【NEMA規格入門】主なNEMA等級の概要と試験法、IP等級の違いをやさしく解説
現代の電子機器や産業機械において、水や塵、その他の異物から内部の精密部品を保護する能力、すなわち防水・防塵性能は、製品の信頼性、安全性、そして寿命を左右する極めて重要な要素です。特に屋外や工場、厨房といった過酷な環境で使用される製品にとって、適切な保護性能は必須の要件となります。
この保護性能を客観的に評価し、製品の仕様として示すために、世界には様々な規格が存在します。その中でも、特に産業分野や過酷な環境下での性能指標として広く認知されているのがNEMA規格とMIL規格です。
この2つの規格は、しばしば防水性能の文脈で語られますが、その思想、評価基準、適用範囲は大きく異なります。製品開発者や設計者が最適な保護性能を持つ製品を設計・選定するためには、これらの規格を深く、そして正確に理解することが不可欠です。
本記事では、防水・防塵規格の中でも、特に北米市場においてデファクトスタンダード(事実上の標準)となっている「NEMA規格」にフォーカスし、その等級体系や試験方法について解説します。
目次
1.NEMA規格とは何か?
NEMA(National Electrical Manufacturers Association:米国電機製造業者協会)は、1926年に設立された米国の電気機器製造業者による業界団体です。NEMAの活動は多岐にわたりますが、その最もよく知られた功績の一つが、電気機器用エンクロージャの性能基準を定めたNEMA規格の策定です。NEMA規格は、産業用電気機器の「家」であるエンクロージャが、内部の繊細なコンポーネントをいかにして守るかを定めた、非常に実践的な基準です。その評価は、単なる防水・防塵にとどまらない、包括的な環境耐性を示します。
この規格の主な目的は、特定の環境条件下でエンクロージャが提供すべき保護の度合いを標準化し、製造者と使用者の間で明確な意思疎通を可能にすることです。特に北米市場においては、産業用制御盤、分電盤、各種スイッチなどの選定において、NEMA等級はデファクトスタンダードとして機能しています。
2.NEMAエンクロージャ等級の概要
NEMA規格の中核をなすのが、NEMA 250 “Enclosures for Electrical Equipment (1000 Volts Maximum)” という文書で定義されるエンクロージャ等級です。この等級システムは、エンクロージャが保護すべき対象を「人体への接触」と「環境要因」の二つの側面から規定しています。
- 人体への接触に対する保護: 内部の充電部への偶発的な接触を防ぎ、作業者の安全を確保します。
- 環境要因に対する保護: 落下する塵埃、風で飛来する塵、雨、雪、氷、水の飛沫、ホースによる直接噴流、腐食性物質、そして一時的または長時間の水没といった、様々な外部からの有害な影響から内部機器を保護します。
IP等級が主に固形異物と水の浸入に対する保護レベルを示すのに対し、NEMA等級はこれらに加えて、耐腐食性、ガスケットの耐老化性、耐油性、氷結環境下での外部機構の操作性といった、より産業現場に即した多様な性能要件を含んでいる点が最大の特徴です。
3.主要なNEMA等級の定義と用途
NEMA等級は、その想定される設置場所(屋内/屋外)と保護レベルによって細かく分類されています。
ここでは、主要な等級についてその定義と用途を詳述します。
(1)屋内用(非危険場所)の等級
- NEMA 1:
主に、内部の電気機器への偶発的な接触から人員を保護することを目的とします。固形異物に対する保護としては、限定的です(落下する汚れ程度)。防水性能は基本的にありません。
[用途: クリーンで乾燥した屋内環境。一般的なスイッチボックス、ジャンクションボックスなど] - NEMA 2:
NEMA 1の保護に加え、限定的な量の滴下する水や結露からの保護を提供します。
[用途: 軽度の結露や水滴が発生する可能性のある屋内。ユーティリティルームや倉庫など] - NEMA 12/12K:
循環する塵や埃、糸くず、繊維などの固形異物の侵入を防ぎます。また、滴下する非腐食性の液体や、油やクーラント(冷却水)の飛沫からの保護も提供します。NEMA 12Kは、ノックアウト(配線用の穴)付きのエンクロージャを指します。
[用途: 工作機械が稼働する工場など、油や切削粉が飛散する屋内環境。産業用制御盤で多用されます] - NEMA 13:
NEMA 12の保護内容に加え、噴霧される、あるいは飛散する油や非腐食性クーラントからの保護をより高いレベルで提供します。
[用途: 油圧機器やクーラントを多用する機械の周辺など、NEMA 12よりも厳しい油環境]
(2)屋内・屋外用(非危険場所)の等級
これらの等級は、屋外の厳しい環境に耐える設計がなされています。
- NEMA 3:
屋外での使用を想定し、風で飛来する塵、雨、みぞれ、雪からの保護を提供します。また、エンクロージャに外部から氷が形成されても損傷しないことが要求されます。
[用途: 屋外に設置される一般的な電気ボックス、通信機器の筐体など] - NEMA 3R:
NEMA 3と同様に雨、みぞれ、雪からの保護を提供しますが、防塵性能は要求されません。筐体には換気口が設けられていることが多く、内部機器の放熱を助けます。氷が外部に形成されても損傷しない点はNEMA 3と同じです。
[用途: 屋外のメーターボックス、分電盤、トランスなど、防塵性よりも換気と雨水の浸入防止が重視される場合] - NEMA 3S:
NEMA 3の保護内容に加え、エンクロージャの外部に氷が張った状態でも、外部の操作機構(ハンドルやボタンなど)が操作可能であることを要求します。
[用途: 寒冷地で、氷結時にも手動操作が必要となるスイッチや遮断器の筐体] - NEMA 4:
NEMA 3の保護内容に加え、あらゆる方向からのホースによる直接噴流(散水)に対する保護を提供します。これは、工場の清掃などで高圧洗浄機が使用される状況を想定しています。
[用途: 食品加工工場、醸造所、酪農施設など、頻繁に水洗いが必要な場所。屋外の暴露された場所] - NEMA 4X:
NEMA 4が提供する全ての保護機能に加えて、耐腐食性を提供します。筐体の材質として、ステンレス鋼(304, 316Lなど)や特殊なポリマーが使用されます。
[用途: 沿岸部の塩害環境、化学プラント、廃水処理場など、腐食性のガスや液体に晒される極めて過酷な環境] - NEMA 6:
NEMA 4の保護内容に加え、限定された深さ(通常1.8m)での一時的な水没に対する保護を提供します。
[用途: 洪水や一時的な浸水の可能性がある地下ピットやマンホール内] - NEMA 6P:
NEMA 6の保護内容をさらに強化し、長期間にわたる水没に対する保護を提供します。”P”はProlonged(長期間)を意味します。NEMA 4Xと同様に耐腐食性も要求されます。
[用途: 日常的に水没する可能性がある、あるいは長期間水中に設置される可能性のある場所]
(3)危険場所用の等級
NEMA 7, 8, 9, 10は、可燃性ガスや粉塵が存在する「危険場所」での爆発を防ぐための防爆構造を定めており、本稿の主題である防水・防塵とは異なる特殊な要件(内部の爆発に耐え、外部への引火を防ぐなど)が中心となるため、ここでは詳述を割愛します。
4.NEMA規格の試験方法
NEMA等級の認証は、自己認証が基本ですが、その試験方法はNEMA 250に具体的に定められています。
第三者機関(UL, CSAなど)による認証も広く行われています。
(1)散水試験(Hosedown Test)
NEMA 4および4Xの評価で実施されます。特定のノズル(口径1インチ)から、規定の流量(毎分65ガロン、約246L/分)の水を、規定の距離(10-12フィート)からエンクロージャの全ての継ぎ目や開口部に向けて5分間以上噴射します。試験後に内部への水の浸入がないことを確認します。
(2)屋外腐食保護試験(Corrosion Protection Test)
NEMA 3, 4X, 6Pなどで要求されます。塩水噴霧試験(ASTM B117に準拠し、600時間)や、湿潤二酸化硫黄-二酸化炭素雰囲気試験などを実施し、塗膜の剥がれや錆の発生度合いを評価します。
(3)氷結試験(External Icing Test)
NEMA 3, 3R, 3Sなどで要求されます。エンクロージャの天面と側面に水を噴霧しながら冷却し、規定の厚さの氷を形成させます。その後、氷による損傷がないこと、NEMA 3Sの場合は外部操作機構が機能することを確認します。
(4)浸漬試験(Submersion Test)
NEMA 6では、水深6フィート(約1.8m)の水槽に30分間沈めます。NEMA 6Pでは、UL規格に基づき、水深6フィートで24時間という、より厳しい試験が行われます。試験後、内部への浸水がないことを確認します。
(5)ガスケット試験(Gasket Test)
高温(130℃)の空気循環オーブンで168時間(7日間)の老化促進試験を行い、ガスケットの引張強さや伸びの変化が規定値内であることを確認します。これにより、長期間にわたるシール性能の維持を評価します。
[※関連記事:ガスケットの基礎を徹底解説!主な種類と用途、パッキンとの違い、ガスケット係数など ]
5.NEMA等級とIP等級の比較
国際的に広く用いられるIP等級(IPコード)とNEMA等級は、しばしば比較対照されます。
[※関連記事:電子機器の防水規格(IPX)を基礎から解説!IPコードの表記、防水等級、試験方法等がわかる]
両者の間にはおおよその対応関係がありますが、決して一対一で完全な互換性があるわけではない点に最大限の注意が必要です。
両規格の相違点のうち、特に重要な事項は下記3点が揚げられます。
- 評価項目の範囲:
IP等級が「固形物」と「水」の侵入に対する保護のみを定義するのに対し、NEMA等級は前述の通り、耐腐食性、耐油性、氷結、ガスケットの性能など、より広範な環境耐性を評価します。 - 試験内容の具体性:
NEMAの試験(特に散水試験)は、IP等級の試験よりも具体的かつ厳しい条件(水量、水圧など)が設定されている場合があります。例えば、NEMA 4のホース噴流試験は、IPX5(あらゆる方向からの噴流水)やIPX6(あらゆる方向からの暴噴流)のいずれか、あるいはそれ以上と解釈されることがあります。 - 換算の非対称性:
NEMA等級からIP等級へのおおよその換算は可能ですが、その逆は不可能です。 例えば、IP66に準拠しているからといって、NEMA 4Xの要件である耐腐食性を満たしているとは限りません。
北米市場向けの製品や、特定の産業用途でNEMA等級が要求される場合は、IP等級の評価だけでは不十分であり、NEMA規格に基づいた設計と評価が必須となります。
次回の連載では、「MIL規格」について解説します。

鈴木崇司 講師
神上コーポレーション株式会社 代表取締役
開発QCDの最適化を追求する「匠のコンサルタント」として豊富な実績。
設計の上流工程のみならず、製造フェーズまで含めた技術支援が可能。
(※神上コーポレーションのWEBサイトはこちら)