トライボロジー(摩擦、摩耗、潤滑)の基礎と耐摩耗対策・摩擦制御法 (情報機構)
2024/4/18(木) 10:30-16:30 ※途中、お昼休みと小休憩を挟みます。
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CO2排出量削減に向けて、再生可能エネルギーの利用や材料リサイクルだけではなく、広範な分野でさまざまな取り組みが行われています。高性能潤滑油の開発もその一つです。
本稿では潤滑油に関する最も基本的な事項を解説します。
図1に示すように、部材1が部材2上をある温度で往復動している状況を想定して下さい。
当然ながら両部材の間に潤滑油を注入しています。
この時、どんな潤滑油でも問題なしという訳には行きません。
この温度で潤滑油の粘度が高すぎれば、摩擦抵抗によるエネルギー損失が大きくなってしまいます。
また逆に粘度が低過ぎれば、潤滑油膜が形成されず、焼き付き等の問題が発生することになります。
則ち、潤滑油が正常に機能するためには、使用温度で潤滑油の粘度が適正な範囲にあることが必要です。
【図1 潤滑油の適正粘度】
潤滑油で問題になるのは使用温度が一定ではなく変化することです。
周囲の気温の変化もありますが、機械類では始動時か定常運転時かでも使用温度は異なります。
ここで図2に示す2種類の潤滑油AとBを想定してみます。
基準温度における両者の粘度は一致しており、適正粘度の範囲にあるとします。
どんな潤滑油でも高温になれば粘度が低下し、低温になれば粘度が上昇します。
この傾向自体は避けられません。
重要なのは温度による粘度変化の大きさです。
潤滑油Aは温度による粘度変化が小さいため、低温でも高温でも粘度が適正範囲に入っています。
これに対して温度による粘度変化が大きい潤滑油Bでは低温でも高温でも適正範囲を外れています。
いうまでもなく潤滑油Aの方が潤滑油Bよりも優れています。
則ち、優れた潤滑油とは、温度による粘度変化が小さい潤滑油だということになります。
【図2 優れた潤滑油の条件:温度による粘度変化が小さいこと】
温度による潤滑油の粘度変化は、「粘度指数」(Viscosity Index = VI)として数値化されています。
その定義はJlS K 2283で規定されています。また石油学会のwebsiteに解説がありますので1)、関心のある方はご確認ください。ここでは細部には触れません。
粘度指数について要点を記します。
潤滑油は主体である基油(ベースオイル)に各種の添加剤を加えたものです。
当然ながら基油の性状が製品である潤滑油に性状に影響します。
粘度指数が高い潤滑油は、粘度指数の高い基油を用い、必要に応じて粘度指数向上剤を添加剤として加えることによって得られます。
基油として、通常は炭化水素油、いわゆる石油が使用されます。
炭化水素油にも多種多様な構造がありますので、どんな構造の炭化水素油の粘度指数が高いのかと疑問を持たれる方もおられると思います。
この基油の構造と粘度指数の関係は既に研究されており、図3に示す直鎖アルカン構造の炭化水素油(パラフィン)の粘度指数が高いことが分かっています2)。
基油の分子中に分岐構造や環構造があると粘度指数は低下します。これは以下のように考えると、学術的な厳密さには欠けますが、感覚的に理解しやすいと思います。
【図3 直鎖アルカン構造】
なお、直鎖アルカン構造には分子鎖が長くなると固形ワックス状になるという大きな欠点があります。
このため、分岐構造を少し有するアルカン構造の基油が、直鎖アルカン構造より粘度指数はやや劣るものの総合的に優れているため、高性能の基油として利用されています。
粘度指数と構造との関係を理論的に体系化する検討も行われています。
小林らは、アルカン構造を有する種々の基油の粘度指数と相関のあるパラメータを調べた結果、図4に示すように (平均炭素数)2/(平均分岐数) というパラメータで整理できたと報告しています3)。
【図4 粘度指数と構造との関係の体系化 ※引用3)】
以上、今回は潤滑油の基本をご紹介しました。
ご興味のある方は、関連記事「潤滑油の粘度指数を向上させる方法は?」も併せてご参照ください。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《引用文献・参考文献》