熱処理による鉄の結晶構造変化がわかる!鉄-炭素系平衡状態図で丁寧に解説
鉄(Fe)は、温度によって結晶構造が変わる変態する元素です。
温度が変わると結晶構造が変化する金属を「同素変態金属」と呼びますが、鉄のみでなく、チタンTi、コバルトも同様です。同素変態金属は、温度を変えるだけで結晶構造が変わるため、熱処理により様々な材料を作り込むことが可能になります。
今回は、熱処理技術の基礎知識として、鉄の結晶構造の変化について解説します。
目次
1.純鉄の結晶構造の変化
純鉄の結晶構造は図1に示すように、温度範囲によって以下のように変化します。
詳細は図3の鉄-炭素系平衡状態図(全体)の純鉄の部分を参照ください。
- 912℃以下では「フェライト」(α-鉄)と呼ばれる組織で、その結晶構造は体心立方格子です。
- 912℃~1394℃の間で「オーステナイト」(γ-鉄)と呼ばれる組織に変化し、結晶構造は面心立方格子に変化します。
- 1,394℃~1,538℃の間で「デルタフェライト」(δ-鉄)という組織となり、再度、結晶構造は体心立方格子に戻ります。
- 1,538℃を超えると液体になります。
【図1 純鉄の結晶構造変化】
(※鉄の状態変化に関する説明は、別記事「3分でわかる 鉄鋼の組織と熱処理による状態変化|Fe-C状態図、熱処理の種類などを整理」もご参照ください)
2.体心立方格子と面心立方格子の比較
体心立方格子 | 面心立方格子 | |
単位格子に属する原子数 | 2 | 4 |
充填率 | 68% | 74% |
格子定数 a (格子の1辺の長さ) |
0.287nm | 0.358nm |
鉄原子の半径r | 0.124nm | |
原子間隙間 | 0.039nm | 0.108nm |
炭素固溶限 | 約0.0218mass% | 約2.14mass% |
(1)原子数・大きさの比較
単位格子に属する原子の数は、面心立方格子が4個に対し、体心立方格子は2個です。面心立方格子の方が、体心立方格子に比べて2倍の鉄原子が格子内に入っています。
一方、面心立方格子の格子定数は0.358nm、体心立方格子の格子定数は0.287nmなので、面心立方格子の方が、1辺の長さは約1.247倍、体積にすると1.939倍近く大きくなっています。しかし、面心立方格子の格子内に収まっている原子数は2.0倍になっているので、充填率(格子体積に占める原子体積の割合)の比較で明らかなように、面心立方格子の方が多くの鉄原子が閉じ込められた構造となっています。
(2)炭素原子の侵入しやすさの比較
面心立方格子の方が鉄原子の充填率は高いのですが、一方で原子間の隙間は格子定数の大きな面心立方格子の方が広くなっています。原子間の隙間は、体心立方格子は0.039nmに対し、面心立方格子が0.108nmとなっています。
鉄の原子間の隙間に入り込む形で固溶する元素(侵入型元素)として代表的なものは炭素です。
炭素の原子大きさは0.154nmであるため、体心立方格子では炭素は侵入しにくく、侵入すると格子は大きく歪むことになります。体心立方格子構造のα鉄(フェライト組織)は炭素固溶量が非常に少なくなり、炭素固溶限(溶け込むことができる限界量)は0.0218mass%程度となります。
一方、面心立方格子でも、侵入できる空隙は炭素原子がかろうじて入り込める程度であり、炭素原子侵入により構造中に歪みを生じます。しかし、体心立方格子と比較すると、面心立方格子は炭素が侵入したときの格子の歪みは小さく、炭素原子隙間に侵入しやすくなります。面心立方格子のγ鉄(オーステナイト組織)の炭素固溶限は、約2.14mass%(※1)であり、体心立方格子に対し約100倍の相違があります。
面心立方格子のγ鉄(オーステナイト組織)は、体心立方格子より炭素を固溶しやすい構造となります。
【図2 炭素原子の侵入しやすさの比較】
【補足説明※1】
炭素濃度の単位は、mass%(質量%)とwt%(重量%)があります。Fe-C系状態図などwt%を使用する場合もありますが、今回は濃度の単位の記述として、SI単位の規格や、物理的な解釈として正しいmass%で統一します。
3.炭素鋼の結晶構造変化と炭素の拡散(徐冷の場合)
鉄は、炭素濃度によって以下のように分類することができます。なお、炭素濃度の単位はmass%.です。
- 純鉄: 炭素濃度0.0218%未満
- 炭素鋼: 炭素濃度0.0218%~2.14%
- 鋳鉄: 炭素濃度2.14%~6.67%
今回は、熱処理に関係する炭素鋼について説明します。
図3のように、炭素量と温度の平衡状態図として表したのが、鉄-炭素系平衡状態図(全体)です。
【図3 鉄-炭素系平衡状態図(全体)】
前述したように、面心立方格子のγ鉄(オーステナイト組織)の炭素固溶限は、約2.14mass%です。したがって、2.14mass%以下の炭素鋼では、高温でのオーステナイト(図3のグレー部)の中に炭素が完全に固溶している領域となります。
炭素鋼を金属組織で分類すると、炭素濃度によって「亜共析鋼」「共析鋼」「過共析鋼」に分類されます。
[※関連記事:3分でわかる 炭素鋼と熱処理の基礎知識 ]
では、高温でのオーステナイト域からゆっくり冷却(徐冷)した場合に、鋼がどのように変化するかを見ていきましょう。
(1)共析鋼
図4のS点は、炭素濃度0.765%、温度727℃で「共析点」と呼ばれます。炭素濃度が0.765%の炭素鋼は組織で「共析鋼」と呼ばれ、金属組織は「パーライト」と呼ばれます。(パーライトについては後述します。)
図4のY線(炭素濃度0.765%)に沿って高温のオーステナイト域温度から徐冷した場合を考えてみます。
【図4 鉄-炭素系平衡状態図(炭素鋼)】
Y線上の高温状態では、オーステナイト(γ鉄)の面心立方格子構造なので、炭素濃度0.765%の炭素はすべてオーステナイトに固溶しています。
温度を徐々に下げて、S点(A1変態点)の共析点に達するまでオーステナイト単層ですが、S点に達すると、結晶構造はフェライト(α鉄)の体心立方格子に変化します。この結晶構造の変化は、前述した純鉄の場合と同じですが、炭素を含んだ鉄は結晶構造の変化だけではなく、以下のように炭素の拡散が起こります。
Y線上は炭素濃度が0.765%なので、フェライト(α鉄)の体心立方格子に変化した後は、炭素を0.0218%しか溶け込むことができません。そこで、高温のオーステナイトに溶け込んでいた炭素(C)は、S点(A1変態点※2)の727℃以下の温度で一気に拡散されます。拡散された炭素は、セメンタイト(Fe3C)を生成させます。
つまり、S点(A1変態点)の727℃より温度を下げると以下の変化が起こり、1つの相(単層)から同時に2つの相に変態します、この変態を「共析変態」と呼びます。
オーステナイト(γ鉄)の単層 ⇒ フェライト(α鉄)+セメンタイト(Fe3C)※3
この共析変態によって得られる金属組織は、フェライトとセメンタイトが層状に交互に並んでいる組織で、パール(真珠)のように見えることから「パーライト」と呼ばれています。
【補足説明※2】
A1変態点は、オーステナイト(γ鉄)からフェライト(α鉄)+セメンタイト(Fe3C)への変態が開始する温度で、炭素量には関係なく平衡状態では727℃一定です。
【補足説明※3】
セメンタイトの化学組成はFe3Cですが、これはFe3Cの分子を作っているというのではなく、単に結晶格子がFeとC原子を 3:1 の比で含んでいることを意味します。
(2)亜共析鋼
炭素濃度が0.765%より低い炭素鋼は「亜共析鋼」と呼ばれ、その組織はフェライト(α鉄)とパーライトとからなります。例えば、S45Cは機械構造用の炭素鋼で、炭素濃度0.45%程度の亜共析鋼です。
[※関連記事:主な炭素鋼の特徴と使い分けのポイント ]
上記図4のX線(S45C)に沿って高温のオーステナイト域温度から徐冷した場合を考えてみましょう。
A3変態点(A3線)と交わる温度で、フェライトが析出します。さらに温度を降下させA1変態点に達すると、このとき既に析出していたフェライトはそのままですが、共析鋼と同様にオーステナイトは共析変態によって一挙にパーライト組織になります。つまり、X線上は炭素濃度が0.45%なので、フェライト(α鉄)の体心立方格子に変化した後は、炭素は0.0218%しか溶け込むことができません。
そこで、高温のオーステナイトに溶け込んでいた炭素(C)は、S点(A1変態点)の727℃以下の温度で一気に拡散されます。拡散された炭素は、セメンタイト(Fe3C)を生成させ、フェライトとセメンタイトが層状に交互に並んでいるパーライト組織になります。
したがって、亜共析鋼のA1変態点(727℃)以下の組織は、すでに析出していたフェライトと共析変態でできたパーライトになります。
(3)過共析鋼
0.765%を超える炭素鋼は「過共析鋼」と呼ばれ、その組織はセメンタイト(Fe3C)とパーライトとからなります。例えば、炭素工具鋼SK120(SK2)は、炭素濃度1.20%程度の過共析鋼です。
図4のZ線(SK120)に沿って高温のオーステナイト域温度から徐冷した場合を考えてみましょう。
Acm変態点(Acm線)と交わる温度で、セメンタイトが析出します。さらに温度を降下させA1変態点に達すると、このとき、すでに析出していたセメンタイトはそのままですが、共析鋼と同様にオーステナイトは、共析変態によって一挙にパーライト組織になります。つまり、Z線上は炭素濃度が1.20%なので、フェライト(α鉄)の体心立方格子に変化した後は、炭素は0.0218%しか溶け込むことができません。
そこで、高温のオーステナイトに溶け込んでいた炭素(C)は、S点(A1変態点)の727℃以下の温度で一気に拡散されます。拡散された炭素は、セメンタイト(Fe3C)を生成させ、フェライトとセメンタイトが層状に交互に並んでいるパーライト組織になります。
したがって、過共析鋼のA1変態点(727℃)以下の組織は、すでに析出していたセメンタイト(Fe3C)と共析変態でできたパーライトになります。
4.まとめ
以上、今回は熱処理技術の前提知識として、鉄(特に炭素鋼)の結晶構造の変化について解説しました。
鉄の熱処理を正しく行うためには、その結晶構造と炭素の挙動、そして温度変化に伴う相変態の理解が不可欠です。特にオーステナイト、フェライト、パーライト、マルテンサイトなどの各組織が、温度や炭素濃度に応じてどのように形成されるかを理解することは、目的に応じた材料特性を得るための基礎となります。鉄-炭素系平衡状態図などは、こうした変化を視覚的に理解しやすくするツールであり、熱処理設計の指針として把握しておくことは重要です。実際の製品開発やトラブル解析にも活用されており、現場での応用力を高めるためには、単なる暗記ではなく、図と現象の因果関係を深く理解することが求められます。
本記事を通じて、熱処理の理論的背景と実践的な視点を結びつける一助となれば幸いです。
(アイアール技術者教育研究所 T・I)
《引用文献、参考文献》
- 1)梅澤 修 「鉄鋼の熱処理組織と相変態」 ぷらすとす/4巻(2021)38号
- 2)熱間鍛造技術ナビ(株式会社ISS山崎機械 WEBサイト):熱処理により鋼の性質が変化するしくみ