ナフサ依存をどう減らす?注目すべき3つのナフサ代替策とは

これまでのナフサに関する連載では、「ナフサとは何か」、「ナフサ分解」、「ナフサ由来の誘導品」をテーマに、ナフサの基礎知識から、エチレンやプロピレンなどの基礎化学品、さらにそこから生産されるさまざまな誘導品までを解説してきました。
ナフサは、プラスチックや合成ゴム、繊維など幅広い製品につながる重要な原料であり、私たちの生活や産業を支えています。その一方で、日本はナフサやその原料となる原油の多くを海外からの輸入に依存しており、供給面でのリスクを抱えています。
そこで今回は、これまでとは少し視点を変え、日本の経済安全保障という観点から、ナフサを巡って日本が抱える脆弱性を整理するとともに、廃プラスチック油化、バイオナフサ、CO2転換など、ナフサ依存の低減に向けた対策について解説します。
1.ナフサを巡って日本が抱える脆弱性
ナフサに関して日本は二つの点で脆弱です。
(1)供給源の中東依存
一点目は、図1に示すように、供給源を中東に過度に依存している点です。

【図1 脆弱性1:供給源の中東依存】
国内で使用されるナフサは輸入した原油からの国内生産分(約40%)とナフサとして輸入する分(約60%)との合計になります1)。
原油は輸入量の90%以上を中東に依存しており、輸入ナフサも約74%が中東からのものです。さらに、国内生産分の原料となる原油も含めると、日本のナフサ供給全体では約8割を中東に依存しています。中東地域で情勢が悪化した場合、ナフサの供給制約や価格上昇などの影響を受けやすい構造になっています。
(2)ナフサ依存の産業構造
脆弱性の2点目は、図2に示すように、ナフサに依存した産業構造になっている点です。
第3回「ナフサ由来の誘導品」でも述べた通り、ナフサの分解によって生成するエチレン・プロピレン等の基礎化学品を原料に、プラスチックをはじめとする非常に多くの物資が生産されている状況です2)。
ナフサ不足は単なる「プラスチック不足」ではなく、「産業の血液不足」となり得ます。

【図2 脆弱性2:ナフサに依存した産業構造】
日本は現在、こうした二つの脆弱性を併せ持つ構造にあります。
2.ナフサ代替策
この状況を打開するにはどうしたらよいでしょうか。
脆弱性1である中東依存については、原油及びナフサの輸入先を北米等にも広げ、中東依存度を下げることは、当面の緩和策として一定の効果があります。しかし輸入に頼る不安定な状況の根本的な改善にはなりません。
脆弱性2である産業構造は、脆弱性1より本質的で深刻な問題です。腰を据えた解決が求められます。我が国はナフサへの依存度を大幅に低減する必要があります。
その際に、全く新たな資源を発掘して利用できれば理想的ですが、容易ではありません。ナフサに代わる原料を利用したり、ナフサを経由せずに基礎化学品を製造したりする「ナフサ代替」を、長期的な戦略の下で着実に進めるのが現実的と考えられます。
現在の日本のナフサ使用量は国内生産と輸入を合わせて2500万トン(3500万kL)/年です3)。このうちのどの程度を代替できるかが現実的な課題となります。
現時点でナフサ代替策として下記3項目が挙げられます。
- 廃プラスチック油化によるナフサ代替
- バイオマス由来原料によるナフサ代替(バイオナフサ)
- 再生可能エネルギーを用いたCO2転換によるナフサ代替
各々の対策の可能性と現状の評価を以下に示します。
厳密な評価・予測を行うのは困難ですので、概略の見積もりとならざるを得ない点はご了解ください。
(1)廃プラスチック油化
廃プラスチック油化は、リサイクル分野ではケミカルリサイクルに分類されるプロセスであり、廃プラスチックを分解して油分を回収します。
[※関連記事:廃プラスチックの処理状況と3つのリサイクル方法]
2023年のデータを用いた概算では、日本の廃プラスチック総排出量は約770万トンであり、ここからポリ塩化ビニルや異物を除いた、実際に油化装置に供給できる量は最大で約600万トン/年と見積もられます。ここで油分回収率を60%と仮定すると、360万トン/年が潜在的に回収可能なナフサ代替油分となります。これは現在のナフサ使用量の約14%に相当します。ただ現状では、プラント能力を合計しても5万トン/年以下、比率で0.2%以下とみられます。
(2)バイオナフサ
ここで「バイオナフサ」とは、廃食用油や植物油残渣などの油脂由来原料から製造されるバイオ由来のナフサを、ナフサ分解装置の原料として利用することを指しています。
ただこれらはSAF(持続可能な航空燃料)の原料でもあるので、ナフサ代替にどの程度振り向けられるかは不透明です。最大でも20~30万トン/年、比率で約1%だという評価もあります。
(3)CO2転換
CO2転換によるナフサ代替は、CCU(CO2の回収・利用)の一分野とみることができます。
[※関連記事:CCU(CO2回収と有効利用)の基礎知識と具体的な事例・用途を解説]
回収したCO2を、再生可能エネルギー由来の電力や水素などを用いて、エチレン等の基礎化学品に転換することを意味しています。ナフサ分解装置にCO2を供給することではありません。現時点でこの方法で生産されているエチレンはほぼゼロですが、再生可能エネルギーの価格が今後さらに低下すれば、廃プラスチック油化に匹敵するナフサ代替法に発展する可能性があります。
上記3対策のうち、どれか1つだけでナフサを100%代替することは、現時点では現実的ではなく、これらに総合的に取り組む必要があります。また、これらはいずれも、資源循環やCO2排出削減による地球温暖化対策と密接につながっていることにもご留意ください。
なお、式1に示すように、バイオエタノールからエチレンを生産するルートもあります。

現実に、サトウキビからバイオエタノールを安価に生産できるブラジルでは、このルートでもエチレンが生産されています。その割合は、ブラジル国内のエチレン生産量の7%程度と見込まれています。ただし、日本でこの方法を大規模に展開するには、バイオエタノールの原料調達や経済性などの面で課題があります。
3.おわりに
ナフサは、私たちの身近な製品を支える重要な原料である一方、その供給構造や資源制約を考えると、日本にとって安定確保と依存度の低減が重要な課題となっています。
今後は、廃プラスチックのケミカルリサイクルやバイオナフサ、CO2転換など、複数の選択肢を組み合わせながら、資源循環・脱炭素・経済安全保障を一体的に考えていくことが求められます。
本連載が、ナフサと私たちの生活・産業との関わりや、日本が抱える課題について考えるきっかけとなれば幸いです。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《引用文献、参考文献》
- 1) 経済産業省「石油統計」
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/sekiyuka/index.html#menu2 - 2) 石油化学工業協会, 石油化学ハンドブック 改訂8版(2025)
- 3) 石油化学工業協会, 石油化学工業の現状 2025年


































