコバ磁石,ネオジム磁石,アルニコ磁石] はこちら]

    一方、Nd2Fe14Bのような化合物では大きな保磁力を有し、原子間の交換相互作用などの優れた複合効果で、強力な磁場を発生します。「永久磁石の王様」と呼ばれ、永久磁石材料の中で最も高い数値を有しています。
     
     

    (日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)
     


    《参考文献》


     

     

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