【分析化学を学ぶ】示差走査熱量計(DSC)の基礎知識
1.示差走査熱量計 (DSC)とは
示差走査熱量計 (DSC : Differential Scanning Calorimetry) は、熱分析の一種であり、温度をプログラムによって変化させながら、試料と基準物質の温度差を温度または時間の関数として測定する装置です。
DSCでは、試料への熱の出入り(吸熱や発熱)を定量的に測定できます。結晶化、熱履歴、ガラス転移、融解などの分析のみでなく、比熱測定や純度測定にも利用できます。
DSC には熱流束型と入力補償型の2種類がありますが、現在広く利用されているのは熱流束型となります。
DSCでは以下に示すような試料の測定が可能ですが、分解してガスを発生する試料や腐食性の物質には向きません。
《測定できるサンプル例》
個体サンプル | プラスチック、ゴム、樹脂、セラミックス、ガラス、金属 |
粉体サンプル | 医薬品、鉱物 |
粘性サンプル | ペースト、クリーム、ゲル |
繊維サンプル | 繊維、テキスタイル |
液体サンプル | 液体 |
2.DSCの測定原理
試料を「パン」と呼ばれる測定容器に入れて測定します。
温度センサーが一つの炉内に配置している構造です。
【図1 装置の概略 ※画像引用1)】
加熱開始すると、試料、基準物質ともに温度上昇します。試料の融解が始まると、融解に熱を使うため、温度は上昇しなくなります。
一方、基準物質はサンプルの融解に関係なく温度上昇を続けます。試料は、融解が終わると再び温度上昇を始めます。基準物質と試料の温度差を検出します。
【図2 基準物質と試料の温度変化のイメージ】
測定には試料と反応しない、適切なパンを選択します。
500℃以下の場合は比較的安価なアルミニウムパンを使用しますが、試料が反応する場合や高温の場合は、アルミナやプラチナなど、その他のパンの使用を検討します。
測定容器の材質 | 最高使用温度など | 備考 |
アルミニウム(Al) | 500℃ | 500℃までの測定で一般的に使用 |
アルミナ(Al2O3) | 1500℃ | 500℃以上の測定で使用 |
プラチナ(Pt) | 1500℃ | 500℃以上の測定で使用、高価 |
SUS | 500℃、耐圧5MPa | 高圧シール容器 |
【表1 測定容器の材質】
3.DSCのデータ例
DSCで得られるデータのイメージを示します。
【図3 DSC測定のイメージ】
このデータではベースラインが階段状に下がる、ガラス転移が見られます。次に発熱ピークによる結晶化が確認できます。融解は吸熱ピークとして現れます。ピーク面積から融解熱を算出できます。
このように、DSCでは熱物性に関する知見を得ることができます。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 Y・I)
《引用文献、参考文献》
- 1) 東芝ナノアナリシス株式会社、示差走査熱量測定(DSC)
https://www.nanoanalysis.co.jp/business/organic/07/ - 2) 株式会社リガク
https://japan.rigaku.com/thermal/thermal/pan/ - 3) 株式会社島津製作所
https://www.an.shimadzu.co.jp/service-support/technical-support/analysis-basics/ta/fundamentals/dsc/index.html - 4) NETZSCH Japan株式会社
https://www.netzsch.co.jp/lp/dsc-fundamentals/ - 5) 岩佐真行(2011). 日本画像学会誌 50, 470-474.