3分でわかる技術の超キホン 医薬品に関する環状ペプチド・10選
前回のコラムでは環状ペプチドの概要についてご紹介しましした。
今回は医薬品に関連する環状ペプチドの中から、10種類をご紹介いたします。
目次
- 1. シクロスポリン(Ciclosporin ・サンディミュン、ネオーラル)
- 2. ポリミキシンB硫酸塩(Polymixin B Sulfate)
- 3. カスポファンギン(Caspofungin Acetate ・カンサイダス)
- 4. ダプトマイシン (Daptomycin ・キュビシン)
- 5. エルカトニン (Elcatonin)
- 6. バシトラシン(Bacitracin ・バラマイシン)
- 7. パシレオチド(Pasireotide・シグニフォー)
- 8. オクトレオチド(Octreotide・サンドスタチン)
- 9. アクチノマイシンD (Actinomycin D・コスメゲン)
- 10. オキシトシン(Oxytocin)
1. シクロスポリン(Ciclosporin ・サンディミュン、ネオーラル)
シクロスホリンは、肝・腎・骨髄移植時の拒絶反応抑制や再生不良性貧血、ネフローゼ症候群、アトピー性皮膚炎などに使用されています。
11のアミノおよびD-アミノ酸、N-メチル化アミノ酸を含む、真菌Tolypocladium inflatumが産生する環状ポリペプチドで、免疫に関わる血液中のT細胞の働きを阻害することで強力な免疫抑制作用を示し、自己免疫疾患の症状を抑えます。
カルシニューリンの脱リン酸化酵素活性阻害を介してT細胞の抗原特異的活性化を抑制する薬品であり、タクロリムスと同じカルシニューリン阻害薬に属する薬です。
天然にもっとも多く存在するシクロスポリンAが臨床的に用いられています。
体内薬物動態としては主に上部消化管で吸収され、主として肝で代謝されます。
2. ポリミキシンB硫酸塩(Polymixin B Sulfate)
ポリミキシンBは、緑膿菌、大腸菌、肺炎桿菌、エンテロバクター等のグラム陰性桿菌に対し、優れた抗菌作用を示す抗生物質です。
その作用機序としては、主として細菌細胞質膜の透過性に変化をきたすことにより、殺菌的に作用するものとされています。
ポリミキシンは、Bacillus polymyxa またはその近縁菌が産生する抗生物質で、A、B、C、D、E などが確認されており、いずれも左旋性α、γ-ジアミノ酪酸、トレオニン及び脂肪酸を含む塩基性ポリペプチドです。
ポリミキシンB硫酸塩は経口投与しても、ほとんど消化管から吸収されないことから、腸管内細菌を選択的に抑制する目的で経口投与が行われます。
コリスチン(ポリミキシン E)も同様な構造、活性を有しています。
ポリミキシンB1 :R = メチル、ポリミキシンB2 :R = H
ポリミキシンB1 :R = 6-メチルオクタン酸、Dbu = L-α、γ-ジアミノ酪酸
ポリミキシンB2 :R = 6-メチルヘプタン酸、Dbu = L-α、γ-ジアミノ酪酸
3. カスポファンギン(Caspofungin Acetate ・カンサイダス)
カスポファンギンは、キャンディン系抗真菌薬で、真菌グラレア・ロゾエンシス(Glarealozoyensis)由来のリポペプチド発酵産物ニューモカンジンB0(pneumocandin B0)の半合成誘導体です。
キャンディン系抗真菌薬は、ヒトの細胞では産生されない真菌細胞壁の構成成分である1、3-β-D-グルカンの合成を阻害することにより抗真菌活性を示します。
主に深在性真菌症(カンジダ、アスペルギルス等)を治療する薬で、他にミカファンギンが挙げられます。
4. ダプトマイシン (Daptomycin ・キュビシン)
ダプトマイシンは、新規の天然物質として見出された環状リポペプチドであり、Streptomyces roseosporus株の発酵産物に由来する新規クラスの抗生物質として開発されたものです。
グラム陽性菌に対し抗菌活性を示し、増殖期及び静止期にある他抗菌薬感受性株及び耐性株にも活性が認められています。
抗MRSA薬としての適応があります。ダプトマイシンも、D-アミノ酸や側鎖が特殊な非タンパク質性アミノ酸を含んだ構造をしています。
5. エルカトニン (Elcatonin)
エルカトニンは、ウナギの鰓後腺内に存在するペプチドホルモンであるカルシトニンの誘導体です。
骨粗鬆症の疼痛や高カルシウム血症、骨ページェット病に使用されています。
作用機序としては、鎮痛作用メカニズムの一つとして、 疼痛抑制系のセロトニン神経系を介して作用を発現するものと考えられており、骨吸収抑制作用により各種の実験的高カルシウム血症に対し、血清カルシウム低下作用を示すとされています。
6. バシトラシン(Bacitracin ・バラマイシン)
バシトラシンは、枯草菌Bacillus licheniformisにより産生され、バシトラシンAを主要構成成分とするポリペプチドの混合物です。
バシトラシンは、7個のアミノ酸を有する環状ペプチドであって、細胞壁合成を阻害するポリペプチド系抗菌薬であり、グラム陽性細菌に対して活性を示すとされています。
具体的には、適応菌種は、ブドウ球菌属、レンサ球菌属で、感染性口内炎などを適応症にしています。
7. パシレオチド(Pasireotide・シグニフォー)
パシレオチドは、7 個のアミノ酸からなるシクロヘキサペプチド構造をとるソマトスタチンアナログで、ソマトスタチン受容体(SSTR)に結合し成長ホルモン(GH)及び副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌抑制等の薬理活性を発揮します。先端巨大症・下垂体性巨人症等に効果を示します。
8. オクトレオチド(Octreotide・サンドスタチン)
生体内で安定性の高いソマトスタチン類似体として開発され、消化管ホルモン産生腫瘍や先端巨大症・下垂体性巨人症における成長ホルモン、ソマトメジン-C分泌過剰状態および諸症状の改善等に使用されています。
オクトレオチドは下垂体腺腫や消化管ホルモン産生腫瘍の細胞上に存在するSSTRに結合し、VIP、ガストリン等の消化管ホルモンやGHの分泌を抑制すると推察されています。
- ソマトスタチン
ソマトスタチンは14個のアミノ酸からなる環状ペプチドで、膵・脳・消化管など全身に分布し、神経伝達物質としてホルモン分泌抑制や細胞増殖抑制などの作用を有しています。
ソマトスタチンは、ガストリン、セクレチン、インスリン、グルカゴンの分泌を抑制します。
しかし、ソマトスタチン自体は血液中の生物学的半減期が2~3分と短時間で分解されるという欠点があり、薬剤としての利用は困難となっています。
9. アクチノマイシンD (Actinomycin D・コスメゲン)
アクチノマイシンD は、ストレプトマイセス属(Streptomyces parvullus)によって産生されるアクチノマイシン混合物中の主成分であり、抗腫瘍性抗生物質に分類されます。
適応となる癌としては、ウイルムス腫瘍や小児固形腫瘍などが対象となっています。
作用機序としては、アクチノマイシンDがDNA のGuanineと結合して、複合体をつくり、そのためDNA 依存性のRNA polymerase によるDNA の転写反応が阻害され、RNA 生成が抑制されることにあると考えられており、その結果がん細胞の増殖を抑えるとされています。
分子内に環状ペプチドが2つあるのも特徴的です。
10. オキシトシン(Oxytocin)
オキシトシンは、9個のアミノ酸から成り、シスチン結合で環を作った環状ペプチドで、子宮収縮薬や陣痛促進剤等として用いられています。
オキシトシンは、視床下部の室傍核と視索上核の神経分泌細胞で合成され、下垂体後葉から分泌されるホルモンであり、1950年前半には分離・精製・合成がされている歴史ある物質です。
下垂体後葉ホルモンである「バソプレッシン」と構造が類似しています。
オキシトシンは良好な対人関係が築かれているときに分泌されます。
信頼感を司るホルモンともいわれ、これを吸い込んだ人は投資話に乗りやすくなるなどの実験結果が報告されています。
また、テレビ番組でも「幸せホルモン」として取り上げられたことがあります。
ちなみに、「バソプレッシン」は、抗利尿作用を持つペプチドホルモンです。
下垂体後葉から分泌され、腎臓での水の再吸収を増加させることによって、利尿を妨げる働きをします。
下記の化学構造をしています。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
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