【医薬品製剤入門】チュアブル錠の基礎知識
チュアブル錠は噛み砕いて飲む錠剤で、「咀嚼錠」ともいわれます。
OD錠が唾液で自然に溶けるのに対して、チュアブル錠は噛み砕いて服用する錠剤です。
今回は、チュアブル錠についてまとめてみました。
目次
1.チュアブル錠とは
日本薬局方では、次のように記載されています。
チュアブル錠
「(1) チュアブル錠は,咀嚼して服用する錠剤である.
(2) 本剤は,服用時の窒息を防止できる形状とする.」
錠剤を口のなかで噛み砕いて、唾液とともに飲む薬です。水なしで飲むことが可能です。
噛み砕いて飲むことができることから、錠剤のサイズが大きくなってしまう薬や嚥下が苦手な小児・高齢者用の薬に用いられているようです。また、水なしで服用できることから、水分摂取制限がある腎臓病などの患者に用いられることもあるようです。
2.他の口腔内用の錠剤との相違点
他の口腔内用の錠剤として、トロ―チ剤、バッカル錠、舌下錠などがあります。
これらの錠剤とチュアブル錠との相違点は次の通りです。
- トローチ剤: 口中で薬が徐々に溶解するように硬く加工された大きな錠剤で、口腔内または咽頭などで炎症を鎮めたり殺菌をしたりします。
- バッカル錠: 奥歯と頬の間に入れて、唾液でゆっくりと錠剤を溶解させ、時間をかけて口の中の粘膜から直接吸収させるようにした錠剤です。
- 舌下錠: 舌の下に含んで、溶け出す成分を口の中の粘膜から直接吸収させるようにした錠剤で、作用発現時間が非常に早いという特徴があります。
3.チュアブル錠の特徴(メリット・デメリット)
チュアブル錠は、下記のようなメリットがある製剤です。
- 細かく噛み砕くことにより、嚥下しやすくなる
- 水なしで服用できる 等々
ただし、下記のようなデメリットもあります。
- 噛み砕くことを前提としているため、そのまま飲み込むと、吸収が遅れたり、効果が十分に発揮されなかったりする
- 幼児、高齢者では噛み砕くことが困難な場合もある 等々
4.チュアブル錠の製造方法
日本薬局方にはチュアブル錠の製法に関する記載はありませんが、チュアブル錠は通常の錠剤の製造法に準じて製造することができるとされています。
例えば、主成分、添加物を混合、常法に従って造粒、乾燥、粉砕し、得られた粉末(顆粒)に矯味剤や滑沢剤等を加えて混合、打錠することにより、チユアブル錠を製造することができます。
5.チュアブル錠の製剤特性
チュアブル錠は噛み砕くことを前提としていることから、そのまま飲み込むことを前提とした錠剤と比べて、下記のような点で異なります。
① 錠剤硬度
チュアブル錠は噛み砕きやすい硬さが要求され、錠剤の硬度は5~15kg/cm2が良いとされています。
高齢者や幼児でも咀嚼きるような硬さが求められますが、一方で、製造や輸送の際に破損しない程度の機械的強度も必要となります。
② 大きさや重量
錠剤の大きさや重さはあまり制約がないことが特徴といえます。
大きさは10~20mm、重さは0.6~2g程度が好ましいとされています。
6.チュアブル錠の主な添加物
チュアブル錠に用いられる添加剤としては、主に下記のものが用いられています。
- 賦形剤:D-マンニトール、結晶セルロース、乳糖、ショ糖、トウモロキシデンプン 等
- 崩壊剤:クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 等
- 結合剤:ヒプロメロース、ポビドン、ヒドロキシプロピルセルロース 等
- 滑沢剤:タルク、ステアリン酸マグネシウムカルシウム、ステアリン酸マグネシウム 等
ちなみに、モンテルカストチュアブル錠に用いられている添加物は、D-マンニトール、結晶セルロース、三二酸化鉄、ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、アスパルテーム(L-フェニルアラニン化合物)、香料を用いている製品が多く、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル、軽質無水ケイ酸、プロピレングリコール、アラビアゴム、デキストリン、バニリン、トウモロコシデンプン、アセスルファムカリウムを用いている製品もあります。
7.チュアブル錠の試験法
医薬品として製造されたチュアブル錠は、日本薬局方では錠剤に含まれることから、錠剤の試験法に適合することが定められています。
(1)製剤均一性試験法
個々の製剤間での有効成分量の均一性の程度を示すための試験法です。
有効成分の含量が、表示量の一定範囲内にあることを確認し、均一性を保証します。
製剤含量の均一性は、含量均一性試験又は質量偏差試験のいずれかの方法で試験されることになっています。
第十七改正日本薬局方6.02に詳細な試験法が記載されています。
(2)溶出試験法
経口製剤について溶出試験規格に適合しているかどうかを判定するために、また、著しい生物学的非同等を防ぐことを目的としている試験です。
腸溶性製剤、即放性製剤、徐放性製剤などによって試験方法、判定法が定められています。
第十七改正日本薬局方6.10に詳細な試験法が記載されています。
(3)崩壊試験法
チュアブル錠が試験液中、定められた条件で規定時間内に崩壊するかどうか否かを確認する試験法です。
製造工程のバラツキが小さいことを確認するための品質管理が主目的としています。
第十七改正日本薬局方6.09に詳細な試験法が記載されています。
8.チュアブル錠の医薬品
添付文書情報で、チュアブル錠を調べてみると、以下のようになりました。
- 種類 : チュアブル錠
- 医薬品数(*) : 33以上
- 主な医薬品 : 「キプレスチュアブル錠」「シングレアチュアブル錠」「モンテルカストチュアブル錠」等々
(*)医薬品数はジェネリック医薬品なども含みます。
医薬品数は33でしたが、そのほとんどがモンテルカストを成分とするものでした。
9.チュアブル錠に関する特許・文献調査
(1)チュアブル錠に関する特許検索
J-Platpatを用いてチュアブル錠の特許を調査してみました。(調査日:2022.4.14)
① キーワードによる検索
- チュアブル錠/CL+咀嚼錠/CL →436件
② 特許分類(IPC)による検索
IPCにはチュアブル錠に対応する分類はありませんが、チュアブル錠の特許を見てみると、A61K9/20[特別な物理的形態によって特徴づけられた医薬品の製剤 ・丸剤,ひし形剤または錠剤[2]]が多く付与されているようですので、これを用いて検索してみます。
ただし、A61K9/20は、「丸剤,ひし形剤または錠剤」を対象としているため、キーワードで絞り込みをしてみました。
- A61K9/20/IP ⇒ 17719件
- A61K9/20/IP*[チュアブル/CL+噛/CL+咀嚼/CL]*錠/CL ⇒ 477件
この検索結果中には、「チュアブル錠」「チュアブル錠用組成物及びチュアブル錠」「フェニレフリンを含むチュアブル錠」「アミノ酸含有チュアブル錠」等の発明の名称が見受けられました。
② Fタームによる検索
Fタームにもチュアブル錠に対応するものはありませんので、A61K9/20に対応する4C076AA3[医薬品製剤 形態 ・丸剤;菱形剤;錠剤;トローチ剤;バッカル剤]を用いて検索してみます。
- 4C076AA36/FT ⇒ 19938件
- 4C076AA36/FT *[チュアブル/CL+噛/CL+咀嚼/CL]*錠/CL ⇒ 540件
この中には、IPCによる検索と同じような特許がヒットしていました。
チュアブル錠そのものに対応するIPCやFタームはありませんので、実際の調査では目的に合った検索式を検討する必要があります。
(2)チュアブル錠に関する文文献調査
JSTが運営している文献データベース「J-STAGE」を用いて文献調査を行ってみました。(調査日:2021.4.14)
- 全文検索: チュアブル錠 or 咀嚼錠 ⇒ 110件
- 抄録検索: チュアブル錠 or 咀嚼錠 ⇒ 10件
これらの検索結果には、「炭酸ランタン水和物チュアブル錠の使用経験」「気管支喘息治療薬モンテルカストナトリウム(シングレア®錠·チュアブル錠)の薬理作用と臨床効果」「後発医薬品の生物学的同等性試験における先発医薬品と標準製剤 (先発医薬品) の薬物動態パラメータのバラツキに関する研究 ~モンテルカストチュアブル錠を例として~」といったタイトルの文献が見られました。
これらの文献の内容を確認したい方は、ぜひ各データベースを検索してみましょう。
ということで今回は、「チュアブル錠」に関する基礎知識についてご紹介しました。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)