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LTspiceで学ぶ電子部品の基本特性とSPICEの使いこなし(セミナー)
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「エア・コンディショナー」(通称:エアコン)とは、室内の空気の温度や湿度などを調整する装置であり、一般的には冷房および暖房の両方を行えるヒートポンプ式の空調設備のことを指す場合が多いです。
日本では、1935年(昭和10年)に、冷房機能のみを備えた空気調整機として現在の東芝キヤリアで生産が開始されました。ヒートポンプ式の空調設備、つまり暖房機能も備えたものが登場するのは、1960年(昭和35年)になってからです。
以下、一般的な家庭用エアコンに関する技術について簡単に説明します。
目次
エアコン(Air conditioner)は、室内機と室外機とを備えています(図1参照)。
室内機および室外機には熱交換器とファンがそれぞれ設けられています。
また、室内機側の熱交換器と室外機側の熱交換器との間は2本の配管で接続されています。
室外機内には、一方の配管の途中に四方弁と圧縮機が、他方の配管の途中に膨張弁が設けられています。
2つの熱交換器と配管とで形成される循環経路には熱交換媒体(冷媒)が封入されています。
圧縮機を駆動して冷媒を循環させ、後述するようにして室内を冷房および暖房します。
【図1 エアコンの構成】
熱交換器は、図2のように所定間隔で配置した偏平管の間に、板材を波形に形成したフィンをサンドイッチ状に配置した構成をしています。偏平管同士は、収容した冷媒が蛇行して流動するように接続されています。
フィンには、熱伝導率の高いアルミニウム製の板材を使用し、さらに複数の切り起こしを形成することにより、熱交換が促進されるように工夫されています。
このように熱交換器では、偏平管を蛇行して流動する冷媒がフィンを介して周囲の空気と熱交換する構造となっています。
【図2 熱交換器の一例】
圧縮機は、斜板式、スクロール式など、種々の形式のものがありますが、要するに冷媒ガスを圧縮して送り出す注射器のような役割をする機械です。エアコンの心臓部とも言えるものであり、冷媒ガスを圧縮して液化します。
膨張弁は、通過する冷媒に対して流れ抵抗により圧力降下を生じさせ、冷媒を気化しやすい状態にします。
エアコンには、比較的安価なキャピラリーチューブが使用されています。キャピラリーチューブとは、可動部分がなく、内径が0.6~2mmに形成された銅製の毛細管のことです。冷媒が配管から細い流路であるキャピラリーチューブに流入すると、流速が大きくなり、流れ抵抗を受け、圧力降下を生じさせます。この現象は「絞り膨張」と呼ばれています。
室内側のファンには、クロスフローファンが使用されています(図3右側の黒い部分)。
クロスフローファンは、筒型で、周方向に複数のランナーと呼ばれる板状の羽根が一定間隔で配置され、回転することでランナー内を通り抜ける貫流を発生させます。
このクロスフローファンは、プロペラ型のものとは違い、風を遠くまで散らばることなく送ることができるという特徴があります。
【図3 クロスフローファンの例】
冷媒は、室内機と室外機の間を循環して熱を移動させるための物質です。冷媒に最も使用されているのはフロン類と称される各種のガスですが、オゾン層破壊の原因となるため、特定物質の生産は中止されています。
現在では、オゾン層破壊の影響がないHFC類冷媒ガスであるR32が多く使用されるようになってきているようです。
四方弁を実線で示すように切り替えます。圧縮機を駆動すると、冷媒は室外側の熱交換器に流入します。
このとき、冷媒は、膨張弁を通過して気化しやすい状態まで減圧されます。減圧された冷媒は、室外側熱交換器を流動する際、室外側ファンによって通過する外気に放熱します。
続いて、冷媒は室内側熱交換器を流動する際に気化し、室内側ファンによって通過する室内側の空気から吸熱します。これにより、室内側の空気が冷却されます。気化した冷媒は、圧縮機に戻って再び圧縮されて液化します。これら一連の動作が繰り返されることにより冷房運転が行われることになります。
四方弁を点線で示すように切り替えます。圧縮機を駆動すると、冷媒は、高温状態に圧縮された冷媒が室内側熱交換器を流動し、室内側ファンによって通過する室内側の空気に放熱します。
放熱して温度低下した冷媒は、膨張弁で減圧された後、室外側熱交換器を流動する際、気化して室外側ファンによって通過する外気から吸熱します。外気から吸熱した冷媒は、圧縮機に戻って再び圧縮されて高温・高圧状態となります。これら一連の動作が繰り返されることにより暖房運転が行われることになります。
除湿運転には、弱冷房除湿と、再加熱除湿(再熱除湿熱)とがあります。
弱冷房除湿とは、弱めの冷房運転であり、室内に湿度を下げることを主眼として行う運転です。室内の温度は若干下がることになります。
一方、再加熱除湿とは、2つの室内側熱交換器の一方で、一旦、室内空気を除湿・冷却した後、他方で再度加熱することにより、冷やしすぎた空気を温める運転です。
これについては、後述する再熱除湿熱リサイクル方式の欄で説明します。
インバータとは、家庭用電源である交流を一旦、直流に変換した後、再び交流に変換することで、周波数と電圧の大きさを自由に変更することです。
圧縮機を駆動するモータの回転数を高精度に制御することにより、室内が設定温度に到達するまでは高速でモータを回転させ、設定温度に到達すればモータの回転数を低速回転させることにより不必要に回転数が増減することがなく、省エネを図ることができるようになっています。
除湿運転では、室内の湿度だけでなく温度も下がることがあります。
「再熱除湿熱」は、温度を下げずに除湿する機能です。再熱のために室外機から排熱される一部の熱を室内側に取りいれる熱リサイクル方式を採用することで、電気ヒータなどを使用しないため、省エネが可能となります。このため、図1で示した空調サイクルに対し、室内機にもう一つ熱交換器を備えた構成となっています。
すなわち、図4に示すように、室内機内には、第1熱交換器と第2熱交換器とが直列接続されており、第1熱交換器で通過する空気を冷却・除湿した後、第2熱交換器で再加熱しています。
【図4 再熱除湿熱リサイクル方式のポイント】
メンテナンスフリーとは、フィルターなどの掃除を自動で行う機能を指します。
例えば、次のようなものがあります。
有害物質除去とは、室内機内で発生したカビなどを無害化したり、除去したりする機能です。
例えば、次のようなものがあります。
業務用などを含めると世界第1位のシェアを誇るエアコンメーカーです。
特徴としては、冷暖房だけでなく、加湿や除湿機能に優れている点です。室外機で外気から水分子を集め、室内側へと供給します。給水が不要な世界初の技術とされています3)。
ダイキン工業と国内のエアコンシェアを争っています。
特徴は、「清潔」にこだわっている点です。結露水に高電圧をかけてOHラジカルを発生させたナノイーXを生成し、このナノイーXで、カビや花粉を無害化することができるようになっています4)。
「ムーブアイ」と言われる赤外線センサによって室温やそこにいる人の体温を測り、最適な空調環境を実現しています。
また、同社サイトによると霧ヶ峰FZシリーズは「5年連続省エネNo.1」とされています。一般に使用されているクロスフローファンに代えて、プロペラファンを使用するという工夫がなされているようです5)。
プラズマイオンを発生させてカビの繁殖を抑制する機能を備えた製品を出しています。
また、ファンを逆回転させ、ホコリを排水トレイに集めたり、ファンを逆回転させて、その先端に付着したホコリを除去したり、ブラシを高温加熱した熱交換器に接触させて油汚れを除去したり、急速冷凍で熱交換器に霜を発生させ、その後解凍して汚れを洗い流したりするなど、様々な特長を有しています。
外気温が非常に低いあるいは高い場合でも室内に冷暖房を適切に行えるように、室外機に様々な工夫がなされている製品が多いです。
ブラシが自動でフィルタをこすり、ホコリを取り除く機能なども備えています6)。
近年、アイリスオーヤマやハイセンスなどのメーカーも売上を伸ばしてきています。
これは、上記メーカーに比べて低価格であり、Wi-Fi機能を搭載するなど、コストパフォマンスに優れていることが理由のようです。
(アイアール技術者教育研究所 T・N)
《引用文献、参考文献》