- 機械製図「ドラトレ」シリーズ
《初心者向け》やさしい図面の書き方 最新JIS製図と図解力完成(セミナー)
2025/10/16(木) 10:00~17:00
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「防水設計」に関する当連載では、2回にわたって「NEMA規格入門」「MIL規格入門」をご紹介してきました。
製品開発において、NEMA規格とMIL規格のどちらを、あるいは両方を参照すべきでしょうか?
その判断は、製品の特性、ターゲット市場、そしてコストを考慮した戦略的な決定となります。
本記事では、適切な防水規格の選び方を解説します。
最適な規格を選定するための第一歩は、製品に対する要求仕様を徹底的に明確にすることです。
以下の点を自問する必要があります。
上記の要求仕様に基づき、以下のような選択シナリオが考えられます。
グローバル市場で競争力を持つハイエンドな製品、特に過酷な環境での使用を想定したプロフェッショナル向けの製品では、複数の規格を併記することが一般的です。
例えば、ある屋外用センサーの仕様書に「IP68, NEMA 6P, MIL-STD-810H準拠(浸漬、塩水噴霧、振動、衝撃)」と記載されている場合、これは以下のような強力なメッセージを伝えます。
このように複数の規格を戦略的に組み合わせることで、製品の信頼性を多角的にアピールし、幅広い顧客層と市場に対してその優位性を示すことが可能になります。
「NEMA規格入門」「MIL規格入門」と、今回の全3回にわたり、防水・耐環境性能を評価する二つの重要な規格、NEMA等級とMIL規格について詳細に解説しました。両者の要点を改めて整理します。
NEMA規格は、主に北米の産業用電気機器を対象としたエンクロージャの「保護等級」です。防水・防塵性能を基本としつつ、耐腐食性、耐油性、氷結といった産業現場の実情に即した多様な環境要因に対する保護レベルを明確に分類・定義しています。その評価方法は標準化されており、製造者と使用者の間で誤解のない仕様の共有を可能にします。
MIL規格(特にMIL-STD-810)は、米国国防総省が定める、極限環境下での「信頼性実証」のための規格です。最大の特徴は「テーラリング」の概念であり、製品が実際に使用される環境を想定して試験内容を個別に設計します。防水・防塵だけでなく、衝撃、振動、高低温度、高度など、機器の生存性を脅かすあらゆるストレスに対する総合的な耐性を検証することを目的としています。
この二つの規格は、優劣で語るべきものではなく、その目的と哲学が根本的に異なります。
NEMAが「どのような保護がされているか」を示すカタログスペックだとすれば、MIL規格は「どのような過酷なシナリオを生き延びられるか」を物語るストーリーと言えるでしょう。
製品開発においては、ターゲット市場、想定される使用環境、コスト、そしてマーケティング戦略を総合的に勘案し、これらの規格を適切に理解し、選択・活用することが、製品の価値を最大化し、顧客からの信頼を獲得するための鍵となります。規格の数字や文字の裏にある思想を深く読み解くことで、真にユーザーの期待に応える、堅牢で信頼性の高い製品づくりが実現するのです。
鈴木崇司 講師
神上コーポレーション株式会社 代表取締役
開発QCDの最適化を追求する「匠のコンサルタント」として豊富な実績。
設計の上流工程のみならず、製造フェーズまで含めた技術支援が可能。
(※神上コーポレーションのWEBサイトはこちら)