【技術者のための法律講座】エンジニアが知っておくべき著作権の基礎知識・厳選解説
今回は「技術者と著作権」というテーマです。
この連載は、日ごろ法律問題とは直接的に関わることが少ない技術者・研究者の方々向けに「技術者の立場で」知っておきたい法律の基本的事項をご紹介するもので、難しい法律問題には極力言及しません。
著作権についても、技術者の皆さまが関わる可能性が高い問題に絞ってご紹介します。
目次
著作権ってどのような権利?
著作権とは、どのような権利でしょうか?例によって、辞書的な解説を見てみましょう。
「知的財産権のひとつ。コピーライトとも呼ばれる。著作物を他人に使用させる許可を与えたり、著作物を財産として所有したりすることのできる権利。ここでいう著作物には、音楽や文章などの他に、ソフトウェアも含まれる。著作権は、特に登録をしなくても、著作物を作成すると発生するが、正式な著作者であると証明したい場合は、文化庁で登録できる。」
(ASCII.jpデジタル用語辞典 より)
上記の説明で、「著作権」の概略は理解できます。もう少し踏み込んでみましょう。
「1)財産権としての狭義の著作権2)著作者人格権と狭義の著作権を包括する権利(著作者の権利)、それぞれについて著作権といわれる。」「狭義の「著作権」は、その全部または一部を譲渡したり相続したりすることができる財産権である。」「「著作者人格権」は、著作者の一身に専属し、譲渡することができないもので、公表権、氏名表示権、同一性保持権からなる。」「著作権法は、著作物を公衆に伝達する者(実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者)の権利を「著作隣接権」として保障している。」
(朝日新聞出版発行「知恵蔵」より)
「著作物の利用者は著作権者から使用の許諾を得ることを要し,無断で使用した場合は著作権の侵害となる。ただし,法律・命令,公文書や定期刊行物に掲載の雑報・時事報道,公開の裁判所・議会・集会での演述は著作権の対象とはならない。」
(株式会社平凡社百科事典マイペディア より)
「(1)著作物の自由利用 著作物を利用しようとする者は著作権者から使用の許諾を受けるのを原則とするが、一定の場合には著作権者に無断で利用することが法によって認められている。これには、私的使用のための複製、図書館における複製、引用、教科書への掲載、試験問題としての複製、視覚障害者のための複製、営利を目的としない上演、放送のための一時的な録音・録画、美術著作物の所有者による展示、時事問題に関する論説の転載、政治上の演説などの利用、時事の事件の報道のための利用などがあり、その多くの場合に利用者に対して出所明示の義務が課せられている。」
(小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)より)
以上の解説中に、著作権に関して最低限知っておきたい知識が含まれています。
これを簡単にまとめると、概ね以下の通りです。
- 著作権とは、著作物を他人に使用させる許可を与えたり、財産権として所有したりすることのできる権利である。
- 著作物には、音楽や文章などの他に、ソフトウェアも含まれる。
- 大別して財産権としての著作権、著作者人格権、著作隣接権が存在する。
- 著作物を利用する際には、原則として著作権者から使用の許諾を得る必要がある。
- 私的使用のための複製、図書館における複製、引用、教科書への掲載、営利を目的としない上演、放送のための一時的な録音・録画等、一定の場合には著作権者に無断で利用することが法によって認められている。
- 法律・命令,公文書や定期刊行物に掲載の雑報・時事報道,公開の裁判所・議会・集会での演述など、著作権の対象とならないものがある。
これだけは知っておきたい「著作権法」の最重要ポイント
著作者や著作権を保護する法律が「著作権法」であることは皆さんご存知のことと思います。
ここではなるべく法律の詳細には触れませんが、著作権法の「目的」は、文言も簡単なので条文を引用しておきます。
(目的)
第一条 この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。
著作権法は文化庁(文部科学省の外局の一つ)が所掌していますので、先ず文化庁のホームページ(HP)で著作権法の基本的な事項を確認してみましょう。
「著作物について」
著作権法で保護の対象となる著作物であるためには,以下の事項をすべて満たすものである必要があります。
(1)「思想又は感情」を表現したものであること
→ 単なるデータが除かれます。
(2)思想又は感情を「表現したもの」であること
→ アイデア等が除かれます。
(3)思想又は感情を「創作的」に表現したものであること
→ 他人の作品の単なる模倣が除かれます。
(4)「文芸,学術,美術又は音楽の範囲」に属するものであること
→ 工業製品等が除かれます。
具体的には、小説・音楽・美術・映画・コンピュータプログラム等が、著作権法上、著作物の例示として挙げられています。
その他、編集物で素材の選択又は配列によって創作性を有するものは「編集著作物」として保護されます。新聞・雑誌・百科事典等がこれに該当します。
「著作者について」
著作者とは,著作物を創作した人のことです。
一般には小説家や画家、作曲家などの創作活動を職業とする人だけが著作者になると考えられがちですが、創作活動を職業としなくても、小説を書いたり絵を描いたりすれば、その創作者が著作者になります。すなわち、幼稚園児であっても絵を描けばその絵の著作者となり、作文を書けばその作文の著作者になります。
≪法人著作について≫
以下の要件をすべて満たした場合に限り,創作活動を行った個人ではなく、その人が属している会社等が著作者となります。企業等に所属されている皆さまにとっては重要な規定です。
(1)その著作物を作る企画を立てるのが法人その他の使用者であること。
(2)法人等の業務に従事する者の創作であること。
→部外者に委嘱して作成された場合など,会社との間に支配・従属関係にない場合は除かれます。
(3)職務上作成されること
→具体的に作成することを命じられた場合に限られます。大学教授の講義案のように、その職務に関連して作成された場合は除かれます。
(4)公表するときに法人等の名義で公表されること
→なお、コンピュータプログラムの場合には,公表せずに利用するものが多いため、この要件を満たす必要はありません。
(5)契約や就業規則で職員を著作者とする定めがないこと。
「著作者の権利の発生及び保護期間について」
著作権、著作者人格権、著作隣接権は、著作物を創作した時点で発生します。
特許等と異なり、権利を得るための手続は必要ありません
(「著作権の登録制度について」参照)。
著作権の保護期間は、原則として著作者の生存年間及びその死後70年間です。
(保護期間には例外がありますが、ここでは省略します)
技術者・研究開発者にとって身近な「論文」と著作権
著作権法は、ビジネスからプライベートまで日々の業務や生活に関わる法律ですが、その内容は複雑ですので、一例として技術者・研究者が関わる可能性のある「論文」について取り上げてみます。
かつて文化庁のHPに「著作権なるほど質問箱」というコーナーがあり、そこに掲載されていた説明を、ここで見てみましょう。※(1)
Q 学術論文の「学説」は著作権で保護されますか。
A 著作権では保護されません。
著作権は表現の保護であり、アイデイアは保護しません。一般に学説は、このアイデイアに相当するものと考えられていますので、著作権法の保護はありません。なお、学術論文自体は著作物であり、例えば論文の無断コピーが一般に著作権侵害になるのは言うまでもありません。Q 学会で発表し、学会誌に掲載された論文の著作権は誰のものですか。
A 一般的には論文の著作者が有していると考えられます。なお、自然科学系の学会の場合、学会誌に掲載された論文の著作権を学会に帰属させることを投稿規程や学会規約等で明記しているケースがあります。したがってこのような措置をとっている学会の場合は、著作権は学会に譲渡されていると考えられます。
※(1)
文化庁HPに掲載されていた内容は、現在は下記URLに記載されているようです。
https://copyright-qa.azurewebsites.net/
なお、技術系の学会誌へ投稿した場合の著作権について先のQ&Aでは「自然科学系の学会の場合、学会誌に掲載された論文の著作権を学会に帰属させることを投稿規程や学会規約等で明記しているケースがあります。」と記載されていますが、実態はどうでしょうか?
例えば、「日本化学会」の場合、「投稿規定」に「本誌に掲載された論文の著作権は日本化学会に帰属する。著者(共著者を含む)は、その論文を第三者に無償または実費で配布する目的で、許諾申請を行わずに利用(著者自身による編集著作物への転載、WWWによる公衆送信、複写して配布すること等を含む) することができる。ただし、出典は記載しなければならない。」と記載されています。
また、「日本物理学会」の場合、「会誌に掲載された寄稿・投稿等(以下寄稿等という)の著作権は日本物理学会に帰属する。著作者は、当学会および当学会が会誌の利用を許諾した第三者に対し、本著作者人格権を行使しない。著作者は、寄稿等が、①第三者の権利を侵害していないこと、②二重投稿ではないこと、および③共同著作物である場合には、会誌への投稿を行うにあたり、当該共同著作物の他の著作者全員の同意を取得していることを保証する。」と記載されています。
著作権等管理事業者を通じた利用許諾
さて、技術者が第三者の著作物を利用する場合について考えてみましょう。
他者の著作物を利用する場合、基本的には著作権者の許諾が必要になるわけですが、著作権者を捜し出し了解を得ることは相当の労力を必要とします。
しかし、多くの場合、簡単に利用の了解を得られる仕組みができています。
利用しようとする著作物の分野等に著作権等を集中して管理している団体(著作権等管理事業者)があり、その団体を窓口として、簡単に利用の了解が得られるのです。
※参考:著作権等管理事業者登録状況一覧(平成31年3月1日現在)(全28事業者)
技術者・研究者に特に関係すると思われる団体としては「一般社団法人 学術著作権協会(JAC)」、「出版者著作権管理機構(JCOPY)」、「公益社団法人 日本複製権センター(JRRC)」などが知られています。
このうち、学術著作権協会は「国内は主に学術団体、海外は双務協定を締結する国々の知的財産である著作権の集中管理」を行っています。
同協会のHPによると「国内管理著作物に関しては、JAC会員学会の傘下にある学術団体の学会誌をはじめ、定期刊行物や書籍のほか、研究大会論文、便覧、ハンドブック、技術報告書、年報、大学・研究機関が発行している紀要、報告書等を含む4,700タイトル以上の複製権等を管理しています。」、「JACは、複製物を提供する「文献提供機関(ドキュメントサプライヤ)」と提携」しているとのことです。
https://www.jaacc.org/for-users/#for-users1
多くの技術系の会社(特に製薬会社)は、同協会と利用許諾契約を締結しているようです。
日本複製権センターは「著作物(美術作品、写真、書籍、雑誌、学術著作物、新聞など)を紙に複写(コピー)することに関し、著作権者が持っている複写権(複製権:著作権法第21条)の管理の委託を受け、権利者に代わって、委託を受けた範囲でコピーすることを利用者に許諾するところです。
これは「著作権の集中管理業務」と言われ、著作物のコピーを希望する方と日本複製権センター(JRRC)が「著作物複写利用許諾契約」を締結し、その契約書の内容に従って利用者の方から複写使用料の支払を受け、これを権利者に分配するというものです。」と説明されています。
なお、JRRCは海外著作物の取扱いは行っていないので、日本国内で海外著作物を複写利用する場合には、「一般社団法人学術著作権協会(学著協)」、「一般社団法人出版者著作権管理機構(JCOPY)」にて許諾申請を行います。
論文等の引用について
技術者の皆さんが、論文等を執筆される場合、他者の論文等を「引用」する機会が多いと思います。そこで、「引用」について簡単にまとめておきます。
著作権法には以下のように規定されています。
(引用)
第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
2 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。
また、上述のJCOPYのQ&Aでは以下の通り説明されています。
「引用とは、他者の著作物を自らの著作物に用いる利用のうち、下記の条件を全て満たすものをいいます。
- 引用元が公表された著作物であること
- 引用の必然性があること(自己の論旨の補強または反論のために引用すること)
- 自説の部分が〝主〟で、引用する部分が〝従〟であること(必要最小限であること)
- 自己の文章と引用する文章を明瞭に区別すること
- 原形を保持していること
- 著作者の名誉声望を害さないこと
- 出典を明示すること 」
なお、引用の場合は許諾の必要はありませんが、引用の条件を満たさない場合は、転載として許諾が必要ですので注意が必要です。
本に載っていたイラストをそのまま自社のホームページ等に載せる場合は、転載にあたります。
著作権者を表すⒸマークは必要?
よく見かけるⒸマークのCは、Copyright(著作権)の頭文字で、このマークと、著作者権者の氏名や法人名と、著作物が最初に発行された年を並べて表記します。
かつてアメリカでは、著作権が保護されるためには著作物にⒸマーク(万国著作権条約において著作権を保護するために表記することになっているマーク)を付す必要がありましたが、現在ではアメリカを含む多くの国(日本は元々不要)で、このマークを付さなくても著作権は保護されます。従って、表記することに法的な意味は殆どありません。
しかし、このマークは世界中で使用されてきましたので、このマークを付した作品は著作物であり、著作者が誰であるかをしますためには有効で、これによって著作権侵害を防ぐという効果もあるようです。
ちなみに「Copyright」や「ALL Rights Reserved」などとの表記でも良いようです。
(日本アイアール株式会社 A・A)
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