建築用塗料における塗膜欠陥の種類と対策《塗料/コーティング技術入門⑦》

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建築用塗料の塗膜欠陥と対策《塗料/コーティング技術入門⑦》

建物の美観にも関わる外壁塗装は綺麗に仕上げておきたいものです。
もちろん塗装業者はノウハウを有しており通常は綺麗に塗装されますが、作業上のミスや塗料成分の影響で欠陥が生じてしまうことがあります。欠陥には「はじき」や「ブツ」、「ピンホール」などがあります。

連載7回目となる今回は、建築物の外壁用塗装で現れてしまう欠陥とその対策について解説します。

1.塗装作業に起因する塗膜欠陥

塗装欠陥①:たれ

「たれ」とは、塗装時に塗料が垂れてしまい、下の方が厚くなってしまう現象です。
垂れた状態でそのまま硬化させると、たれ跡が残った形で塗膜形成されてしまい、目立つ外観となってしまいます。

たれの主な原因は厚塗りと薄めすぎです。塗料メーカーは、たれの発生しにくい粘度になるよう塗料を設計していますが、現場で塗料をシンナーや水で薄める際に適正量を守らずに薄めすぎてしまうと、低すぎる粘度が原因でたれが生じます。薄める際や主剤/硬化剤を混合する際は適正量を守る必要があります。

 

塗装欠陥②:ブツ

「ブツ」とは、塗膜に点状のブツブツが発生する現象です。

主な原因は、塗料中に混入したゴミやほこりであり、ゴミそのものがブツの正体です。主剤と硬化剤を混ぜる際、攪拌棒にゴミが付着しているとブツの原因になります。

塗装の現場では塗装用の器具や作業員の衣服を清潔にしておくことが重要です。また、塗装前の外壁に付着していたゴミが原因となることもあるため、必要に応じて被塗物を拭いておくことも対策となります。稀に塗料メーカーの製造現場で異物が混入し、ブツの原因となってしまうこともあります。ブツが生じてしまった場合は、「吉野紙」などで塗料をろ過するとブツの原因物質を取り除くことができます。

 

塗装欠陥③:はじき

「はじき」は、図1のように一部がはじかれた状態で塗膜が形成される現象を表します。

 

はじき発生メカニズム
【図1 はじき発生メカニズム】

 

はじきの主な原因は油分や水分、異物の混入です。液状の物質は一般的に表面張力が異なると混ざり合わず、お互いを避けようとする性質があります。塗装の際に油分が混入していると互いを避けた状態で硬化が進み、油滴があった部分が「はじき」として残ります。
また、混合するタイプの塗料では混合が不十分だと塗膜の一部に表面張力の差ができてしまうため、はじきが生じてしまう場合もあります。

刷毛やローラーを清潔にしておく、塗装前の外壁から水滴・油滴を取り除く、潤滑油などの油性分を塗装現場に近づけないなどの対策を取っておくことが重要です。

 

塗装欠陥④:ピンホール

ピンホールは「はじき」と同様、一部がはじかれた状態の塗膜が形成される現象です。一定の大きさを有するものが「はじき」、針穴サイズのものが「ピンホール」と呼ばれます。

油分や異物の混入など、はじきと同じ原因で発生することもありますが、下塗りの硬化不足も原因の一つです。塗膜の硬化・乾燥が十分に進んでいない状態では、下塗り塗膜に空気が含まれています。この状態で上塗り塗装を施すと、下塗り塗膜から抜け出した空気が上塗り塗料をはじいてしまい、はじかれた部分がピンホールとなって残ります。

下塗り塗膜が十分に硬化してから上塗りを塗装する、製品仕様書に書かれた適切な気温で塗るといった対策が求められます。

 

塗装欠陥⑤:リフティング

「リフティング」とは、しわ状となってしまう外観不良のことです。重ね塗り塗膜にのみ発生し、1回塗りの塗膜には生じません。

一回生じてしまうと、リフティング部の塗膜を全て取り除き、再度塗りなおさなければならないため厄介な欠陥です。下塗り塗膜の硬化が不十分な状態で塗った場合に生じやすくなります。
また、弱溶剤・水系塗料の塗膜の上に強溶剤塗料を塗ると、下塗り塗膜が溶剤に侵されて流動性を持つようになり、リフティングが生じます。

下塗り塗膜の硬化を待ってから上塗り塗装をする、または、メーカーの塗装仕様書に沿った上塗り塗料を選ぶことでリフティングを防ぐことができます。

 

塗装欠陥⑥:ゆず肌(オレンジピール)

外壁塗装ではあえてゆず肌に仕上げる塗装もありますが、ここでは欠陥について取り上げます。
「ゆず肌」は平滑性に乏しい凹凸状の塗膜ができる欠陥です。

スプレー塗装で生じやすく、スプレーガンのスピードが速すぎる、塗料の粘度が高すぎるなどの原因により、塗装直後の塗膜の流動性が失われることで生じてしまいます。スプレーガンの速度を下げる、希釈剤で粘度を下げるといった手法で改善できます。

刷毛やローラー塗りでも厚塗りが原因でゆず肌が生じる場合があります。塗る前に刷毛・ローラーから余分な塗料を落としておくことが重要です。

ゆず肌は塗装作業者の習熟度による影響が大きい塗装欠陥といえます。

 

塗装欠陥⑦:艶びけ・艶ムラ

外壁用塗料では「艶有り・7分艶・5分艶・艶無し」など、同じ製品シリーズでも塗膜の光沢度によって異なる塗料が提供されています。艶有りはキラキラしたような外観となり、艶無しはマットな外観となります。
目標とする艶が得られない塗装欠陥が「艶びけ」や「艶ムラ」です。

艶びけは艶が目標よりも低くなってしまう欠陥で、下地による塗膜の吸い込みや下地表面の粗さによる上塗り表面の平滑性低下が原因で生じます。下塗り塗膜の硬化不足が要因で生じる場合もあり、艶びけの多くは下地・下塗り塗膜の欠陥が原因で発生します。

艶ムラは部分的に光沢のムラが生じる現象で、艶びけと同様の要因で発生します。

これらの欠陥が発生した場合は、塗膜をはがし、再度下地調整からし直す必要があります。

 

塗装欠陥⑧:色ムラ

「色ムラ」とは、同じ塗料を使っているのにも関わらず塗膜上で部分的に色違いが生じてしまう現象です。
一部だけやや白っぽい、彩度がやや高いなどの欠陥が発生します。

現場で調色する際に混合が不十分だと、塗料全体の顔料比率が均一にならず、塗装時に色ムラが発生します。稀に塗料メーカーにおける製造時の不具合(顔料分散不足・混合不足)が原因で生じる場合もあります。
 

以上、塗装時のミスによる欠陥を紹介しました。

 

2.長期で現れる塗膜欠陥

次に長期で現れる欠陥について見ていきましょう。こうした欠陥は塗装時に正しい手法をとっていても、紫外線・化学物質への長期暴露が原因で生じてしまいます。

 

塗膜欠陥①:割れ・クラッキング

「割れ」は、文字通り塗膜外観が割れてしまう現象です。

 

クラッキングの例
【図2 クラッキングの例】

 

塗膜が外気に晒され続けることで収縮を繰り返し、柔軟性を失って割れが生じてしまいます。厚膜であるほど塗膜内部の凝集力が高まるため、割れが生じやすくなります。樹脂骨格の破壊を促進する紫外線や排ガス成分も割れの間接的な要因となります。
また、経時的に生じてしまうコンクリート面の割れに追従する形で生じる場合もあります。

フッ素系樹脂を配合した耐久性の高い塗料や、柔軟性に優れた塗膜を形成する塗料を使うことで、短期での割れ発生を防ぐことができます。
発生してしまった場合には、塗膜を剥がし、塗りなおす必要があります。

 

塗膜欠陥②:剥がれ

「剥がれ」は、塗膜が下地・下塗り塗膜から剥がれてしまう現象です。
一度発生してしまうと、周辺部まで手で簡単に塗膜を剥がすことができてしまいます。

 

剥がれの例
【図3 剥がれの例】

 

剥がれも割れと同じく、長期での柔軟性低下や樹脂成分の破壊によって生じるため、耐久性に優れた塗料を使用することで発生を防ぐことができます。

なお、メーカーの塗装仕様書を守らず相性の悪い下塗り・上塗り塗料を選択してしまうと剥がれが生じやすくなります。

 

塗膜欠陥③:膨れ

「膨れ」とは、塗膜上に膨らんだ部分が発生する現象で、水疱瘡のように点在して発生するものや一定面積の一部分にのみ発生するものがあります。

水(水蒸気)が要因であり、塗膜内部に浸透した水が長期で塗膜を押し上げることにより発生すると考えられています。実際に塗装板を長期で高温高湿下に設置する湿潤試験を実施すると、膨れが発生する場合があります。水蒸気が抜けにくい緻密な塗膜であるほど膨れが発生しやすい傾向にあります。

上記の塗膜欠陥と同様、耐久性の優れた塗料を使用することで発生を防げますが、発生してしまった場合は発生部全体の塗膜を剥がし、下塗りから塗装しなおす必要があります。

 

塗膜欠陥④:白亜化(チョーキング)

「白亜化」とは、塗膜表面に粉がむき出しとなっている状態です。

黒板上にチョークで書いた文字のように、手でこすると白い粉が付着します。この粉の正体は酸化チタンなどの塗膜中の顔料分です。塗膜中の主な成分は樹脂と顔料ですが、紫外線によって樹脂成分が長期で破壊され、顔料分だけが取り残されることで白亜化が発生します。

耐久性の優れた塗料を使う塗膜の耐用年数が来る前に外壁の塗り直しを行うといった対策が求められます。
白亜化が発生してしまった場合は徹底的に粉を洗い流し、塗りなおす必要があります。

 

塗膜欠陥⑤:変色・光沢低下

変色・光沢低下は、色や光沢が初期の状態から長期で変化してしまう現象であり、光沢に関しては徐々に低下、色に関しては彩度の低下がみられます。

いずれも長期の紫外線・化学物質への暴露による樹脂成分の劣化が原因として発生します。変色についてはベンゼン環含有樹脂が紫外線を受けて構造変化することで発生する黄変のほか、カビ自体の付着による黒変などもあります。
色や光沢の変化は長期で徐々に起きるため気づきにくい欠陥ですが、一般的には割れや膨れ、白亜化が発生する前段階で発生します。

こうした欠陥を未然に防ぐためにも、外壁がやや暗いなと感じたら塗りなおす必要があります。

 

3.まとめ

 

【表1 外壁塗装における主な欠陥一覧】
外壁塗装における主な欠陥一覧

 

以上、塗装作業に起因する塗膜欠陥と長期で現れる塗膜欠陥について解説しました。
以下3点を守ることで、作業上のミスおよび経時変化で現れる欠陥を未然に防ぐことができます。

  • ①塗装環境を清潔に保ち、正しい塗装法を実践する。
  • ②メーカーの仕様書に沿った塗料の組み合わせを選ぶ。
  • ③塗膜の耐用年数が来る前に塗り直しを行う。

 
 
(アイアール技術者教育研究所 G・Y)

 


≪引用文献、参考文献≫

  • 1)図解入門よくわかる最新塗料と塗装の基本と実際,秀和システム(2016)
  • 2)早わかり塗料と塗装技術,日本理工出版会(2010)
  • 3)色材協会誌,Vol.69,No.1,45-59(1996)
  • 4)日本ペイント株式会社 Webサイト 「用語集」
    https://www.nipponpaint.co.jp/nippelab/term/

 

 

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