バイオ医薬品(モノクローナル抗体医薬品)製造における細胞培養/クロマトグラフィー/ろ過工程のスケールアップの基本手順及び実践対応
2024/5/20(月) 13:00-16:00
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抗体医薬に関する前回の連載記事「『~マブ』ってどんな薬?」では、抗体医薬の命名法を紹介して、基本知識を解説しました。
今回は引き続き、抗体医薬の命名法の中で「標的を表す部分」に着目して、抗体医薬が活躍するターゲットを解説します。
医薬品の一般名は、WHO(世界保健機関)が決定した一定のルールによって命名されます。
このような名称を国際一般名(INN)と言い、世界共通の名称として使用されます。
例えば、現在販売されている抗体医薬品は下記のようなルールで命名されています(表1)1)。
【表1 代表的な抗体医薬の命名法】
今回は、標的を表す部分に注目していきたいと思います。
抗体医薬は、標的となる組織などの種類に応じて、以下のようないくつかのクラスに分かれています(表2)。
標的を表すサブステム | 意味 |
-c(i)- | 心血管系 |
-l(i)- | 免疫系 |
-n(e)-* | 神経 |
-s(o)- | 骨 |
-t(u)- | 腫瘍 |
-v(i)- | ウイルス |
【表2 抗体医薬の標的サブステム】
従来、高コレステロール治療薬として使用されてきたスタチン系の薬は、投与量を増やしてもPCSK9を増加させて逆に血中LDLコレステロールを増やす働きがあるために効果が不十分となるケースもありました。エボロクマブをスタチン系の薬と併用することで、より高い効果が得られることが期待されています。
この抗体は、同時に2種類の抗原に結合することが可能な「二重特異性抗体(バイスペシフィック抗体)」として設計されています。抗体医薬の共通の特長として半減期が長いことから、最長で4週間に一回の自己皮下注射で済むため、これまで週に1〜3.5回の第VIII因子静脈注射が必要になるなど生活上制限の多かった血友病患者さんのQOL向上に寄与しています。
IL-6は関節リウマチ等の自己免疫疾患、多発性骨髄腫、前立腺癌をはじめとして多くの疾患の免疫反応に重要な役割を有するサイトカインとして注目されています。最近、トシリズマブは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による肺炎の治療に用途が拡大されるなど注目を集めました2)。
PD-1は、京都大学特別教授の本庶佑博士(2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞)により発見された免疫の働きを抑える分子です。抗がん剤といえば、がん細胞に直接作用して死滅させる薬が主流だった中で、免疫系に作用して効果を発揮する点で画期的な薬として注目されています。
[※関連記事:オブジーボの基礎知識はこちら]
この抗体は、三叉神経が放出し、脳の血管を拡張して片頭痛の原因となるCGRPを抑制する片頭痛の「予防薬」です。これまで片頭痛の予防に使用されてきたトリプタン製剤は、片頭痛の痛み始めに飲まなければならないなど、飲むタイミングが難しい薬でしたが、ガルカネズマブは1か月に一回の投与で片頭痛発作の回数を減らすことが確認されています。
上の2つの抗体医薬はいずれも骨粗しょう症に使われている薬ですが、標的となる分子が異なります。
ロモソズマブは、骨を作る骨芽細胞と骨を壊す破骨細胞の両方同時に作用してとても高い効果が確認されているのに対して、デノスマブは、なんと半年に一回の投与で十分な効果が得られるという優れた特長があります。
骨粗しょう症の治療においては、それぞれの特長を生かして、ロモソズマブからデノスマブに切り替えていく「逐次投与」が推奨されています。
トラスツズマブは、1990年代、抗体医薬が登場した初期の頃に開発された薬で、HER2陽性乳がんの治療に広く使用されています。
ペルツズマブもHER2を標的とすることで共通していますが、抗体が結合する場所が異なります。両製剤は、同じHER2分子に結合しても作用メカニズムが異なって併用による相乗効果があることが確認されており、両抗体を配合した新しい製剤も開発されています3)。
上の2つの抗体医薬は、いずれも新型コロナウイルスが細胞に侵入する足がかりとなるスパイクタンパク質に結合して細胞への侵入を防ぐ「中和抗体」となっていますが、結合する場所が異なっています。
ソトロビマブは、比較的変異の可能性が少ないスパイクタンパク質の領域を標的としているため、現在主流となっているオミクロン株に対しても一定の効果を維持していることが確認されています4)。
今回ご紹介した抗体医薬は承認されている品目のごく一部ですが、既に様々な病気の治療に活躍していることがおわかり頂けると思います。
このように、めざましい発展を遂げてきた抗体医薬ですが、近年では新しい創薬ターゲットを見つけることが困難になってきていると言われています。
しかしながら、上にご紹介したエミシズマブ(ヘムライブラⓇ)のように、抗体の高機能化によって既に知られている標的から革新的な治療法が開発される事例も増えてきています。
次回は、抗体の様々な高機能化技術を解説します。
(アイアール技術者教育研究所 A・S)
《引用文献・参考文献》