【資料・ツール解説】ゲージR&Rの目的と使い方 (計算式・まとめ方など)
【ゲージR&Rとは?】
「ゲージR&R」(ゲージ アール アンド アール ,”Gauge Repeatability and Reproducibility”, “GRR”)とは、物を測定する上での基本的な考え方であり、測定精度の管理手法です。
測定値精度に関して、特に測定値の繰返し性(Repeatability)と測定値の再現性(Reproducibility)を評価・管理します。
目次
1.測定値の精度、あるいは不正確さ
測定には必ず測定精度を伴いますから、測定物の真値と実際の測定値では差があります。
測定でしか数値を確かめられないので、真値も「仮の真値」と呼ばなければならないのかもしれません。
測定値と(仮)真値の関係のイメージを図1に表します。
図1の例は、ある測定対象物を、一人の測定者が繰り返し14回測定した結果、測定値がどの数値区分範囲に入っていたのかを表しています。
測定値の集団には、測定値平均と測定値分布があります。
同一の測定物で測定の回数を更に増やしていったときに、分布が図1から大幅に広がっていく場合には、測定するたびに測定値が大きく変わることを意味します。
一方、別の測定者が同様の測定を行ったときに平均値や分布が大幅に変化する場合は、測定値の再現ができていないことになります。
このような評価の後、すなわち測定精度の実力が分かった後の進み方には次の二通りが考えられます。
一つは、この現状測定精度を前提に公差・規格値の設定を行い、品質管理を行うという進み方です。
もう一方の進み方は、測定機器や測定システムにおけるバラツキ要因を低減し、測定バラツキを減らすというものです。
どちらの進み方をした場合にも重要なことは、想定した測定バラツキ(測定精度)が変化したり、拡大したりしないように管理することです。
ゲージR&Rは、このための評価・管理手法で、基準となる通常状態の測定バラツキを評価・把握することと、その変化をモニタリングして管理するために使われます。
2.測定値精度の影響
次に測定精度の具体的な影響のイメージを説明します。
図2左で表しているのは、測定値と真値との関係です。
測定値と真値は、測定値精度が低くいほどその差が大きくなりますので、「想定される真値の存在する可能性がある範囲」は広くなります。
製品検査工程において、SPC管理(*1)を用いる場合には、規格の上・下限値で不良品を検出することに加え、規格外品が出る前に予防的アクションを行うためにSPC上限・下限管理値を設定します。これにより図2(a)のような管理ができます。
一方、測定値の平均値がドリフト(遷移)したり、バラツキ幅が想定より広がっている場合には、(b)、(c)や(d)のように、測定値と真値との差が想定より大きくなり、規格外品が後工程や市場に流出したり、せっかくSPC管理を行っても適切な対応ができなくなります。
さらに、知らない間に測定精度が変化している場合には、品質マネジメントシステムにおけるトレーサビリティ管理(不具合品の含まれるロットや発生期間を追跡できるようにしておくこと)にも影響を及ぼします。
一方、開発評価においても、測定値から特性を解析したり、公差を決めるための評価を行う場合には、測定精度を認識することと、測定システムの精度管理を行うことが重要です。
例えば、真の特性と測定値が図3に表すようになっている場合、測定精度を考慮して特性の理解や仮説の設定を行わなければ、判断やその後の対応に誤りを生じます。
測定値に対して、可能性のある真値幅を表記することは、正確な理解・解析に役立ちます。
どのような影響因子の変化により品質特性不良品が発生したかを解析する場合も同様です。
(*1)SPC管理:Statistical Process Control(統計的工程管理)
《SPC管理に関する解説記事はこちら》
3.測定バラツキに関係する要素
測定値は必ずバラツクものです。
それでは測定バラツキの要因について考えてみましょう。
関係する要素を図4に示します。
(1)測定機器/測定システム
ゲージR&Rの管理対象です。計画的に較正を行い、記録を残さなければなりません。
測定システムの場合、影響要素を分解して、それぞれの変化を管理する必要があります。
例えば流量の測定システムであれば、流量測定機器のそのものだけでなく、配管やシステムの駆動系の変化に対する測定・管理も必要となります。
(2)測定者
測定機器/測定システムがツールとすると、これを用いる側の操作プロセスに関するものです。
例えば測定者の測定動作バラツキによる影響です。同一測定者におけるバラツキと、複数の測定者間におけるバラツキがあります。
同一測定者におけるバラツキが少ない高い測定スキルレベルをもつ測定者に限定管理できるのであれば、想定する測定者要因バラツキは低減できます。(ゲージR&Rの評価値にも表れます)
(3)測定環境/測定条件
測定機器/測定システムが受ける外部からの影響や、測定条件設定による影響です。
例えば、環境温度により精度が変化する測定機器では、設定測定温度で測定精度も変わります。
(4)測定対象物
測定対象自体が経時的に変動していたり、変化をしていたりすることにより測定値が変わる場合があります。すなわち真値自体の変化です。測定値は測定バラツキと真値の変化の両方を含んだ数値として表示されます。
測定対象物の素材など種類・特性が異なる場合に、測定原理によっては、測定バラツキが変化する場合もあります。
4.ゲージR&Rの計算と評価のまとめ
「ゲージR&R」の「ゲージ」は、測定機器/測定システムを表します。
繰返し性(Repeatability)は、同一の測定者が、同一のゲージ(測定機器/測定システム)を用いて同一の測定環境/測定条件において、繰り返し測定した時の測定値のバラツキのレベルを表します。
再現性(Reproducibility)は、複数の測定者が、同一のゲージ(測定機器/測定システム)を用いて同一の測定環境/測定条件おいて、繰り返し測定した時の測定値のバラツキのレベルを表します。
ゲージR&Rは、繰返し性と再現性の組み合わせを、測定者と測定対象物を変えて、繰り返し測定することにより評価します。
例として、測定者数3,測定回数3、測定対象物数10の場合のゲージR&R(GRR)と%GRRの計算式を以下に示します。(測定者数,測定回数、測定対象数が異なると、計算式中で適用する係数は変わります)
ゲージR&Rについての評価結果をまとめるフォーマットの例を図5に示します。
このような評価を定期的に行うことにより、測定バラツキが想定したものに対して変化してないかを継続的に管理します。
現象を理解したり、システムを正しく管理・作動させるために、バラツキを正確に理解し把握することは極めて重要です。
測定バラツキの想定値(基準値)と変化を認識することは、バラツキを検討する上での土台となるものです。
(アイアール技術者教育研究所 H・N)
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