トライボロジー(摩擦、摩耗、潤滑)の基礎と耐摩耗対策、摩擦制御法 (R&D)
【LIVE配信】2024/4/23(火) 10:30~16:30 , 【アーカイブ配信】4/24~5/8 (何度でも受講可能)
お問い合わせ
03-6206-4966
潤滑油に関する別コラム「粘度指数とは?潤滑油の基礎をやさしく解説」の中で、潤滑油の基本事項として、粘度指数について以下の点を解説しました。
今回は、実際の潤滑油において粘度指数を向上させるための取り組みを解説します。
現在使用されている炭化水素系の基油のVIは高いものでも140程度です1)2)。
一方で実際に市販されている潤滑油のVIの値はどれぐらいかご存じでしょうか。
エンジン油の場合にはVIは150-250の範囲にあります3)。
製品の潤滑油と基油とのこの差は何によって生じているのでしょうか?
製品の潤滑油には清浄分散剤、酸化防止剤をはじめ多種の添加剤が含まれていますが、その中に粘度指数向上剤があります。製品の潤滑油の粘度指数VIが高いのは、粘度指数向上剤として特定のポリマーが配合されているためです。
何故ポリマーの添加によって粘度指数が向上するのか、その作用機構を以下に述べます4)。
図1をご覧ください。
図1は、基油の中に添加されたポリマー分子が温度によって状態が変化する様子を模式的に示したものです。
ポリマーは低温では糸まり状態ですが、温度が上昇すると次第に基油中で広がっていき伸びた状態になります。表現を変えると、温度上昇により、基油がポリマー中に溶媒和して、ポリマーの流体力学的体積が増大していきます。
【図1 粘度指数向上剤の作用機構 ※引用4)】
温度が上昇すると基油自体の粘度は低下しますが、このポリマーの広がりにより、系全体としての粘度低下を抑えることができます。従って粘度指数を向上させることができます。
ポリマーとしては、ポリメタクリレート(PMA)、ポリイソブチレン(PIB)、オレフィン共重合体(OCP)、スチレン―ジエン共重合体(SDC)などが使用されています。
より粘度指数VIの高い基油を用いることも当然ながら有効です。
上述の通り炭化水素系基油のVIは最大で140程度です。
よって、製品潤滑油のVIに対する基油の寄与を高めるためには、炭化水素以外の構造を持つ基油候補を探索する必要があります。
シリコーンオイルは、炭化水素をしのぐ非常に高い粘度指数を有することが古くから知られています5)。
代表例としてジメチルシリコーンに関してメーカー技術資料記載の値を表1に示します6)。
【表1 ジメチルシリコーンの粘度および粘度指数】
VIが200を大きく上回る値となっています。
よってシリコーンオイルが炭化水素を置き換えて基油の主力になっていてもよいはずですが、現実にはそうではありません。
シリコーンオイルは基油としては大きな欠点を有するため、その使用は限られています。
例えば、基油としての以下の欠点は潤滑油開発者の間で共通認識となっています7)。
この状況を踏まえて、従来のシリコーンオイルの弱点を補う検討も進行中です。
まず、シリコーンオイル構造にフェニル基とフルオロ基の両者が共重合の形で含まれるもの(表2)が報告されています8)。
【表2 新規シリコーンオイルの構造と粘度指数】
従来のシリコーンオイルと同等の高い粘度指数を有し、かつ従来品とは異なり、各種添加剤の溶解性に優れているため、添加剤の効果が確認できたと報告されています。
これとは別に産総研の谷田部氏らはオリゴシロキサン油と命名した表3に示す化合物の検討を進めています。
この構造は従来の炭化水素系基油とシリコーン系基油の複合構造と捉えることもできます。
この構造で高い粘度指数が維持されていることが表3から分かります。
【表3 オリゴシロキサン油の構造と粘度指数】
谷田部氏らはさらに分子量をあげたオリゴシロキサン油も検討中です。
ただ、添加剤の溶解性等を含む、粘度指数以外の実性能の評価は、当記事の執筆時点ではまだ報告されていません。今後の進捗が期待されます。
シリコーンオイル系以外の構造を持つ高粘度指数の基油が新たに開発される可能性もゼロではありません。
摩擦を更に低減して省エネ効果を高め、CO2排出削減に役立つ新技術の出現を期待するものです。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)
《引用文献、参考文献》