デジタルヘルスとは何か?健康長寿社会を実現するための注目テクノロジーを解説

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デジタルヘルスとは

最近、人工知能などの様々なデジタル技術が注目されています。
今回は、医療・ヘルスケア分野へのデジタル技術の応用として注目されている「デジタルヘルス」についてご紹介します。

1.デジタルヘルスの基本知識

(1)デジタルヘルスとは?

デジタルヘルス」とは、人工知能やIoT、ウエアラブルデバイス、仮想現実(VR)など最新のデジタル技術を活用して、病気の診断や治療または健康維持の効果を高めることを意味します。
 

(2)従来の医療の課題

これまで医療サービスは、一般的に病気になってから、患者が病院などの医療機関を受診して提供されるものでした。

しかし、私たちの平均寿命が伸びて高齢化社会になるとともに、定期的に医療機関を受診する身体的な負担や、受診時以外にも常に変化する体調を管理する方法など解決しなければならない課題が増えてきました。何より日本の2021年度の予算ベースで40兆円を超えるように年々増え続ける医療コストも大きな問題です。
 

(3)なぜ医療にデジタル技術なの?

皆さんの家には体温計や血圧計といった測定機器があり、毎日の健康管理に活用している方も多いと思います。

しかし血液検査、超音波や心電図の測定をしようとすると、検査装置は病院などの医療機関にしかなく測定やデータの解析も専門家にしかできないので、健康診断や通院の時に測定するしかありませんでした。

もしこれらの高度なデータが家で簡単に測定出来て、心配な時はそのデータを送信して家にいながら医師にすぐに相談できるシステムがあれば便利ですよね。

このような新しいデジタル技術やデバイスの開発が、患者さんのライフスタイルに寄り添った医療サービスの質の向上と通院回数の削減などの社会的な医療コスト削減を同時に実現可能とするものとして近年期待されているのです。
 

(4)医療にデジタル技術を活用するとどうなる?

例えば、アップル社から「Apple Watch」という腕に装着するタイプのウエアラブルデバイスが発売されているのをご存知の方も多いと思います。最新のApple Watch Series 7には心電図測定機能や血中酸素濃度を測定する「血中酸素ウエルネス」という機能が搭載されており、装着している間、これらの身体に関するデータ(バイタルデータ)を24時間365日、日常的に収集することが可能になります。

これらのデータを私たち自身が健康管理に役立てることができるのはもちろんですが、ネットワーク技術を用いてそれらのデータを医療機関などとリアルタイムに共有すれば、医師が自宅にいる患者に直接アドバイスすることも可能になります。このような患者さんと医療機関との「常時接続性」の向上がデジタル活用に伴う大きな変化です。
 

デジタルヘルスの概念図
【図1 デジタルヘルスの概念図】

 

2.デジタルヘルスの具体例

(1)ウエアラブルアデバイスを用いた健康管理

自分の健康状態をモニターして管理したいという需要が高まり、ユーザーが腕などに身につけて身体の状態や運動のデータを計測できる様々なウエアラブルデバイスが発売されています。

上の項目で述べたApple Watchの他にも、同じくリストバンドタイプの「FitBit」があります。FitBitは、米国の FitBit社が開発した製品で、毎日の運動量、心拍数、睡眠時間などを細かな数値で記録して分析してくれる「フィットネストラッカー」機能が特徴です。そのFitBit社は、2021年にApple 社のライバル企業であるGoogle社に買収されるなど巨大IT企業による競争が激しい分野でもあります。
 

(2)オンライン診療

医師の診断を自宅にいながらビデオ通話などオンラインで受けられる「オンライン診療」は、最近はコロナ禍で注目されているのをお聞きになった方もいらっしゃると思います。

日本では離島や僻地など医療へのアクセスが困難な地域を対象に1997年から一部で「遠隔診療」として始まっていましたが、2018年3月に保険診療報酬制度が改定され、「オンライン診療」と呼び名が変わって都市部の患者も広く利用可能となりました。

オンライン診療システムであるメドレー社の「CLINICS」は、ビデオ通話による診療だけでなく、Web予約、事前問診、診療代金の決済、薬局への処方箋データの送信など、遠隔での受診をシームレスに完結させるために必要な機能が備わっています。
 

(3)デジタル治療用アプリ

医療のデジタル化は、診察だけでなく直接的に病気を治療する分野にも進出しており、「デジタル治療 (Digital Therapy: DTx)」と呼ばれています。

米国の Alili Interactive Lab社は、小児の注意欠如・多動症(ADHD)を治療するスマートフォンゲームアプリ「EndeavorRx」を開発し、米国食品医薬品局(FDA)の承認を2020年に取得しています(日本では塩野議製薬と共同で臨床試験中)。

本製品は、ゲームを通じて患者ごとに設定された課題を行うことで、認知機能において重要な役割を果たす脳の前頭前野を活性化することで、小児のADHDを改善するとされています。

デジタル治療用アプリは映像や言葉による治療であるため、従来の医薬品のような副作用が少ないのが特徴で、医薬品を補完する新たな治療選択肢としてデジタル治療が注目されています。
 

(4)女性のための健康管理技術(フェムテック)

フェムテックFemTech)とは、女性(Female)とテクノロジー(Technokogy)を掛け合わせた造語で、生理周期や不妊、妊娠、更年期障害など女性が抱える健康上の課題をテクノロジーで解決する製品やサービスのことを指します。

エムティーアイ社が開発した「ルナルナ」は、基礎体温や生理日などの情報をスマートフォンアプリ上に記録し、生理周期に基づいて生理日・排卵日の予測のほかに、当日の身体や心のコンディションを見やすく表示したりもできます。更に、データを医師やパートナーと簡単に共有する機能も用意されているなど、これまで口に出して言いづらい雰囲気のあった「性」の問題を解決する手段の一つとしてデジタルヘルスが期待されています。
 

3.デジタルヘルスのメリット、デメリット

(1)デジタルヘルスのメリット

これまで具体例を挙げてみてきたように、スマートフォンなどの高度な通信技術の普及も手伝って、デジタルヘルスは医療へのアクセスに困難を感じていた人たちのアクセス向上に寄与しています。
また、人工知能チャットボットを使って治療後のフォローやリハビリ・介護の効果を高める取り組みも始まっており、デジタルヘルスの普及で医療従事者の負担を必要以上に増やすことなく医療サービスのクオリティが高まることが期待されます。

更に、デジタルヘルスを通じて患者さんの様々な情報がデータ化されることから、データを寄せ集めてビッグデータとして解析することで新たな知見が生み出され、有用な新サービスとして患者さんに還元することも可能になります。
 

(2)デジタルヘルスのデメリット(課題)

デジタルヘルスの課題としては、大きく分けて、プライバシーの保護とデジタル技術に対する信頼性の2点があげられます。
 

① プライバシーの保護

私たちの身体や健康にする情報は究極の個人情報です。ウエアラブルデバイスが普及すると、私たちの体調に関する情報が知らず知らずのうちに収集されることになるので、デジタルヘルスサービスを提供する企業は、データの流出や不正な利用への備えをしっかりするなどの対策が必要になります。
 

② デジタル技術に対する信頼性

医薬品や医療機器に関しては各国で公的機関による承認制度があり、効果や安全性が一定程度担保されていますが、スマートフォンアプリが医療機器に含まれるか曖昧な点もあり効果が消費者にわかりにくくなっていることもデジタルヘルスの普及の壁になっています。

信頼性を高めるための法制度の整備なども今後必要になると考えられます。
 

4.デジタルヘルスの発展に要注目

新型コロナウイルスの流行をきっかけとして、米国をはじめとして世界各国で医療のデジタル化が加速しました。
日本はデジタルヘルスの活用でまだ発展途上ですが、少子高齢化に伴う社会の負担を減らすために医療のデジタル化の流れは続いていくと考えられます。
医療データの取り扱いには慎重に対応しつつも、私たちの生活をより便利にするデジタルヘルスの発展に期待したいと思います。

 
次回は、デジタルヘルスの要素技術(医療検査/診断支援/治療・健康改善関連)をご紹介します。

 

(アイアール技術者教育研究所 A・S)
 
 

 

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