環境技術化学

CF4とフロンガス:オゾン層破壊効果の差の要因は?

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オゾン層

CF4(四フッ化炭素)とCF2Cl2は、どちらも4個のC-ハロゲン結合を有するガス状分子ですが、オゾン層破壊という点では大きな差があります。

CF2Cl2は代表的なフロンガスでありオゾン層破壊効果が大きいため、既に製造禁止となっています。
これに対して、CF4は半導体エッチング用等の分野で現在も幅広く使用されています。
何がこの差を生んでいるのでしょうか?

 

1.CF4とフロンガス

表1はCF4とフロンガス3種(CF3Cl・CF2Cl2・CFCl3)の性状を、CCl4も含めて、オゾン破壊係数に焦点をあてて比較したものです1)

【表1 CF4とフロンガス等の性状比較】

化学式 CF4 CF3Cl CF2Cl2 CFCl3 CCl4
一般名称 四フッ化炭素 フロン-13 フロン-12 フロン-11 四塩化炭素
分子量 88.0 104.5 120.9 137.4 153.8
沸点, ℃ −128 −81 −30 24 77
オゾン破壊係数 0.0 1.0 1.0 1.0 1.1
主用途 半導体の
エッチング
冷媒
(禁止前)
冷媒
(禁止前)
冷媒
(禁止前)
溶剤
地球温暖化係数
(CO2を1として)
7,380 16,200 12,500 6,230 2,200

表1中のフロンガス3種のオゾン層破壊効果がいずれも非常に高いことは広く知られています。
これらの効果の大きさを1.0と定義し、他物質の効果の大きさを相対的に表したのが「オゾン破壊係数」です。

では、フロンガスはどのような機構でオゾン層を破壊するのでしょうか?

CF2Cl2(フロン-12)を例に、その機構を示したのが式1-式4です2)

 

CF4とフロンガス

 

まず、式1の反応によりオゾンが生成し、このオゾンによりオゾン層が形成されています。

私たちが大気に放出したCF2Cl2がオゾン層に到達した状況を想定してください。
CF2Cl2が紫外線を吸収すると、式2の反応により塩素原子(塩素ラジカル)が発生します。この塩素原子が問題を起こすのです。塩素原子は近傍のオゾンを式3の反応により破壊し、酸素分子と一酸化塩素に変化します。一酸化塩素の状態が維持されれば良いのですが、残念ながら一酸化塩素は、式4により酸素原子と反応しますので、塩素原子がまた発生します。この塩素原子がまた式3の反応によりオゾンを破壊することになります。
つまり、オゾン層で塩素原子がいったん発生すると、オゾンの破壊が連鎖的に継続することになります。

[※関連記事:3分でわかる オゾンの生成・分解プロセス|オゾン層破壊に至るメカニズムがわかる

CCl4のオゾン破壊係数は1.1であり、フロンガスを上回る水準であることが分かります。一方、CF4にはオゾン層破壊効果がないことが確認されており、その係数は0.0と評価されています。

 

2.C-F結合の特異性

CF4では式2-式4の反応が起きません。これはCF4にはC-F結合のみが存在し、C-Cl結合が含まれていないためです。
では、同じハロゲンなのにC-F結合の挙動がC-Cl結合とは異なるのは何故なのでしょうか?
これにはC-F結合の特異性が関与しています。

表2は結合エネルギーの大きさを、C-F結合とC-他のハロゲン結合等とで比較したものです。

 

【表2 結合エネルギーの比較3)
結合エネルギーの比較

 

C-F結合の結合エネルギーは、他のc-ハロゲン結合よりもはるかに大きいだけでなく、C-H結合やC-C結合をも上回っています。つまりC-F結合は切れにくい、非常に安定な結合であることが分かります。これが、CF4が紫外線にさらされてもフロンガスとは異なり分解せず、オゾン層破壊を起こさない最大の要因です。

なお、C-F結合は結合エネルギー以外でも特異な性質を有しています。
この点にご関心のある方は、下記コラムもご参照ください。

[※関連記事:3分でわかる フッ素樹脂とC-F結合 [特徴/技術課題など]

 

3.CF4は大気に排出してもよいのか?

以上のように、CF4はオゾン破壊係数が0.0という点で優れています。しかしこの物質に問題がないということではありません。表1の最下段に示したように、地球温暖化係数の点では他のフロンガスと同様に極めて高い値を持っています。
また、CF4は大気寿命が約5万年と報告されており4)、永遠の化学物質でもあります。
従って、大気への排出は厳重に管理する必要があることをご理解下さい。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)

 


《引用文献、参考文献》


 

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