動作や表示を行う回路ブロック [モータ駆動回路/LED駆動回路の例]《機械装置設計者のための電子回路入門③》
この連載コラムでは、機械装置の開発設計に携わっている機械系技術者、ファームウエア技術者の方々向けに、電子回路設計を理解するための導入的な解説をしています。
今回は、機械装置としてなんらかの動作や表示を行うための回路ブロックとして、モータ駆動回路ブロックとLED駆動回路ブロックを例にご説明いたします。
目次
1.モーター駆動回路ブロック
名前から明らかなように、モータを所望の回転状態で制御・駆動する回路ブロックです。
といってもモータには、
- 直流モータ:ブラシ付きモータ ブラシレスモータ サーボモータ
- 交流モータ:誘導モータ 同期モータ サーボモータ
など、様々な種類があり、モータの種類によって駆動する方法、電源種類、制御方法が異なります。
ですので、モータ駆動回路ブロックの構成も様々で、詳細に学習しようとすると厚い教科書を最低2冊は読み込まなければならないぐらいのものになります。
本コラムは、モータの構造や動作原理について説明するものではありませんので、回路側からの観点で、マイコンからモータを制御・駆動する場合に共通する構成を取り上げて解説します。
(1)モータ駆動回路ブロックの構成
みなさんも学校の理科の実験でモータを製作した、あるいは、動かした記憶があると思います。
回転部に導線が巻かれ、そのまわりに永久磁石、ブラシと整流子によって回転部の卷線に外部から電流を流したことくらいはご記憶でしょうか。
上記のように、モータにはいろいろな種類がありますが、回路側から見たモータを構成する要素と駆動方法は、むかし理科の実験で経験されたものと類似で、
- モータ内に、導線を鉄芯などに巻いたもの(「卷線(コイル)」といいます)がある。
- それに電流を流すことで、出力軸が回転する。
というものです。
しかし、一般的に使われるものは、理科実験のモータのような簡単なものではなく、
- ブラシや整流子がなく、卷線が複数あり、その数やつながり方、電流の流し方が様々。
- 回転数や回転角を制御するために、モータの回転角を検出するセンサを内蔵していて、センサの検出信号が出力されるものが多い。
というのが実情です。
ですから、モータ駆動回路ブロックは一般的に図1のような構成になります。すなわち、マイコンからのモータ駆動司令に従い、モータからの回転角検出信号を見ながら、指令されたような回転条件、あるいは回転角になるよう、モータ卷線に電流を流す、というものです。
【図1.モータ駆動回路ブロックの一般的な構成】
なお、モータは通常、マイコンが動作するよりかなり高い電圧で動作するので、モータ駆動電源を含む構成としています。
(2)モータ卷線の駆動回路について
ここで、モータ卷線に電流を流すための駆動回路の例をご紹介しましょう。
① 最も簡単なモータ駆動回路例
図2(a)は最も簡単な、理科実験レベルの、モータを単に回転/停止をスイッチで切り替えるだけの、モータ駆動回路を示したものです。
回路から見える卷線が1つだけで、図2(a)のように、モータ卷線に流れる電流をスイッチでON/OFFするだけのものです。
【図2 (a)最も簡単なモータ駆動回 (b)実際の回路構成例】
スイッチ素子としては、例えば(b)に の回路記号で示すFET(電界効果トランジスタ)と呼ばれる素子が使われます。この素子は単なるスイッチとして、あるいは電流制御素子として、など非常に広範に使われるものですから、回路の知識を得ようとする方には勉強必須の素子ですが、ここでは電子スイッチとして使われているとご理解ください。
またモータの横に の回路記号で示す素子が接続されていますが、これはダイオードという電流を一方向にだけ流す半導体素子です。
モータの卷線が導体を巻いたものであるために、コイルという電子部品の特性を併せ持ち、電流をオン/オフするときその変化を妨げる方向に電圧が発生するため、それを吸収しFETが破壊するのを防ぐためのものです。コイルという電子部品のインダクタンスという特性について調べることで、理解することができますので、是非調べてみてください。
② 正転/逆転切換型駆動回路例
次に、図2と同じモータを正転と逆転を切り替えて駆動する場合についてご紹介します。
モータは基本的には、卷線に流す電流の向きを逆にすれば回転方向も逆になりますので、図3の回路構成例のような回路が使われます。
その形からHブリッジと呼ばれるものですが、図3(b)(C)のように2つ一組のスイッチのオン/オフを切り替えることで、モータに流れる電流の方向が赤→、青←の方向に切り替わり、回転方向が逆になることがご理解頂けると思います。
【図3.正転/逆転切換型駆動回路構成例 ※左から(a)(b)(c)】
図4にHブリッジ部分の実際の回路構成例をご紹介します。
この回路例でも、FETに並列にダイオードが接続されていますが、役割は上記の通りです。
実はこうしたHブリッジ型モータ駆動回路が集積されたICが複数の半導体メーカで製品化されています。
【図4.Hブリッジ部回路構成例】
③ 三相ブラシレスモータの駆動回路例
次に、機械装置に使われることが多い三相ブラシレスモータの駆動回路例をご紹介します。
三相ブラシレスモータというのは、図5に示すように、U、V、Wの3相の卷線があり、回転位置を検出するセンサが内蔵されていて、回転位置を見ながら、例えば図中①~③の順番と方向で、電流を流すように駆動するものです。
【図5.三相ブラシレスモーターの回路的構成】
卷線の駆動回路としては図6にご紹介する、先ほどのHブリッジを拡張したような回路が使われます。
しかし、実際のこうしたモータの駆動方法には、電流・電圧の制御方法をはじめとした非常に多岐にわたる技術があり、各スイッチのオン/オフ制御で非常に精緻な回転数制御がなされ、それは「回路の技術」というより「モータの技術」というのが適切なものです。
【図6.三相ブラシレスモータ駆動回路の例】
(3)モータ駆動回路ブロックのまとめ
モータの種類や制御方法は様々ですが、モータ制御回路ブロックとして共通的な構成は、
- マイコンからの制御指令を受け取るインタフェース部
- モータ卷線駆動回路
- 回転角センサ信号検出回路(モータ種類によっては不要)
となります。
モータ卷線の駆動には、FETなどをスイッチとして組み合わせた回路構成がしばしば用いられ、各スイッチのオン・オフタイミング制御により様々な制御がなされます。
こうしたモータ駆動回路では、極論すれば、回路は単に電流をオン・オフしているだけで、どのようにオン/オフするかが、モータを駆動する技術として重要と言えると思います。
2.LED駆動回路ブロック
LEDつまり発光ダイオードを駆動するものです。
LEDは、所定範囲の電流を流すことで発光し、発光輝度は電流の大きさに比例します。
図7のように、ここでもFETの電子スイッチが電流のオン/オフを切り替えています。また、電流の大きさは、電源電圧と抵抗器で決まります。LED電流の設計方法は非常に簡単ですから、是非考えてみてください。
また、これに限らず、FETを電子スイッチとして利用し、装置の何らかの出力を駆動することはとても頻繁に行われます。
図7に類似する回路構成での電圧・電流設計の考え方を理解できれば、いろいろな場面で役立つことでしょう。
【図7.LED駆動回路の例】
ということで今回は、機械装置から出力を行う回路ブロックとして、モータ駆動回路ブロックとLED駆動回路ブロックについて解説しました。
次回は、第2回目に一般的な構成をお話したセンサブロックについて、代表的なセンサを用いる場合の回路構成(センサ素子検出信号を電圧信号に変換する回路)をご紹介します。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・M)
【連載:機械装置設計者のための電子回路入門】
- 第1回:機能ブロック図による基本設計把握
- 第2回:センサブロックの構成と処理
- 第3回:動作や表示を行う回路ブロック [モータ駆動回路/LED駆動回路の例]
- 第4回:センサ素子検出信号を電圧信号に変換する回路
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