潤滑油のマテリアルリサイクル《欧州/米国/日本の状況》
各種製品のリサイクルの中でもプラスチックのリサイクルは広く浸透しています。
プラスチックのリサイクルは以下の三種類に区分されます。
- a)マテリアルリサイクル(材料として再利用)
- b)ケミカルリサイクル(分解して化学原料化)
- c)サーマルリサイクル(焼却して熱エネルギー回収)
この中では、a)マテリアルリサイクル が理想ではあるものの、日本では全体の約25%にとどまっているのが実情です。
では、他の製品ではどうなのでしょうか?この記事では潤滑油を取り上げて考察します。
1.欧州の状況[潤滑油リサイクルの先進地域]
潤滑油リサイクルに関して欧州は先進的と言えます。
EUでは、1987年廃油指令(75/439/EC)で、マテリアルリサイクルによる再生を優先させる方針を規定しました1)。
欧州における潤滑油リサイクルの概念を図1に示します2)。
欧州では使用済みの潤滑油を回収した後に、不純物除去等の再生を行って再生ベースオイルを得て、これに未使用のベースオイルと添加剤を加えて再使用するサイクルの導入が進行中です。
なお、図1中における他の形態でのリサイクルには、主として重油等の燃料油としての再利用が該当します。
【図1 欧州が進めている潤滑油リサイクルの概念図】
図2は欧州の取り組みの例として、ポルトガルにおける潤滑油リサイクルの内訳の推移を示したものです2)。
2010年以降に潤滑油としての再生利用が急速に進行し、2016年には再生率が76%という非常に高い水準に達したことが分かります。
【図2 ポルトガルにおける潤滑油リサイクルの内訳推移】
2.米国の状況[再生オイルベース仕様の義務付けも]
米国ではEPA(環境庁)が 1992 年に使用済み潤滑油管理基準を制定しました。
包括的調達ガイドラインにより、米国のさまざまな機関は再生ベースオイルを用いた潤滑油の使用が義務付けられています3)。
2018 年には、回収された359万kLの使用済み潤滑油のうち、94万kL(31%)が潤滑油ベースオイル基油を生産するために再精製されています。
3.日本の状況[ENEOS社が早期事業化へ?]
日本では潤滑油のマテリアルリサイクル、即ち再生ベースオイルはまだ事業化されていません。
再生ベースオイル化は研究機関では検討されているものの、現状では、使用済みの潤滑油の大半は再生重油としてリサイクルされています1)。
そのような中で国内石油最大手のENEOS社が、廃潤滑油を活用した潤滑油ベースオイルへの再生プロセス構築に取り組むと2022年8月に発表しました4)。
環境省の支援の下で、今年度から2年間かけて以下2点の技術検証に取り組み、早期の事業化を目指すとしています。
- 廃潤滑油回収システムの方針策定(回収チャネルごとの廃油性状確認を含む)
- 再生ベースオイル精製技術の確立
図3は同社が想定している再生プロセスを示したものです。
【図3 ENEOS社が想定している潤滑油ベースオイルの再生プロセス ※引用4)】
日本においても潤滑油のマテリアルリサイクルが近い将来に事業化されるものと期待されます。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
≪引用文献、参考文献≫
- 1)トライボロジスト, 65(2), 99-104(2020)
- 2)Environmental Science and Technology, 51(18), 2015-2050(2021)
- 3)経済産業省, 令和2年度燃料安定供給対策に関する調査等事業(潤滑油の安定供給に向けた原料確保の多様化に関する調査・分析事業)報告書, 2021年3 月
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2020FY/000085.pdf - 4)ENEOS株式会社「廃潤滑油を活用した潤滑油ベースオイルへの再生プロセス構築について」(ニュースリリース)
https://www.eneos.co.jp/newsrelease/2022/20220805_01_01_1170836.html