ガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)の基礎知識・要点解説
ガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS,Gas Chromatography Mass Spectrometry)は、質量分析法(mass spectrometry)の一つで、有機化学で最もよく使われる化学分析の手段の一つです。
質量分析法は、熱や衝撃により分子をフラグメンテーションし、その断片化したイオンや分子の質量を測定する分析法です。導入方法、イオン化方法、分析方法などの工夫によって、様々な手法が開発されてきました。
[※関連記事:質量分析器を用いた分析(主な種類と原理):GC-MS/LC-MS/ICP-MS/GD-MS/SIMS《機器分析のキホン⑦》 はこちら]
ガスクロマトグラフ質量分析器は、ガスクロマトグラフ (GC) と質量分析計 (MS) を連結した複合分析装置です(図1)。
【図1 ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)の概念図】
GCクロマトグラフでは、気化した混合測定成分をカラムにより分離します。
一方、MS質量分析計では、GCで分離した各成分をイオン化し、イオンの質量に応じて分離、検出します。
クロマトグラフGCと質量分析計MSを分けて、GC-MS装置の働きかたを説明します。
1.クロマトグラフ(GC)の構造
試料の気体または液体がGCに注入され(液体は試料気化室の熱で気化する)、移動相とともに分離カラムに導入され、カラムを通過します。
「移動相」とは、クロマトグラフィー分離中に測定成分を前方に運ぶ物質です。気体の場合は「キャリアガス」とも呼ばれ、[気化室→カラム→検出器]の順番で流れ続けます。一般的に使用されるのは、N2、H2、Heなどがあります。また、移動相が液体(LC)である場合は「LCMS」と言われます。
2.クロマトグラフ(GC)の分離原理
測定成分の物理的、化学的特性および構造の違いにより、カラム内の固定相との相互作用が異なり、カラム内を進む速度も化合物によって異なります。そのため、各成分の流出の時間差が生じ、順番で分離できます。
カラムには固定相の種類、カラムの長さ、内径、膜厚によりそれぞれ特徴があるため、適切なカラムを選ぶことが大切です。
3.質量分析計MS(mass spectrometry)
GCによる分離したそれぞれの成分は質量分析計でまずイオン化します。
イオン化の方法は様々ありますが、詳しいことは「質量分析法とは?イオン化法の種類など要点解説」をご参考ください。
そしてイオンが加速され、磁場または電場を通過した後、質量電荷比 (m/z) に従って分離し、検出されます。これでMSスペクトルができます(図2)。
【図2 GCとMSの測定関係図】
4.GC-MSスペクトルの解析
GC-MSスペクトルは、縦軸をシグナル強度、横軸をm/zで表した二次元表示となります。
MSスペクトルの解析には、まず分子イオンとその同位体を決めます。存在量のより少ない同位体を含みますので、そのM+1、M+2などに同位体ピークを与えます。これにより質量とパターンから元素を推定することができます。さらにフラグメントイオンによって、構造推定と化学種の同定を行います。
他にイオン強度によるピークの同定も可能です。例えば、環状化合物や二重結合を持つ化合物の分子イオンは安定であり、ピークは強く現れます。逆に脂肪族アルコールなどは不安定であり、ピークは弱くなります。
5.GC-MSで分析できない物質
GC-MSは有機化合物の同定や環境中の有害物質等の定量分析など、幅広く活用されていますが、分析できないものがあります。
- 気化しない物質(例:無機金属化合物)
- 反応性の高い化合物や不安定な化合物は安定に存在できないため検出できません。(例:酸化性の強い強酸やオゾン、NOxなど反応性の高い化合物)
その他、吸着性の高いものやライブラリー入手困難な化合物もGC-MSにはあまり向いていません。
ということで今回は、有機物の同定に役立つ「GC-MS分析法」をご紹介しました。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)
《引用文献、参考文献》
- 1)日本電子株式会社(WEBサイト)「ガスクロマトグラフ質量分析計」
https://www.jeol.co.jp/products/science/gcms.html