中国の「新エネルギー車」(NEV) とは何を指す?日本・EU等の車両分類呼称と比較解説!

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中国「新エネルギー車」(NEV)の解説

中国関係の話題で「新エネルギー車」という言葉が使われますが、これは中国で「NEV規制」と呼ばれる規制で使われている定義に基づいて車両を分類しているものです。
本記事では、中国の「新エネルギー車」と他地域のカーボンニュートラル目標で用いられている車両の呼び名の範囲を、図で比較しながら説明します。

1.自動車の駆動力による分類

中国で「新エネルギー車」と呼ばれる車両について説明する前に、車両の分類についてまとめてみます。
車両の分類については様々な切り口がありますが、駆動力を得る方法により分類したものを図1に示します。

自動車の駆動力による分類
【図1 自動車の駆動力による分類】

 

ここで「駆動力」と呼んでいるのは、車両のタイヤを回す力を意味しています。

ハイブリッド車」(HEV,HV)では、動力源としてエンジンと電気モータを搭載しています。
実際の走行においては、タイヤを電気モータだけで回している場合、電気モータとエンジン両方の動力源で回している場合、そしてバッテリ残電量が0でエンジンのみで駆動する場合があります。エンジンをタイヤを回す動力源としては使わず、発電用としてのみ使用するハイブリッド車もあります。

プラグインハイブリッド車」(PHEV,PHV)が通常のハイブリッド車と異なるのは、電気自動車と同様に外部充電機能があることです。これにより電気モータのみを駆動源として走る割合を増やすことができます。

水素燃料車水素エンジン車)」と「燃料電池電気自動車」(FCEV,FCV)は、どちらも水素タンクを搭載して水素を用いますが、水素燃料車では水素をエンジンでの燃焼のために使用するのに対して、FCEVでは水素を空気中の酸素とともに燃料電池での発電のために使用し、車両の駆動は電気モータにより行います。

[※関連記事:水素エンジン車の技術はこちら ]

 

地球温暖化原因物質であるCO2の低減のためには、走行中発生するCO2とエネルギー源製造・供給に発生するCO2の両方を低減しなければなりません。
走行中のCO2発生量だけの少なさで言えば、[電気自動車<PHEV<HEV<エンジン車]の順になります。

 

2.中国の新エネルギー車規制

中国は市場規模が巨大で、その動向はカーメーカーの戦略に大きい影響を与えます。
以下は、2017年に中国で発表された「新エネルギー車規制」(以下「NEV規制」, NEV:New Energy Vehicle)と呼ばれる内容の一部です。

  • 全生産販売台数のうち、一定比率のEV、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)で構成されるNEVの製造・販売を義務付ける
  • 罰則義務:義務付け比率を達成できない企業は、EVやPHVを義務付け比率よりも多く販売した企業から「NEVクレジット」とよばれる権利を購入しなければならない
  • 2025年に新車販売台数のうち、20%をNEVが占めることを目指す

新エネルギー車の範囲を赤枠で表すと図2のようになります。

中国NEV規制の新エネルギー車の対象
【図2 中国NEV規制の新エネルギー車の対象】

 

3.中国のNEV規制の影響

どの国でも規制の内容や導入時期は、例えば地球温暖化ガスの低減などのような本来の規制の目的に加え、その国の産業への影響も考慮して決められます。自国産業の発展に有利な内容とすることもあります。

NEV規制では、当初NEVにハイブリッド車が含まれると期待されていましたが、実際に発表された規制では、電気自動車以外でNEVに含まれたのはプラグインハイブリッド車だけでした。
中国市場は車メーカーの収益性への影響の大きい巨大市場ですので、規制の内容は中国向けにに開発・投入する車種や、生産工場の中国現地化の戦略に大きな影響を与えます。

NEV規制で用いられているクレジット方式は、欧州の燃費規制でも用いられている規制を推進するための方法です。目標を達成できないメーカーは、販売継続はできてもクレジット購入により収益が悪くなり、逆にクレジット売却ができるメーカーは、車販売に加えた収益をあげることができます。
2024年11月に、中国で新エネルギー車の年間生産台数が初めて1000万台を超えたことが発表されました。ちなみに2023年の日本のすべての四輪車の生産台数は、899万9千台です。

 

4.東京都の電動車化目標

東京都は二酸化炭素削減目標として、「2030年までに、都内新車販売の全てを電気自動車、燃料電池自動車、ハイブリッド車に切り替える」としています。ここでは、プラグインハイブリッド車だけでなく、通常のハイブリッド車を切り替え目標の対象に含めています。
目標の時期を含め実行可能性、あるいは目標の狙いの実効性を考えると現実的な考えだと思われます。

東京都の電動車化目標の範囲を赤枠で表すと図3のようになります。

東京都規制の電動車
【図3 東京都規制の電動車】

 

ちなみに、日本政府から表明された電動車目標では「2050年を目処にハイブリッド車以上の電動車のみの製造・販売を目指す」としており、ここでの目標電動車範囲は東京都のものと同等です。
国内では、電気自動車+ハイブリッド車=電動車 という呼び方が一般的になっています。

 

5.EUの電気自動車化目標

EUの環境政策としてカーボンニュートラルを目指す電気自動車化目標では、「2035年までに、合成燃料(e-fuel)車を除き、エンジン車の新規登録を禁止する」としています。

ここではエンジンを使う電動車であるハイブリッド車は、エンジン車とともに禁止される対象となっています。エンジンをもつ車両で、禁止から除外されているのは合成燃料車(e-fuel車)だけです。(除外するか、しないかで多くの議論がなされましたが、最終的に除外と決定されました)

合成燃料車(e-fuel車)は、ガソリン車やディーゼル車で用いられる燃料と同様に、炭化水素を成分する燃料をエンジンで燃焼させますので、燃焼によりCO2を排出します。
一方、ガソリンやディーゼル燃料が石油から生成されるのに対して、合成燃料では、工場や発電所などから排出されたCO2や大気中のCO2と、製造された水素を反応させて生成されます。このため、燃焼により排出されるCO2が、回収されるCO2で相殺されカーボンニュートラルを実現できるとされています。

[※関連記事:e-fuel車の優位性と課題は?FCEV・水素エンジン車などとの比較で考える

合成燃料の生成過程で用いられる水素は「グリーン水素」と呼ばれる水素、すなわち原料となる水素を製造するのにCO2を排出しない水素を使用することが求められます。例えば再生可能エネルギー(太陽光、風力などによる発電エネルギー)を用いて製造した水素です。

[※関連記事:3分でわかる グリーン水素の基礎知識|水電解技術など低コスト製造への課題を解説!

 

EUの電気自動車化目標の範囲を赤枠で表すと図4のようになります。

EUのエンジン車禁止規制適合車
【図4 EUのエンジン車禁止規制適合車】

 

6.将来への戦略

日本のカーメーカーは、これまで各市場の排ガス規制、燃費規制に加え、各国の政策への適合も考えて製品戦略を立て、開発戦略や生産工場配置戦略を決めてきました。

これまで、新型モデルの開発期間は、他社のモデルの市場での売れ行きを新型モデルに取り込むというような対応力強化のため短縮されてきました。
現在はこれに加え、政策を含めた社会情勢のトレンド変化に対応できるように、生産地と生産量を短期間で変えられる生産システムと生産ネットワークが求められます。

いずれにしても将来に向けた戦略策定には、技術トレンドと社会トレンドの両方に対する深い検討と洞察が必要となります。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・N)
 

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