【医薬品製剤入門】流動化剤の基礎知識[医薬品添加物の解説⑦]

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医薬品添加物・流動化剤の解説

医薬品を製造する際に、例えば、医薬品原体、添加物を混合した粉末を、機械で打錠するといった工程を行う場合、粉末がサラサラな状態だと操作しやすくなることは容易に想像されると思われます。このサラサラにする医薬品添加物を「流動化剤」といいます。
今回は、その流動化剤についてご紹介します。

1.流動化剤とは?

粉体混合物の流動性を良くする添加物を「流動化剤」といいます。

カプセルや錠剤などの医薬品製造工程には、カプセル充填機や打錠機への充填過程がありますが、流動化剤は、粉末の混合物を製剤加工する際に、機器などの中でスムーズにながれる移動できるようにします。

また、混合された状態がそのまま維持されることから、充填時の重量ばらつきを抑えることができ、均一性を保つためにも使用されます。

すなわち、製造途中で詰まることなく、スムーズに製造することができるようになり、錠剤間の含有量の変動を抑制することが可能となります。

 

2.流動化剤の様々な役割

上記の粉粒体の流動性改善以外にも、流動化剤にはいくつかの役割があります。

例えば、錠剤などは、打錠してから、患者が服用するまでの間に欠けや破損を生じないようにある程度の硬度が必要になりますので、成形性の悪い主薬含量の高い製剤などにおいては、一定以上の硬度を付与するために流動化剤を添加することがあります(硬度増加)。

また、吸着担体として利用されることがあります。
多孔質の流動化剤を用いることにより、例えば、液状薬物などを流動化剤に吸着させて粉末化させたり、細孔中に薬物を包接するようなことが考えられています。

なお、滑沢剤も同様な流動化効果を持っており、滑沢剤を粉末や顆粒に1%程度加えると、粉体表面に滑沢剤が付着し、粉体間の付着力が弱まるため、粉体の流動性が高くなるとされています。

 

3.流動性の評価法

粉粒体の流動性は、安息角、圧縮度、オリフィスからの流出速度などと相関するとされています。
粉体の流動性の評価の方法としては、これらを試験によって測定する方法が知られていますが、これらの測定は、試験法により数値が変動することがあります。

医薬品の場合、日本薬局方の参考資料に測定法についての記載があります。
 

(1)安息角

「安息角」とは、粉体を積みあげたとき、その山状の粉体が安定を保てる傾斜角をいいます。
粒度、含有水分、粒の形状などが影響し、構成粒子の粒度が大きいほど、また、より角張っているほど安息角は大きくなる傾向があります。

日本薬局方の参考資料では、安息角が、25~30°のものが、「流動性が極めて良好」とされています。
一般的に、流動化剤の添加率が増加すると、安息角が減少し、流動性が改善されますが、添加量がある一定量を超えると、逆に安息角が増加していまい、流動化剤の添加量には最適値があることが知られています。
 

(2)圧縮度およびHausner比測定法

粉体のかさ密度、粒子径や粒子形状、表面積、含水率、付着性などが圧縮度に影響するとされています。
圧縮度及びHausner比は、粉体のかさ体積とタップ後のかさ体積を測定することによって求められます。

日本薬局方の参考資料では、圧縮度が10%以下またはHausner比が1.00~1.11が、「流動性が極めて良好」とされています。
 

(3)オリフィスからの流出速度

穴(オリフィス)の空いた容器に粉体を入れ、粉体がオリフィスを通過するのに要する時間を測る方法です。
粉体の流動性を定量化するのに役立つ方法ですが、オリフィス径、オリフィスの形状、容器の材質、粉体層の径、高さなど変動要因が多くあります。

 

4.主な流動化剤の種類

(1)軽質無水ケイ酸(二酸化ケイ素;シリカゲル)

二酸化ケイ素(SiO2)を98.0%以上含むもので、性状は、白色~帯青白色の軽い微細な粉末で、におい及び味はなく、滑らかな触感があるとされています。
また、水、エタノール(95)又はジエチルエーテルにほとんど溶けないとされています。

流動化剤以外の用途としては、安定(化)剤 、滑沢剤、基剤、吸着剤、結合剤、懸濁(化)剤、光沢化剤、コーティング剤、湿潤剤、湿潤調整剤、着色剤、粘着増強剤、粘稠剤、賦形剤、分散剤、崩壊剤、崩壊補助剤、防湿剤、帯電防止剤などがあります。
最大使用量は、経口投与 2.6 gとなっています。

軽質無水ケイ酸を使用している医薬品としては、アカルボース錠、アリピプラゾール錠、アジスロマイシン細粒、アムロジピンOD錠、イマチニブ錠、エバスチン錠、オロパタジン錠、クラリスロマイシン錠、ボグリボースOD錠などなど多数の医薬品に用いられています。
 

(2)含水二酸化ケイ素

二酸化ケイ素(SiO2)を95.0%以上含むもので、性状は、白色の軽い微細な粉末で、におい及び味はなく、滑らかな触感があり、水又はエタノール(95)にほとんど溶けないとされています。

流動化剤以外の用途としては、安定(化)剤、滑沢剤、基剤、吸着剤、結合剤、コーティング剤、充填剤、賦形剤、帯電防止剤などがあります。
最大使用量は、経口投与3.8 gとなっています。

含水二酸化ケイ素を使用している医薬品としては、アシクロビル顆粒、アトルバスタチン錠、イトラコナゾール錠、オランザピン細粒、セフニジピンカプセルなど多くの製品に使用されています。
 

(3)メタケイ酸アルミン酸マグネシウム

メタケイ酸アルミン酸マグネシウムは、Al2Mg2O11Si3.xH2O の組成式を持つ化合物です。

医薬品添加物の用途としては、流動化剤の他、安定(化)剤、滑沢剤、吸着剤、結合剤、懸濁(化)剤、コーティング剤、湿潤調整剤、賦形剤、崩壊剤、分散剤、防湿剤などがあります。
添加剤としての最大使用量は、経口投与 1.05gとなっています。

メタケイ酸アルミン酸マグネシウムを用いた医薬品としては、アシクロビル顆粒、アジスロマイシン錠、アムロジピンOD錠、クラリスロマイシン錠、シルニジピン錠、シロスタゾールOD錠、テルミサルタン錠、ナフトピジルOD錠などなど多くの製品に使用されています。

なお、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムは、胃酸を中和する制酸成分でもあります。
胃酸を中和するとともに、胃粘膜を保護する効果があるとされています。
一般用医薬品では、胃腸薬に含まれています。
また、薬による胃障害を防ぐことを目的に、かぜ薬や解熱鎮痛薬にも配合されています。
 

(4)タルク

タルクとは、滑石という鉱石を微粉砕し、精製したもので、含水ケイ酸マグネシウム(3MgO・4SiO2・H2O)を主成分とする白色粉末です。
無機鉱物中、最も硬度が低く、耐熱性に優れ、しかも化学的に安定した物質で、板状結晶をしており、すべりのよい肌触りの粉末で古くからベビーパウダーやタルカムパウダーの主成分として用いられています。「蝋石」(ろう石)とも呼ばれています。

性状としては、白色~灰白色の微細な結晶性の粉末で、なめらかな触感があり、皮膚につきやすい性質があり、水又はエタノール(99.5)にほとんど溶けないとされています。

流動化剤以外の用途としては、安定(化)剤、基剤、光沢化剤、コーティング剤、着色剤、糖衣剤、滑沢剤、乳化剤、粘着増強剤、賦形剤、崩壊剤、防湿剤などがあります。
最大使用量は、経口投与 3384mg、一般外用剤 787mg/g、舌下適用 24mgなどとなっています。

なお、タルクには、ウロキナーゼ吸着による肌荒れ防止・抗炎症作用が認められたとの報告もあります。

 

5.流動化剤選択のポイント

流動化剤には種々のケイ素化合物が使用されています。ケイ素化合物の場合、一般的には、粒子径が小さい方が流動性および成形性の改善効果が高いといわれています。
流動化剤として使用する場合、ケイ素化合物の配合率は1%未満にすることが多いのですが、結合剤として使用する場合もあり、その場合は数%配合されるようです。

また、シリカ粒子としては、多孔性シリカ粒子の方が無孔性に比べて流動性改善効果が大きく、少量の添加で高い効果が示されたとの報告があります。
シリカ粒子は、流動性改善の他に、錠剤の硬度増加や混合末の静電気除去のために添加されています。
なお、シリカ粒子の高表面積や細孔構造を利用した吸着担体としての利用も行われているようで、多孔性シリカ粒子を核粒子とすることで、テオフィリンの徐放性製剤の開発を試みた報告があります。
 

6.流動化剤に関する特許・文献を検索してみると?

(※いずれも2020年7月時点での検索結果です)

(1)流動化剤に関する特許検索

j-Platpatを用いて流動化剤の特許を調査してみました。

  • 請求範囲検索: [流動化剤/CL] ⇒ 1421件
  • [流動化剤/CL]*[A61K/FI] ⇒ 237件

この237件の内容をざっとみたところ、錠剤の製法など医薬品製剤特許が多数見られました。

なお、「流動化剤」の用語は、コンクリート業界でも多く用いられており、上記のようにFIなどで絞り込みをする必要があります。
 

《年代別グラフ》

上記237件を年代別グラフにしてみると次のようになりました。

年代別グラフ

2017年が突出しているようにも見えますが、出願年では[2016年:22件、2017年:21件]となり、この2年間の出願がたまたま他の年より多かったようです。
 

《流動化剤別出願数》

医薬品製剤の特許で流動化剤が請求範囲に記載されている特許を調べてみました。

  • 軽質無水ケイ酸
[A61K9/00/FI]*[軽質無水ケイ酸/CL] ⇒ 337件

  • 含水二酸化ケイ素
[A61K9/00/FI]*[含水二酸化ケイ素/CL] ⇒ 146件

  • メタケイ酸アルミン酸マグネシウム
[A61K9/00/FI]*[メタケイ酸アルミン酸マグネシウム/CL] ⇒ 339件

  • タルク
[A61K9/00/FI]*[タルク/CL] ⇒ 1440件

医薬品組成物の特許が多く、組成物成分の一つとして請求範囲に記載されている特許が多くありました。

 

(2)流動化剤に関する文献検索

J-STAGEを用いて文献調査を行ってみました。

  • 全文検索: 流動化剤 ⇒ 634件(※コンクリートに関する文献が多数ヒットします)
  • 全文検索: 流動化剤 * 医薬 ⇒ 36件
  • 全文検索: 流動化剤 * 軽質無水ケイ酸 ⇒ 8件
  • 全文検索: 流動化剤 * 含水二酸化ケイ素 ⇒ 3件
  • 全文検索: 流動化剤 * メタケイ酸アルミン酸マグネシウム ⇒ 3件
  • 全文検索: 流動化剤 * タルク ⇒ 10件

なお、J-STAGEでは、各成分を限定するとあまりヒットしませんでしたので、他のデータベースを調べる必要がありそうです。

各特許文献・非特許文献の具体的な内容について知りたい方は、ぜひ実際にデータベースを検索して確認してみてください。
 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
 

医薬品関連の特許調査なら日本アイアール

 

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