化学

オクタン価とセタン価の違いがわかる!なぜ性質が真逆?燃料の分子構造から解説

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ガソリン 軽油

「オクタン価」はガソリンスタンドの看板にも書かれており、多くの人にとってなじみのある言葉だと思います。一方で「セタン価」は時々耳にする程度かもしれません。両者の違いは何なのでしょうか?
一般的に、一方の値が高い燃料はもう一方の値が低くなるという、興味深い「逆転」の関係にあります。
ぜそうなるのか、本記事では燃料の分子構造からその理由を探ってみましょう。

 

1.オクタン価とセタン価

表1はオクタン価とセタン価を対比したものです1),2)
オクタン価」がガソリンの性能指標であり炭素数5-10の炭化水素を対象としているのに対して、「セタン価」は軽油の性能指標であって対象としているのは炭素数が12-20の炭化水素です。まず、この点をしっかりご認識ください。

ガソリンエンジンではプラグで点火するのに対して、軽油を燃料とするディーゼルエンジンでは圧縮により自己着火します。

ガソリンエンジンではノッキングを発生させないために自己着火が起きにくい燃料が求められます。高性能のガソリン、即ち高オクタン価のガソリンとは自己着火が起きにくいガソリンです。逆にディーゼルエンジンでは自己着火しやすい燃料が必要です。高性能の軽油、即ち高セタン価の軽油とは自己着火しやすい軽油です。
ガソリンと軽油では自己着火性に対する要求が正反対です。

 

【表1 オクタン価とセタン価の比較】

オクタン価 セタン価
対象燃料 分類 ガソリン 軽油
炭素数 5-10 (軽質) 12-20(中間的)
内燃機関 分類 ガソリンエンジン ディーゼルエンジン
方式 プラグで点火 圧縮で自己着火
要求性状 自己着火しにくいこと(耐ノック性) 自己着火しやすいこと(着火性)
数値大(=良好)の燃料 自己着火が起こりにくい 自己着火が起こり易い
市販燃料の数値範囲 レギュラー:90~92
ハイオク :95~100
40~55

 

2.燃料の構造と自己着火性との関係

では燃料の自己着火性を決定する要素は何なのでしょうか。
議論を単純化するために、燃料化合物をパラフィン系炭化水素に限定して考察すると、自己着火性に図1の傾向があることが分かっています。
即ち、

  • a) 燃料炭化水素の鎖長が長いほど自己着火性が高い
  • b) 燃料炭化水素の分枝が多いほど自己着火性が低い
  • a)とb)を統合すると、燃料中の一級炭素の比率が高いほど自己着火性が低い

 

自己着火性を決定する要素
【図1 自己着火性を決定する要素】

 

炭素-水素間の結合エネルギーは 一級炭素>二級炭素>三級炭素 の序列です。一級炭素の比率が高いほど自己着火性が低下するという図1の傾向は、一級炭素と水素間の結合エネルギーが大きいことに起因すると理解されています3)

 

3.各炭化水素のオクタン価とセタン価

上記の自己着火性の傾向を踏まえて、典型的な炭化水素化合物のオクタン価とセタン価を確認してみましょう。表2をご覧ください。ただ、ガソリンも軽油も特定の炭化水素のみで構成されている訳ではなく、実際には何十種類もの炭化水素化合物の混合物であることもご承知おきください。

オクタン価では一級炭素の比率が大きいほど、換言すれば、自己着火性が低いほどオクタン価が高くなる傾向にあることが分かります。イソオクタン(=2,2,4-トリメチルペンタン)はオクタン価100の基準物質であり、オクタン価の名称はこの化合物に由来します。イソオクタンは一級炭素比率が58%と高く、自己着火性の低い代表的な化合物です。

セタン価では一級炭素の比率が小さいほど、換言すれば、自己着火性が高いほどセタン価が高くなる傾向にあることが分かります。セタンはセタン価100の基準物質です。セタンは一級炭素比率が13%と低く、自己着火性の高い代表的な化合物です。

 

【表2 各化合物のオクタン価とセタン価】
各化合物のオクタン価とセタン価(化合物名:ペンタン、ヘキサン、2-メチルペンタン、2,2-ジメチルブタン、n-ヘプタン、イソオクタン、デカン、ペンタメチルへプタン、セタン|それぞれの炭素数と炭素骨格、一級炭素の比率)

 

4.オクタン価向上剤とセタン価向上剤

市販されている燃料には、上述の炭化水素混合物にオクタン価向上剤やセタン価向上剤が添加されています。

日本のガソリンには、バイオエタノールを原料とするETBE(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)という、オクタン価117を有するエーテルが約7%混合されています。ETBEにはバイオ燃料という側面がありますが、オクタン価向上剤としても機能しているのです。

[※関連記事:バイオ燃料とは?主な種類と原料、処理工程、課題と可能性などの要点まとめ解説

その構造を図2に示します。エーテルなので炭化水素と単純な比較は出来ませんが、炭素に着目すると一級炭素の比率が高いことが分かります。

 

ETBEの構造
【図2 ETBEの構造】

 

一方で、硝酸エステル有機過酸化物等の化合物にセタン価向上機能があることが解明されており4)、軽油には2-EHN(2-エチルヘキシル硝酸エステル)が少量添加されています。
2-EHNを0.1-0.4%添加すると、添加前の軽油のセタン価にも依存しますが、セタン価が5-10程度向上することが知られています。その構造を図3に示します。このセタン価向上は、硝酸エステル基による自己着火性の向上で達成されています。

 

2-EHNの構造
【図3 2-EHNの構造】

 

5.おわりに

以上のように、オクタン価とセタン価は自己着火性をキーワードに対比すると理解しやすいと思います。
現在、カーボンニュートラル社会の実現に向けて、ETBEのようなバイオ燃料や合成燃料(e-fuel)の活用が加速しています。これらの新しい燃料を設計する際にも、今回解説した「自己着火性の制御」は常に中心的な課題となります。

[※関連記事:3分でわかる 合成燃料e-fuelとは?合成方法や課題を解説

内燃機関の歴史を支えてきたこれら二つの指標は、形を変えながらこれからも持続可能なモビリティ社会を支え続ける鍵であり続けるでしょう。
 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)

 


《引用文献、参考文献》


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